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「おーい、起きろー。遅刻すんぞ」
暗かった視界に無理やり意識が割り込んだ。
ああ、目を閉じていたから暗かったのか、と納得。
無理やり重い瞼を持ち上げるとそこにはみなれた顔がこちらを覗きこんでいる図があった。
「・・・邪魔なんだけど」
「・・・せっかく起こしてやったのにそれはなくね?」
「助カッタワアリガトウゴザイマシタ」
「・・・いや、もっと感謝の気持ちをさぁ、」
「俺的普段の感謝と愛もこめた最大表現だったんだけど」
「・・・お前の愛って驚くほどちっさいな」
「うるせぇな仕方なく愛してやってんだから文句付けんな」
「う、うーん?ありがとう?あれ何の話してたんだっけ?」
隣でうんうん唸ってる幼馴染を問答無用でどかして(蹴っ飛ばしたとも言うかもしれない)、着替える準備をする。
学校指定の臙脂色のネクタイを手にとって、ふと今日見た夢の記憶を手繰り寄せてみた。
(今日は違ったな)
夢を見て、起きた後はその夢を忘れるというけれど、俺は実際結構覚えてると思う。
それこそ3歳のときの夢まで、事細かくとまではいかないが断片的に、瞼の裏に映った途切れ途切れのシーンが今でも繰り返されるほどに。
今日はそうではなかったが、良く見る夢がある(ついでに今日の夢は初めて見たと思う)。
いつも同じ人物が俺を呼んでいる。その中での俺の名前はダレルで、14歳の時に物心ついたころからいた孤児院から逃げ出して、森で倒れていたところをたまたま通りかかった英国屈指の大財閥の一人娘に拾われた男。
その俺を呼んでいる同じ人物というのがその箱入り娘のお嬢様、ディーナ・セシル。俺はそれからその人に恋をしたが、叶ったような夢は見たことがない。
しかし、とにかくその人と会う夢の中の空間は何故か楽しかった。
脳というものは海馬がいらないと判断した情報を捨てていくといつか聞いたことがある。
この記憶がまだ自分のなかにとどまっているという事は、この夢は自分にとって必要なものなのか、と思ったこともあった。
俺もこの夢を忘れたくはないから、これが「必要」なのだと判断してくれた海馬には感謝感謝だ。功労賞を与えたい。いやマジでホント。
自分の脳に感謝、というのも奇妙ではあるが。
「ん?何ニヤけてんの?キモっ」
「少なくともヒロよりはましだな」
「えっ嘘俺キモい?」
「うんきもい」
「ぎゃああああどうしよう整形しようかな俺!」
[retrace past][to the future]
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