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神様の憂鬱
この世界での“設定”







「………はぁ」

例の鍵を使って自分の家になるらしい部屋の鍵を開け、中へ入る。マンションの外観から受けるイメージを裏切らない広さに、煩くない程度の装飾が施されていて、一目で“良い部屋”だと確信した。

取りあえず、玄関から見える扉を片っ端から開いていけば、手前から物置、私室兼寝室、リビングとあり、キッチンは何故か対面式でリビングと繋がっている。冷蔵庫の中を見ても、一週間は食べて行けそうな量が入っていた。






「疲れた……」

部屋の真ん中に置いてあるソファの一つに身を投げ出して、制服のネクタイを緩める。ついさっき起きて家を出たばかりなのに、もう学校が終わった時みたいだ。劇的な環境(というか世界)の変化は、本人が自覚していないところでも、体に負担を掛けていたらしい。

(……ん?)

ふと、今の体勢のようにダラダラと回っている思考の中に出て来た一つの言葉に、引っ掛かりを覚えた。

「学校?」

口に出してみれば、余計に増す違和感。何故だろうと考えても何も思い浮かばず、手掛かりが無いかと首を巡らせてみたら壁に取り付けられたデジタル時計に目が止まる。


“AM10:23”


「………あ」

そうだ。今の時間帯、いつもなら学校で授業中なんだ。

それに気付いて足元をみれば鞄が無造作に転がっている。側面に、俺の名前と並んで見慣れた学校名が印字されていた。

(…そういえば、学校ってどうすればいいんだ?)

この世界のイレギュラーであるため、実質俺には通う学校が無い。課題しなくてラッキー、とか思うけれど、一年間学校をサボると戻ってから勉強について行けないだろうし…少し困る。
独学、なんて出来たら良いんだろうけど、それが出来ればテストの度に苦労なんてしてない。

「それに、友達位欲しいしな…」

一年間独りで過ごすとか悲し過ぎる……。
思わず脳裏を過ぎった未来予想図(部屋と店を往復するだけの所謂引きこもり化した自分)にげんなりとしていると、ポケットからメールを知らせる音が鳴った。
恐らく神様だろうとアタリをつけて画面を見たら、案の定“神様”の文字。

また何かあったのだろうか、と俺は決定ボタンを押した。



 _____________
 From:神様
 To :高科新
 Sub :箱庭での生活について
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 部屋には着いたようだな。
 必要と思われる日用品・家具
 家電は全て揃えたつもりだが
 、足りない物等があれば遠慮
 無く言え。すぐに用意してや
 ろう。

 さて、ここで幾つか箱庭で生
 活する上でのお前の立場につ
 いて書いておく。まあ、俗に
 “設定”と呼ばれる類のもの
 だ。

 @歳は15、中学3年生(こ
  れに変わりはないな)

 A両親とは死別。以後親戚
 (儂の事だ)の援助を受けて
  一人暮らし

 B親戚は海外で働いている

 Cこのマンションには先月の
  終わりから住んでいて、明
  後日に近くの中学校へ転入
  予定である


 大体こんな感じだ。親に関し
 ては些か重苦しいが、この位
 やらなければお前はすぐボロ
 を出しそうだからな。
 学校は、既に転入手続きを終
 わらせてある。私室の机の上
 に資料や書類を置いているか
 ら目を通して、明後日にそれ
 らを持って学校へ行け。

 その他、何かあればこのアド
 レスに送って来い。

 ではな。
      ―END―
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄




「……死別、ねぇ」

僅か15歳で天涯孤独とか、流石にそれは重過ぎると思います。人から聞かれた時答えらんないよ?俺。しかも“親戚(儂の事だ)”って……何かすっごい気になるんだけど。


…まあ、そこら辺は追い追い考えるとして。

「学校って何処だろ」

アドレスを登録し終えた携帯を畳んで、さっき見付けた私室に向かう。
出来れば、漫画に出て来る学校以外が良い。
キャラ達に関わりたくない俺だが(何せ関わったら確実に目立つだろう)、漫画は殆ど流し読みで、大まかな流れと主人公の周囲のキャラしか覚えてない。学校名だってあやふやだ。
だから、何の心配もない無名の学校でのんびり一年を過ごしたい。

「平凡、平穏が一番ってね」

人生の真理だと思うよ。



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