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神様の憂鬱
心の叫び



(俺、生きて…っ!)

本屋といい学校といい、今日一日で俺に恐怖しか植え付けていない緑の長方形(テニスコート)から逃げ出したのが少し前。そこから半ば全力疾走でマンションまでの道程を走破して飛び込んだソファの上、ぐったりとしながら俺は生命の尊さについて考えていた。

右手よーし。
左手よーし。
右足左足も走れたからよーし。


(五体ちゃんとついてる…!)

やったのがたかだかテニス、しかも1ゲームのみと侮る勿れ。実際にやらされて実感したが、あれは常人には無理だ。死ぬ。何て言ったって、物理法則を軽くブッチしてる打球のみならずラケットに当たる瞬間のインパクト音やバウンドの仕方さえも常軌を逸していたのだ。ありえないにも程がある。
そこから無事五体満足で生還を果たした今、この際大袈裟と言われようがチキンと笑われようがどうでもいい。俺は今猛烈に生きている喜びを噛み締めているんだ。

生命活動万歳(生きてるって素晴らしい)。
母さん産んでくれてありがとう(ついさっき死にかけたけど)。

てか俺を笑うならあれをやってからにしろ!怖すぎて本気で笑えないから!!
恐怖の原因である切原少年を思い出して、寒くも無いのにぶるり、と体が震えた。何かもう、しばらくトラウマになりそうな予感がビシバシする。

「しかも何故か懐かれたし…」

そうなのだ。本当に理由が不明なのだが、試合をする前と後とで切原少年の俺に対する態度が180度変化したのだ。それはもう貴方誰ですかと聞きたくなる位に(勿論そんな事聞く訳無いが)。テニスコートで別れた時には、頭まで下げて謝罪と再戦のお願いまでされてしまった。
まあ、謝罪は受け取っておいてお願いは全力で断ったけどな!俺まだ命が惜しいから!というか俺が弱いこと知ってるのに“また試合やろうZE☆”とか鬼過ぎるぞ切原少年!!
最後の方何か追い付いちゃってたけどあれただのまぐれだろうし!

(正直…学校行きたくねえなあ)

歩いてるだけでテニス部に絡まれる学校なんかで無事に生きていける自信は俺には無い。神様の話だと編入は明後日らしいけどもう何か初っ端から不登校やりたい。友達諦めるからヒッキーやりたい。ガッコウマジコワイヨ。

直ぐ先の、暗色で彩られた未来にどんより肩を落としていると、俺の気分とは真逆の軽快な音楽が部屋に鳴り響く。力の抜けた動きでのろのろとテーブルに置いた携帯を手に取って画面を確認すれば、



着信:神様



諸悪の根源の名前が、そこにあった。

「………」

ぽちり、と通話ボタンを押す。
そして携帯を耳に当て深呼吸。
吸ってー、吐いてー、吸ってー、吐いてー。
よし、準備完了。
では気を引き締めて3、2、1。







《もしも「こっのド腐れ神がぁああああああああああっ!!」しぅをおお!?》







全身全霊、喉も潰れよとばかりの絶叫を相手の耳に叩き込んでやった。
騒音?知るかそんなもん。どうせここ防音設備完璧だろ。


高級マンション万歳。



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