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神様の憂鬱
恐怖の試合




拝啓、お父様お母様。



不出来な息子が親孝行もせず先立つ不幸をお許し下さい。






……って、



俺まだ死にたくねぇよおおお!!







* * *







「―――ほらよ!!」
「くっ…!!」

パァンッ!、と明らかにボールの立てる音じゃない音を立て、これまた物理法則を軽く無視したような剛速球が俺目掛けて飛んでくる。当たったら只では済まないそれを、俺は死にたくないの一心で返しては再び少年――切原赤也に打ち込まれるという事を繰り返していた。

「結構やるじゃん!」
「!!」

受けた瞬間の衝撃に歯を食い縛りながら、重たい打球を打ち返す。たまに、ボールがノーバウンドで向かってくるからその恐怖は半端無い。

(っ、ぎゃあああああああっ!!死ぬ!これ本気で死ぬ!何で何で嫌だ怖いよ誰か助けてぇええ!)

内心でこれだけパニックを起こしていたって、相も変わらず俺の所に来てくれるのは殺傷能力抜群のテニスボールだけだ。
しかも俺はテニスなんて体育の授業でやっただけのほぼ素人、こいつら人外の打球を返すなんて荷が重い。

(死に場所がテニスコートとか嫌過ぎるっ!!)

それ以前に死にたくもない。
大体、そんなに怖いなら避けるなり何なりすれば良いと思うだろう。事実、ゲームを始めた頃は俺もそうしていた。
しかし、俺はテニスが強い、と何やらとんでもない(俺にとっては果てしなく迷惑でしかない)勘違いをしてくれている切原少年が、それを許してくれなかった。







『…――ナメてんの?』







そう言って、薄赤く充血した目で“真面目にやらねぇなら暴力だって辞さないZE☆”と語られてしまえば、俺には最早泣く泣くテニスボールを打ち返すという選択肢しか残っていないのだ。

だって痛いの嫌だもんっ!!



「――考え事か、よっ!」
「うぉっ!?」

つい先程の恐怖に涙を禁じ得ないで居ると、何故かより不機嫌になった切原少年が一際力強く打球を放つ。勿論俺がそんなものに反応が出来る訳も無く、勢い良く迫った打球にラケットを弾き飛ばされた。
じん、と腕が痺れる。

「…0-40。どうしたんだよ、あと一点で俺の勝ちだぜ?」

律儀にも点数を数えていた切原少年が、そう言ってラケットを拾えと目で促した。
…自分がラケット弾き飛ばした癖にまだやれと!?あんた鬼!?
けれどこちらを見詰める切原少年の目が恐すぎて、結局再びラケットを手に握る俺。その時地面に落ちた水滴は多分見間違いだ。決して涙なんかじゃない、汗だ、汗。俺強い子だから泣かないもん。

「ほら、最後のサーブ位アンタにやるよ」

俺が拾ったのを見計らって飛んできたボールを受け止め、溜息を吐く。それはもう腹の底から深ーいのを。

(はは、何で俺こんな所でこんな事してんだろ…)

普通に死ぬよね、これ。
なあ神様…貴方はそんなに俺の事が嫌いですか。てかこれもしかして俺を帰すのが面倒臭いから仕組んでませんか。よし、もし今日無事に生きて帰れたらその事について徹底的に問い詰めよう。
いや本気で“そうだ”って言われても困るけどね!
そしてそこ!死亡フラグ立ったとか言わない!自分が一番分かってるから!

俺は、そんな微かな希望(寧ろ野望?)を胸にラケットを握り直し、一刻も早く試合を終わらせようと決意する。
そして2、3度地面にボールを跳ねさせるとそれを空高く放り投げた。

(あれ、俺何か忘れてないか)

自分の頭上にあるボールを見詰めながら、脳内に引っ掛かりを覚える。確か結構重要だったと思うんだが…思い出せない。
しかし、通常の物理法則に従い落ちてくるボールを打とうと慌ててラケットを振った時に、俺は漸くその何かに気付いた。




(俺、テニス下手じゃん)




気付いたところでもう遅い。

俺の打ったボールは、ラケットのガットではなく、フレームに掠って切原少年の元へ飛んで行ったのであった。




しくったぁっ!!




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