神様の憂鬱
恐怖の少年
「え、は…!?」
いきなりの暴力宣言に、驚いて手から落ちた料理の本(【サルでも作れる一品料理100選】)がちょっと嫌な音を発しながらも地面に落ちる。
ちょ、俺の晩飯(予定)!!
本を拾おうとそちらを向いたら、がっちりと掴まれた胸元を力任せに引き寄せられてギロリと間近で睨まれた。
「っ、ぐ…」
「マジでアンタムカつく」
いやいやそれ程でも……………………何て言う訳あるかぁっ!!!
絞まってる!絞まってるよ少年!ぎりぎりぎりぎりと俺の気道が限界を訴えてるよ!?一体何が君の逆鱗に触れたのか分からないけど、ちょ、頼むからタップさせて!てか寧ろあそこら辺のお嬢さんにタオル投げて貰えるように頼んで来るから少し離して!?
全く予想だにしなかった方向からの生命の危機に、パニックになる。え、これ死亡フラグ?神様に異世界に放り出されて一年間一人暮らししなくちゃいけない上に通う学校が一部バトルロワイヤル的な学校で、揚句の果てには転入前に不良少年(仮)に首締められて死亡ですか?本当、本気でこれ何て言う死亡フラグ!?てか神様今見てるんでしょ元はといえば貴方のせいなんだから助けてよ助けて下さい助けろやぁああああっ!!!
…けれど、どんなに願っても神様は助けてくれたりはしなかった。
「ちょっと来いよ」
「ぅお!?」
胸倉を掴んだまま何処かに移動を始めた少年に、引き擦られるように俺も移動する。え、何これもしかしてリンチ?このまま体育館裏とか校舎裏とかでぼこぼこにされちゃう系?ちょっと待って俺なんか殴っても楽しくないよてかひょろ長いだけで構成成分骨と皮だから手が痛いよ本気嫌だやめて!!
とか全身全霊で願ってみたけど意味なくて、大した抵抗も出来ずに引き擦られて行った先は、本日3回目に見る緑の長方形――つまりはテニスコートだった。
「?」
予想していたどの場所でもなかったことに首を傾げ見回したそこは、隅っこの方に雑草が生えていたりとさっき見た物よりは古臭かったが、整備は行き届いているらしくコートとしての役割は十分に果たせているように見える。
…ていうか、何でテニスコート?
疑問に思いながらも少年の迫力に聞けないでいると、少年は端に設置されていた予備のラケット置場(のようなもの)から適当な物を1本選び出し俺に押し付けた。
「ほら」
「え?」
「アンタはあっち。さっさと行けよ」
どんっ、と加減の無い力で背中を押され、たたらを踏みながらも指示された通りにネットの向こう側へ行けば、少年は逆のコートに足を踏み入れる。
……ん?
「サーブはオレからでいーよな」
え、あれ?殴らないの?
てか寧ろ何かテニスしようぜ!、な勢いだ。
…もしかして、彼は俺にキレてたんじゃなくてテニスの相手を探していただけなのだろうか(今までに言われたことをスルーするのが条件だが)。
まだ安心は出来ないが、殴られる事はなさそうだ、と安堵の息を漏らし――
「うちの部を弱いって言う実力見せてみろよ」
――たかった。
「ま、オレが潰すけど」
「は、はは…」
弱い、って言ったというのは恐らくさっき(自分に)呟いたものだろう。
(それは勘違いだ不良少年!)
そう声高らかに宣言できたらどれだけ良いか。けれど目の前の少年は、恐らくというか100%の確率で聞く耳を持ってくれなさそうだ。その上この状況だと、うちの部=テニス部しか有り得ないから逆に今殴られるよりも危険値が跳ね上がっている。
テニス部とテニスとか無理だよ俺!!
それでもさらに現実は残酷で。
「…ああそれと、オレ、切原赤也。
立海のエースだよ」
ごめん、遺書書いていい?
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