神様の憂鬱
恐怖の学校
……はーい、こちら例の不思議君から逃げてきた俺です。
精神に多大な負荷を抱えて行った2つ目の本屋で、漸く俺にも出来そうな料理の本を見付けて今は新しく通う学校への道程を歩いてます。
てか、あの柳蓮二とか言った人は本当に何だったんだろう…。
謎だ。
そんな事を考えている内に、どうやら目的地である【立海大附属中学校】に到着したらしく(何とか迷わずに来れた)、目の前にその名の刻まれた校門が見えてきた。
「ここか…」
デカいな、うん。
俺は念のために持って来ていた学生証を守衛さんに提示して、見学の許可を取る。初めは俺のことを不審そうに見ていた守衛さんも、俺が生徒だと分かると学校の案内図をくれたり説明してくれたりして色々と世話を焼いてくれるいい人だった………が。
その守衛さんは、俺にとって最悪の情報さえも提供してくれやがった。
――守衛さん曰、
この学校には、“王者”と呼ばれる全国大会2連覇の強豪テニス部が、あるらしい。
「……本気、ですか」
テニス部があるならまだしも、“王者”ですか、全国一ですか。
そして、そこから考えられる事は、この学校が恐らく主人公達と物語終盤で勝敗を争う敵校の一つ(しかもラスボス級)であるという事で…。
それが意味することはただ一つ。
レギュラー=人外。
…うん、俺もうテニスコート、ひいてはテニス部に近寄んない。
え?それはやり過ぎじゃないかって?
………。
甘 ぇ よ。
だって考えてもみろ!人殺せそうなテニスを平気で日常的にやってる奴らだぞ!?しかもここはテニスの全国大会優勝校!!それに関わって生きてられる自信なんて俺には欠片も無い!
ちなみにテニスコートに近付かないのは流れ球(殺傷能力的には流れ“弾”)が恐いからだ。俺まだ死にたくない。
…とにかく、そんな風に決意を新たにした俺は、貰った案内図を頼りに職員室の場所を確認して(残念ながら担任の先生は居なかったが)俺の家となる高級マンションに帰ろうと玄関を出る。
しかしその途端、突如発せられた割れんばかりの黄色い歓声が俺の鼓膜を揺るがせた。
「っ!?」
突然の不意打ちに思わず肩が跳ねる。いやこれ本気でビクゥッ!てなった。もし人に見られてたら穴の中に入りたい位にビクついた。
(〜〜っ、何だ…?)
耳鳴りのする耳を押さえながら未だ歓声の止まない方向を見ると、何か部活があっているのか、人が動いているのとその近くに人だかりが出来ているのが見えた。
驚くべきは、その人だかりの大半――いや、恐らくはその全てが女子ということだ。
「うわー…」
嫌な予感しかしねぇよあそこ。
半ば確信しつつ、手に持った案内図で確認してみれば案の定【テニスコート】の文字。多分、漫画のキャラ達が試合か何かでもしているんだろう。
モテモテですね、分かります。
何たってテニス上手い=イケメンだし。
…けれど、それだけであの恐怖のテニスコートに近寄れる彼女達には素直に畏敬の念が浮かぶ。恐くはないのだろうか(流れ球とか流れ球とか流れ“弾”とか)。それとももしかして、彼女達は世間一般でよく言われる“恋は盲目”状態だったりするんだろうか。ほら、好きな人にばかり目が行ってそいつがどれだけ人外の動きをしてようがその周りで核兵器真っ青の大量殺戮が起こってようが全く目に入ってない…みたいな。何と無く言葉の使い方を間違ってる気がしないでも無いが、要約するとあれだ、あれ。“女は強し”。
…本気凄ぇ。なんていうスルースキル。それに比べて俺なんて。
「…弱い、な」
別に気にしてないんだけど。命には代えられませんから。うん。
さーて、校舎の確認も終えたし問題のテニス部の有無もコートの場所付きで分かったし、そろそろ帰ろうかな。家に着いたらまずは今後の対策を考え――
「――ぅわっ!?」
どんっ!!、と背中から衝撃を受け情けなくもバランスを崩す。どうにか踏み止まって転けることは免れたが、それも直ぐ背後から伸びてきた腕によって意味が無くなった。
「っ、ぅ…」
いやもう何でこんな事になってんのか全くと言って良い程訳が分かって無いんですが、どうやら俺は、この目の前に居る目付きの悪い天然パーマの少年に胸倉を掴まれているらしい。
いや、らしいじゃなくて実際掴まれてるんだけどね。
訳が分からないなりに現状を理解しようとその少年を見ていると、その悪い目付きで睨まれて。
「アンタ、潰すよ?」
……………。
一体俺が何したぁあああっ!!!
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