永久の忠誠を
6
遅くまで沢山の書類に目を通している現ボス、綱吉様の為に仕入れたばかりの茶葉を使った紅茶を持ってきたのだが……部屋へと入ってから、ぽかんと室内を見やる。
そんな私の持つ盆のからは上質な香りが立ち込め、思考を鮮明にさせた。
綱吉様はとてつもなく大きな事をしようとしていて、1日とて無駄にせぬように毎日頑張っておられる。
今日も朝から傘下との会合に出向き、昼からの会議までに食事中までも溜まった書類の整理をし、夕方からはパーティーに呼ばれ、帰ってきたら真っ先に執務室に籠もられた。
ジョット様にも見習って頂きたいところではあるが、それ以上に彼の体が心配であると共に、何にそれほど躍起になっておられるのかが不思議でしょうがない。
しかしながら私はただの部下でしかないのだから、とあの頃と似たような事を自分に言い聞かせると、盆をローテーブルに置いて執務机に歩み寄った。
あどけない顔を横に向け、握ったペンはインクの線をつくりながら綱吉様の手から離れている。
ジョット様がお昼寝をされている時の御顔とあまりに似ていたからか、つい微笑してしまう。
そして彼がふるりと震えたのに気付き、慌てて辺りを見渡す。
何か彼に掛けて差し上げねば、そう部屋を見渡すのだが、生憎にも此処は執務室。
コート掛けもなく、仕方なしに一言謝ってから私は自らの上着を脱ぎ、彼の肩に掛けた。
その時にこつりと爪がボンゴレリングに触れてしまい、ジョット様の指を思い出して撫でてしまう。
綱吉様が小さく声を上げられて、私は我に返って慌てて手を引っ込める。
しかしその表紙にぐらりと体が揺らぎ、私の頭は動くのをやめてしまった。
懐かしい、声がする。
私の名を呼ぶ、愛おしい御声……
「ジョット、様」
「起きたか。ルナ」
再びその声が耳に入り、慌てて体を起こす。
暗き闇の中、向かいにはあの頃と変わらずに優雅にティーカップを揺らすジョット様が居て。
久しぶりに見るお姿に、しばし見惚れた。
「ルナの淹れる茶はやはりうまいな」
「ありがとう、ございます」
思考は未だに追いつかないのに、それでも体はジョット様の御言葉に素直に反応し、考えなくても言いたい言葉がすっと出ていく。
そしてやっと動き始めた頭を軽く振ると、辺りを見回せば闇しか見えない。
地面に浮かぶようにしてある、私が座るソファ、そしてジョット様が座られているソファと間に置かれたローテーブル。
地面に刻まれているものは、ボンゴレリングに刻まれているものと同じ紋様・・・ボンゴレの印。
ジョット様に視線を戻せば、彼が微笑みながら香りを楽しんでいるティーカップは、綱吉様へと運んでいたものと同じようだ。
くんと鼻を動かしても、香る薫りは先程自分が淹れた紅茶のもので。
先ほどから気付いてはいたが、これは夢だろう。
だとしたら、とても幸福な夢。
いつ寝たとか、そんな細かいことなど気にならぬくらいに……しあわせな。
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