花のような君(∞ 210+co) ある日、ティナは珍しくデュエルコロシアムにいた。 彼女は戦いを見るのもするのも苦手で観客席にいる事すら珍しいのに、今回は参加者としてコロシアムの地に立っている。しかも、コロシアムの難易度は最高クラスの魔道船コースだ。 彼女がここに立っている理由。それは“とあるアイテム”を入手するためであった。 「やっと、メダルが溜まった…」 ティナは必要なメダルが溜まると、すぐに離脱して景品に換える。 やっと手に入れることができた“とあるアイテム”…。ティナは大切に抱えるとすぐにコロシアムを後にした。 ティナが秩序の領域を歩いているとすぐに目的の人物が目の前に現れる。 金色のひよこ髪をなびかせて歩く彼に、ティナは勢いよくバックアタックを仕掛けた。 「うぉっ?! …なーんだ。ティナっスか。どうしたっスか?」 いきなり抱きつかれてびっくりしたが、やはりエースと言うだけはあって転ばない。 ティナはしばらくだけ背中に頭を擦ってから、抱きついた相手…ティーダを見上げた。 「実はね、いいものを手に入れたの」 「いいもの?なんスか??」 興味深そうにするティーダにティナは少しかがんで、と頼むとティーダはそれにしたがう。ティナは計画通りと隠れて笑みを浮かべると、「えい」という声と共にティーダの頭の上にアイテムを乗せた。 「なんスか、これ」 そう言ってティーダが頭の上に乗った物を取ろうとすると、ティナが無言で制する。何が何やら分からず頭に疑問符を浮かべているティーダをよそに、ティナは二、三歩ほど離れてティーダをみると、うんうんと頷いた。 「やっぱり、似合う。ティーダ、そのままでいてね」 「え? ちょ、頭に何を乗せているかくらい、教えて欲しいっス!」 「ダメ、言うと取っちゃうから。私がいいと言うまで、とっちゃダメよ。あと、動くのも禁止」 そこまで言われるとティーダも頭にやろうとした手を引っ込めざるをえない。そして、ティナは少々うきうきとした足取りでティーダを置いて何処かへ行ってしまい、ティーダは動く事も出来ずその場で待つ事になった。 ティナを待っている間、手持無沙汰にその場に座っていると、探索から戻ってきたバッツ、スコール、ジタンとはち合わせた。 「おー、ティーダ。めっずらしーな。こんな所でぼやーっとしているなんて」 「バッツ! スコールやジタンも! 探索はどうだった?」 「んー。これと言って収穫はなし。でも、ポーションやアイテムは幾らか見つけたぜ」 「へー。後で見せてくれよ!」 「あれ?一緒にいかねぇの?」 「えっと…いま、ティナに待っていてっていわれたっスから、動けないっス」 いつもならばアイテムを見にくるティーダが珍しく断った理由を聞いて誰もが納得する。彼女の頼みならば秩序内で断れるものなどいないだろう。 そして、ティーダの今の格好もティナの仕業ならば納得がいく。 「じゃあ、頭に付けているのはティナの入れ知恵かー…」 「え、俺の頭についているのってなんなんだ?」 「あ、いや。何でもねーよ! いくぞ、バッツ、スコール!」 ティナの計画を邪魔すればどんな目に遭うのか、それをよく知るジタンはバッツが余計な事を言う前に、バッツとスコール、二人の背中を押して去ろうとした。その時、珍しくスコールが口を開いた。 「…似合っている、それ」 スコールはそれだけを言うとジタンに背中を押されて行ってしまった。珍しく発せられたスコールの言葉の意味にティーダは終始首を傾げていた。 またしばらく待っていると、探索を終えたウォルがティーダの前に現れる。ウォルはティーダを見て瞠目したが頭をポンポンと叩いて去っていった。心なしか何処か微笑ましそうに笑っていたような気がする。 そして、もうひとり。いつもはティナと一緒に行動しているオニオンがティーダを見ると「そんな格好、恥ずかしくないの?」と言ってきた。 だが、頭に乗せられているのはティナのせいだと伝えるとかなり納得したようにティーダを見て、「まぁ、たしかに悪くはないかもね」と言ってクスクス笑いながら去った。 その後もティナが来るまで待っていたティーダであるが、一向に来る様子がない。退屈そうに足をふらふらさせていると、よく見知った相手と合流した。 「ティーダ。ここにいたのか」 「フリオニール! セシルとクラウドも!」 「あれ、ティーダ。可愛い物をつけているね」 いつも行動を共にしているフリオニール、セシル、クラウドと合流して嬉しそうにしたティーダであったが、セシルの発言に疑問を感じたようで小首をかしげる。それがまた可愛らしさを増長させたのか、セシルはいつもよりも笑顔が増したようだ。 「…見てみろ」 そういってクラウドが取り出したのは一枚の手鏡。どうして持っているのかとツッコミたくなったが、頭の上に乗っている物が何であるのか知りたかったティーダはクラウドからそれを受け取り、覗き込む。 と同時に絶叫した。 「な……なぁ――――!?」 ティーダの頭の上に乗っていたものとは、花の冠。薄桃色と紅色の花で構成された冠はティーダの金に映えて可愛らしさを強調している。 だが、どちらかと言えば女性が身につけるべきそれがどうして自分に?!と思いつつ、ティーダはそれを取ろうとするが、それはクラウドに押さえられた。 「ちょ?! クラウド、何するっスかー!? こんなの、つけていても似合わないっスよ!」 「ティーダは、それでいい」 「よくないー! あー、皆が笑っていたのってこれだったんスか…へこむ」 自分の醜態を仲間全員に見られたと思うと羞恥のあまりティーダは蹲ってしまう。その所作がまた可愛らしいのだが、それをいうとまた凹んでしまうか、逆切れをしてしまうので三人は言葉を飲み込んだ。 ティナを呼んでくる、とセシルとクラウドは行ってしまい、この場にはフリオニールとティーダだけが残る。 「だが、似合っているのは本当だと思うぞ」 「…フリオニール、俺をからかっているっスか?」 ジト目でフリオニールを見るティーダに「まさか!」とフリオニールは前で手を振る。 そして、ティーダと視線を合わせるように姿勢を屈めると、ティーダの金の髪を一房からめる。その所作が何処かの騎士みたいだと思ったティーダは頭の考えを振り払うが、それを気に留めることなくフリオニールは言葉を続ける。 「ティーダの金色の髪が太陽の光に似ているからか、花がとても生き生きしている。 これをつけたティーダは、花の精霊みたいだな」 フリオニールの言葉は本来、女性に言うべき言葉なのだがティーダは思わず顔を赤くしてしまう。 その様は冠にされた紅の花に負けずとも劣らない色であったため、ティーダが照れているという事を知ったフリオニールも、自分の言った恥ずかしい台詞に対して顔を赤く染めてしまった。 その様子を影からスフィアで撮影していたティナの背後には、ルーネス以下、先ほどティーダと会った秩序勢がいた。 「おー。フリオニール、おっとこまえー」 「でも、自分の台詞に顔赤くしていたら世話はないだろ」 「……(ヘタレ)」 「修行が足りないな、フリオニール」 「僕だったら、もっと格好よく言えるのに」 「まぁ、それがフリオニールらしさだからいいんじゃないかな?ねぇ、クラウド」 「…俺は、ティーダが可愛ければ、それでいい」 それぞれの言い分に可愛いもの大好きなティナはクスクスと笑いながらスフィアに記録した映像を保存する。 ティナのスフィアには花の冠をつけてフリオニールに笑いかけるティーダが最後に映っていた。 花のような君 End お題配布元:猫屋敷 [*前へ][次へ#] |