君の眼差しに(012 7`10)
どこか、懐かしい雰囲気を覚えた。
「セフィロス―。待ってー」
今日もカオス陣営を歩き回る、特異な光の力を持つティーダ。
殆どの記憶を失った彼が最初に縋ったのは自分を拾ってくれたセフィロス。
自分を助けてくれたという事実が『セフィロスは自分の味方』だということをティーダに認識させていた。
最初は利用するために助けたが、頼られるのはお門違い。と無関心を貫いていたが、記憶を失ったティーダは行く先々でトラブルを起こすものだから、そのとばっちりが保護者であるセフィロスにも向いてくる。
そのとばっちりを処理していくうちに“監視”と言う名目で自分の傍に置いておけば少しでもトラブルは少なくなるだろうと考え、ティーダを傍に置いておくようになった。
以降、ティーダは後追いをする雛のようにセフィロスの長い髪とコートを追いかけるようになっていた。
「早く来い。ぐずぐずしていると置いて行くぞ」
「だからちゃんと着いてきてるってば!俺とセフィロスじゃ歩幅ちがうし!」
キャンキャンと騒ぐティーダを「子犬みたいだな」と心の中で思い、仕方がないと言わんばかりに歩調を緩める。
歩調を緩めるとようやくティーダも追いつけたようで、セフィロスの前でぴょこぴょこと金髪が揺れる。
セフィロスの前に立てて満足したのか、ティーダは鼻歌を歌い始める。
「セフィロス、今日はどのあたりの歪みを調査するの?」
「そうだな。ティーダの実力も少しずつ戻ってきたようだからな、もう少し遠くまでいっても大丈夫だろう」
セフィロスの許しを得たティーダはキラキラと喜ぶ。ここのところイミテーションの出現はゆるやかで多少ならば陣営から離れても問題ないと判断できた。
それにティーダは記憶を失っても活発な性質であるため、陣営でじっとしているのは彼の性に合わない。
久しぶりの遠出と探索はなまってしまった体を動かすのにちょうどいいと言わんばかりにティーダは腕を振る。そして、ティーダはくるりとセフィロスの方に振り向いた。
「なぁなぁ、もし水辺があったら泳いでいいか?」
「ああ、水辺があったらな」
「やったぁー! セフィロス、大好き!!」
もしも彼に尻尾があったら盛大に振られているだろう状況を想像し、セフィロスはくすりと笑う。
…そういえば、遠い過去に同じような眼差しを見たような気がする。
元の世界の記憶に関しては戦いに必要となる記憶以外は全て曖昧で、誰がティーダと同じ眼差しを浮かべていたのかも分からない。
「セフィロス?」
考え込んで黙ってしまったセフィロスにティーダはことんと首を傾げる。その純粋な眼差しに「なんでもない」と笑い、ティーダの頭を撫でる。頭を撫でられたティーダは目を細めてそれを甘受する。
…そうだ。この眼差しはティーダのもの。
自分の記憶に染みついた過去とは全く関係ない。
そう考えるとセフィロスの心は軽くなる。ティーダはセフィロスの手が離れるとまた先へと走り出す。
セフィロスはティーダを見失わないよう、ゆったりとした足取りでティーダを追いかけた。
君の眼差しに End お題配布元:猫屋敷
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