君が風に震えるから(013 510)
異世界に吹き抜ける風はとても冷たい。
それは先ほどまで水浴びをしていた彼の体温を容赦なく奪う。
「っくしゅん!」
可愛らしいくしゃみをしたのはティーダ。
現在の時刻は夕方ちかく。照らしていた光も弱くなり、体温を奪う夜がやってくる。
体温を奪われっぱなしでは風邪を引いてしまうと判断したフリオニールは、くしゃみをしたティーダをマントで包む。
ティーダはフリオニールが寒いだろうと返そうとしたが、それはやんわりと留められた。
クラウドは「身体を拭くタオルを持ってくる」、セシルは「身体が温まりそうなものを持ってくる」と言い、その場を離れる。
ティーダと待っていたフリオニールも動いていないと寒いのか、なにか温まりそうなものを取りに行き、ティーダには「その場から動かないように」と釘を刺しておいた。
三人に動くな、と言われたのでティーダはその場に座りこむ。フリオニールが着せてくれたマントは確かに暖かかったが、自分以外に誰もいなくなってちょっとさびしい。
ティーダはマントに包まれながら自分に何かをするために、どこかへ行ってしまった三人を待つ。…身体に当たる風は防ぐ事ができたが、身体が感じる寒さはひゅうひゅうとして、変わらないままだった。
「ティーダ? どうしたー??」
間延びした声が聞こえてティーダが振り返ると、そこには腕を後ろで組んだバッツが立っていた。
彼もティーダと同じように寒そうな格好をしているが、水に濡れていないからか、風の心を持っているからか。寒そうにしている様子はない。
いつもならばジタンやスコールと行動しているバッツが一人で行動しているのも珍しかった。
「んー。俺はフリオたちを待っているッス。待っていて、て言われたから」
「ふーん…。な、隣座っても良いか?」
「いいッスよ。ちょうど俺も暇していた所だから」
ティーダが承諾すると、バッツはすとんとティーダの隣に座り、他愛もない話をする。
バッツが隣に居るだけで、心が暖かくなり、楽しくなってくる。ティーダがバッツと話していると、不意にバッツの表情が大人のものになる。
「どうだ? 心の風はやんだか?」
「え? あ…。本当だ」
先ほどまで心に吹いていた風はいつの間にか止んでいた。それに、幾らか身体も暖かくなったようだ。
バッツは大人の表情のまま、ティーダの耳許に口を寄せて内緒話をするように囁いた。
「また、心の風で震えていたら…。俺が止めてやるよ」
腰砕けになるような美声で囁かれたティーダはカッと顔が熱くなった。
女の子に言うようなセリフをどうして自分に言うのかは分からなかったが、まんざらでもない自分も信じられなかった。
そして、ティーダがバッツにたぶらかされて(あながち、間違いではない)真っ赤になっているのを見て、保護者三人からの制裁をバッツが受けるのは、この数秒ほど後だったりする。
君が風に震えるから End お題配布元:猫屋敷
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