君は誰(012 10←6+12)
ふとした時に思い出す、不思議な記憶。
自分の名前以外、何もかもを失くしていた時があった。
私は誰なのか、戦う理由も、大切なものも、何もかも忘れてしまって、
ただ、私の体内に在る大きな力の不安だけがあった。
今日も自分を拾った道化師から逃げて、一人になっていた。
記憶を失った私には行く所がない。どうせ逃げても、道化師の許に戻るだけ。
でも、あの道化師は嫌い。少しでも傍に居たくない。だからここにいた。
そんなときに、あの人はやってきた。
「なにしているの?」
私に声をかけた彼は闇の軍勢には相応しくない、キラキラとした金色の髪と蒼色の目を持っていた。
彼はいつも、銀髪の刀を持つ剣士か、彼と同じ金髪の大剣を持つ剣士と一緒に居るのに、今日は私みたいに一人だった。
「あなた…どうしてここに居るの?」
「んー?セフィロスとクラウドから逃げてきた!あいつら、過保護だから息詰まるっての!」
彼の言葉を聞いて、羨ましいな。と素直に思った。
『記憶を失って拾われた』という境遇は変わらないのに、あの道化師は私を道具として扱う事にしか興味がない。
でも、彼は違う。彼は拾われた人に真綿でくるむように大切に扱われて、愛されている。
私は戦わなかった時の道化師の罰が怖くて戦うけど、彼は拾われた人から与えられた愛情に応えるために戦う。
それがどれだけ素晴しい事なのか、記憶を殆ど失った私にも分かっていた。
「でも、いいな。あなたには心配してくれる人がいて」
「? どういう意味、ティナ」
「だって、私にはいないもの。私は道具として使われるだけ…」
「そんなことない! ティナは俺たちの大切な仲間!
ティナがいなくなったり、怪我したりしたら、俺は心配する!」
彼の必死な言葉に私は不謹慎だけど笑ってしまった。こんな風に心配されたのが嬉しかった。
「私、もうそろそろ戻るね。あなたも、二人に心配掛けさせない程度に」
「わかってる。…あ、セフィロスとクラウドだ」
遠くから、彼の保護者が名前を呼んでいる。彼はそれに応えて私の許から去っていく。
その時、私は彼の名前が知りたくて耳を澄ますけど、肝心の名前の所だけが靄がかかったように聞こえない。
私は知りたくて、彼らの所に近付こうとしたけど、後ろ手に腕を掴まれる。咄嗟に振り替えると私の腕を捕まえたのはあの道化師。
彼は私を行かせないように腕をつかんで離さない。私はおもわず、悲鳴を上げた。
……………
「きゃぁああああああああ!!!!!」
「うわっ!? どうしたんだよ、ティナ!」
目が覚めた。酷い悪夢だった。
私はヴァンという青年と一緒に道化師から逃げていた。
「疲れた」といった私にヴァンが見張りをしているからと言って、休ませてくれていた。
その時にほんの少しだけ眠ってしまったようだ。
「大丈夫か? 水でも飲むか? 果物もあるぞ」
「あ…、大丈夫。私は平気……ありがとう、ヴァン」
ヴァンは私がカオス側…敵であるにも関わらず、私にとても優しくしてくれる。
でも、私が求めていたのは彼ではなく、彼よりも濃い金色を持った彼だった。
「(ずっと、ずっと記憶に残っているのに、名前だけが思い出せない…。ねぇ、貴方は一体、誰なの?)」
私に微かな光を与えてくれたあなた。貴方は誰なの??
君は誰 End お題配布元:猫屋敷
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