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甘い君 (010 24710←3 3独自)
 甘い、甘い。本当に君は甘いよね。

 最後の一人を退け、ようやく戦闘が終わった。
 誰もが荒い息を吐く中、一人だけしゃがみこんだ者がいる。…それは、つい最近仲間になった『一般人』の戦士だった。

「大丈夫か? ティーダ」
「怪我はしていない?」
「あまり無理をするな」
「うん、サンキューッス。フリオニール、セシル、クラウド」

 今回の探索はいつもの四人組に加えて僕も参加するという特殊な編成。いつも僕と組んでいるティナは先の探索で怪我をしたため聖域で留守番をしている。
 僕の怪我は幸いにも軽く探索も問題なかったが、子ども一人では危ないということで、僕より年上でフォロー力が強い彼らと一緒に出かける事になった。

 当初、一般人で戦闘経験が殆どないという事を考慮して、年上ばかりで構成されたチームに新参のティーダは組まされた。
 これでは言い方は悪いが『足手まとい』にしかならないティーダを抱え込んだ三人には同情した。

 それから数週間がたったころ、コスモスの中である変化が起き始めた。

 最初は分からないほどの小さな変化。ティーダがくるまでは会話すらもまともにしなかった三人がティーダを交えて何かを話している。
 しかも、内容は戦闘についての推考だけではなく、世間話のような他愛のない話。

 初めて見た時は『なんて緊張感のない話をしているんだ』と少々憤りそうになったが、フリオニールやセシル、果てはあの無表情とも言えるクラウドも笑っているのを見たことに対する驚きで頭がいっぱいになっていた。

 でも、三人の間を上手く取り持つ事は出来ても、戦闘の経験は未だに追いついていなくて、今回もフリオニールたちに助けられて何とか勝てたようだ。
 …まぁ、数人相手に一人で撹乱させたのだから、できたほうか。

「あとから分かる怪我もあるからな、何か不調が出たら必ず言えよ」
「わーかってるッス。フリオニールは俺の心配をするのが趣味ッスか?」
「なっ!?俺はお前を思ってだな…」
「はいはい、喧嘩はそこまで。先へ進もう」
「…セシル。俺、もうちょっとだけ休んでいいッスか?」

 軽口の後、珍しく吐きだしたティーダの弱音にセシルたちはやはり怪我をしたのではとティーダに詰め寄る。
 でも、ティーダが怪我をしていないのは先ほど見たので分かっていたから、彼らも深く追求はしない。

 しばらくして、ティーダが「休みたい」といった意図を読み取ったクラウドが「近くで待っている」といい、セシルに目配せをする。
 クラウドから目配せを受け取ったセシルは未だ心配しているフリオニールの背中を押してティーダを一人きりにさせた。

 一人きりになったティーダは近くの岩に腰掛け、小さな声を吐きだした。

「…やっぱり、慣れないッスよ」

 ティーダが小さく呟いた言葉の後に続く言葉を僕は感覚的に悟る。

 モンスターでさえもあまり戦った経験のないティーダは、敵とはいえ、人を斬ることに躊躇いを生むことが多かった。

 ティーダ以外の僕たちが生きていた世界は戦わなければ殺される時代だったから、今さら剣に迷いが生じる事はない。

 でも、平和郷生まれのティーダは生じるのだ。どうしても、太刀筋に、迷いが。
 
 戦いの中では一瞬一瞬が生死を分ける刹那になるというのに、彼は迷う。
 僕たちがとっくに捨てた筈の“迷い”をティーダは大切に手に取って、迷い続けるのだ。

「……甘いよね」

 それは迷い続けるティーダに対してか、そんなティーダを放っておけない僕を含めたコスモス軍全員に対してか…。僕の小さな呟きは異世界の空に散った。

甘い君 End お題配布元:猫屋敷

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