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怖い君(013 最強10+co+ca)
 …こんなに怖い彼を見たのは二度目だ。
 ティーダを除くコスモス一同の心はひとつになった。

 ここはカオスの陣営。
 そして、ティーダの目の前で正座して並ぶのはカオスに属する戦士である皇帝、ケフカ、セフィロス、クジャ、ジェクトの五人。

 世界の破滅を願うものや覇権を願う者、宿敵との戦いを望む者などおどろおどろしい雰囲気漂う彼らが正座をして並んでいる光景はシュール以外の何物でもない。

「…今までずーっと我慢してたけど、もう限界ッス」

 いつもは仲間を励ます声も今は静かにドスが効いて、味方であっても恐ろしさを感じる。
 表情もいつもの太陽のような笑顔ではなく、かなりご立腹している。

 カオスの陣営に集結した光の戦士たちすらもティーダを止める事はできず、ただ後ろで傍観者に呈しているだけであった。

「ほんとさぁ、言う必要はないかなと思っていたッスよ。何を隠そう、敵側だし?
 俺が言っても絶対に改善されないだろうなーって、今まで言い聞かせていたッス。
 でも、やっぱり、エイブスのエースとして、放っておけないっつーか…。
 どうせ戦うなら相手のコンディションも整っていた方が、こっちも張り合いが出るというか…。
 とにかく、今回は戦闘じゃなくって、生活指導に来たというわけッス」

 一息で言い切ったティーダはにこーと笑顔を浮かべる。その笑顔の根は氷点下を示しており、猛者たちの背筋を凍らせる。
 その中である程度は免疫がついているのか正座をしている一人、ジェクトが恐る恐る声を発した。

「でもよぉ…死んではいないから、今のままでも問題は」
「ありありッスよ。バカ親父。毎回毎回、特訓やら研究やら罠やら考えていて、睡眠時間は無いに等しい。
 カオスの館だって、洗濯はちゃんとやっていたみたいだけど、掃除が行き届いていないから瓦礫はすごいし、
 なによりも、全員が同じ時間に食事を食べないことが多いなんて不規則にも程があるッス」
「で、でもよぉ、そっちだって不規則な食事くらいは」
「改善したッスよ。いや、むしろ“させた”といったほうが、正しいッスね。
 エイブスのエースが不健康で不規則な生活を目の前で見て、何もしないとでも?」

 ティーダの一言でコスモス一同は悪寒を感じる。

 いつもは笑顔で皆を励ましてくれるティーダが『生活指導の鬼』になった瞬間…。
 誰も彼を止める事はできず、彼の言う通りに生活改善をしていた数ヶ月間は地獄に近かった。

 だが、そのおかげで慣れない環境で崩しがちだった体調もよくなったし、何よりも戦闘に支障をきたすような事が無くなったので一石二鳥だっただろう。

 ティーダがそれをカオス陣営まで指導しにいくと聞いた時には危ないから止めろと止めたが、十二回目の戦いの記憶からカオスも改善前のコスモス陣営と同じであったという事を思い出した彼を止める術はない。

 八割はティーダの護衛として、残りの半分は諦め、もう半分は面白い事になりそうだと怖いもの見たさできた彼らも、カオス陣営に同情を送らざるを得ない。憐みの目で見つつカオス陣営とティーダの口撃はまだ続く。

「ガーランド、暗闇の雲、ゴルベーザ、エクスデス、アルティミシアが正座をさせられていないのはどういうことだ」
「ガーじいとゴル、アルティはちゃんとした生活をしていたから、今回は除外ッス。
 クララとエクスは食事の仕方とかが俺たちと違うから、除外しているッス。
 今回、指導するのは特に酷い相手だけ。まぁ、コスモスでの九人全員よりは楽ッスよ」

 ケラケラと笑うティーダにカオス時代の片鱗が見えた気がしたが、それは呑み込む。

 だが、ティーダの気迫に圧されても歴戦の悪役を務めてきたカオス。
 十七歳の若造に気迫で負けるつもりはないようで臨戦態勢と言うべき気迫で迎え撃つ。
 その余波を受けたコスモスたちも臨戦態勢に入りそうになったが、ティーダだけは涼しい顔をして立っていた。

「抵抗する気ッスか? しかたないッスね…。
 スコール、“あれ”持って来て」
「…わかった」

 “あれ”と言われて分かったのか、スコールはティーダの持ってきた荷物を探るとすぐに“あれ”を取り出す。

 監督が選手にタオルを投げ渡すかのように、投げ渡されたそれをティーダは颯爽と着用する。

 ティーダが着用したもの…。それは、コスモス全員を震撼させ、カオス五人の戦士は困惑するものである。

 ティーダの姿は、いつもの服の上に水色のエプロン、そして手には『愛のフライパン』を装備している。

 カオスでは馴染みの少ない姿ではあるが、コスモスでは日常的に見られるティーダの服装。
 影で“オカンモード”と称されるこのティーダは、普段から得意としている家事の腕をさらに飛躍させるユニフォームである。

 …それと同時に、生活指導に関しては最強の腕を持つ仕事人ともなるのだ。

「さーて…。“教育的指導”の始まりだ」

 にやり、と笑うティーダにコスモス陣全員が『ご愁傷様』と心の中で手を合わせる。
 それは、“オカンモード”となったティーダの迫力に圧された、今回の“生活指導”を免れた五人もコスモス陣全員と同じ心境であった。

 そして、しばしカオス陣では戦いの音は全く聞こえず、ただティーダの指導する声が響いていたという…。

怖い君 End(お題配布元:猫屋敷)

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あきゅろす。
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