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君はお人形(012 7`10)
 あれを見つけたのは、本当に偶然だった。

 戦士同士の戦いが白熱する中でイミテーションが大量に出現し、コスモスはおろかカオス陣も混乱に見舞われ、戦いは中断。一時的に休戦状態となった。

 互いに正体不明の敵に痛手を負った。特にカオスしか見えていなかったコスモスの被害は甚大だったという。
 攻め込むならば今、と言いたいところだがカオスも正体不明の敵に対してそれなりの対応をしなければならないとのことで、しばし沈黙を守ることとなった。

 そんな中、カオス陣でも比較的軽症(傷を負っても自力で治す。それがカオスクオリティ)であったセフィロスは見張りも兼ねた散策に出ていた。

 本来は一人で出る事は禁じる所だが、カオス陣は目的が共通しない限りは単独行動がモットー。
 あまり傷を負っていないセフィロスならば、不意打ちを受けても簡単に火の粉を払えるだろうという実力的な信頼もある。

 セフィロスは一人、歪みが生じ始めた世界を歩いていると、目の前の草むらに金色の何かが落ちていた。

 何かのアイテムか、それとも生き倒れか…。
 前者ならば入手、後者ならば放っておくことにしてセフィロスは草むらに近付く。

 草むらに倒れていたのは、後者。しかも、コスモスの十番目の駒である少年であった。

「…おい」

 無視してもいいはずなのにセフィロスは倒れている少年に声をかけた。だが、相手には意識もないのか黙ったまま。それに少しいらだったセフィロスは携えていた刀の峰で少年の背中を叩く。

 それでようやく目を覚ましたのか、少年が目を開けてセフィロスを見る。金色の髪に自然な海色の瞳がセフィロスを映した。

「…あんた、誰?」
「それは私の台詞でもある。貴様こそ何者だ。どうしてカオスの陣営近くで寝ていた」

 もし、少年がコスモスの駒ならばカオスの陣営近くで休む理由はない。少年の仲間とも思えるコスモスの戦士の姿も見えないことから、少年はあの混乱で単独で迷いこんだのだろうと考えられた。

 だが、少年はセフィロスの問いかけに目の前の彼は悲しそうに頭を抱えて蹲った。
 その悲しげな表情にセフィロスの人間的心が動いたのか、少し慌てたように少年に声をかける。その声を遮るように彼は悲痛な声を上げた。

「おい、どうし…」
「分からない…分からないんだ。自分が何者なのか、ここが何処なのかも…!」

 その言葉を聞いて、セフィロスが真っ先に思いついたのは『記憶喪失』。

 イミテーションの攻撃を受けたカオス軍の何人かに、記憶が交錯したり、所々抜けてしまったりするという症状が出た者がいた。
 彼らを含めてカオス軍は軽症だったためか『記憶喪失』などの症状は短時間で回復したが、仲間との絆を大切にするコスモス軍の場合は違うだろう。

 おそらく、この少年も仲間をかばってイミテーションの攻撃をまともに受けた。奇跡的にも消滅は免れたようだが、消滅寸前まで破壊された身体が再生するまでになんらかの支障があってもおかしくはない。

 そして、少年は復活した。自身の名前すらも失い、戦いばかりの世界に戻ってきた…。

 セフィロスは刀の柄を握り直す。今ここで斬り捨ててしまえばコスモスは駒を一つ失う事になり、戦力を削る事に繋がる。少年はすべての記憶を失い、困惑している。命を奪うのも容易いだろう。

 だが、セフィロスは刀を下ろして武器を消す。そして、頭を抱える少年にゆっくりと近づいて手を伸ばした。

「私と一緒に来い。お前の望む答えをやろう」
「…あんた、誰なんだ?」
「私の名はセフィロス。カオスの戦士だ。共に戦おう…ティーダよ」

 セフィロスが少年をそう呼ぶと、不安げだった少年、ティーダの顔が和らぐ。
 セフィロスは最後に召喚されたカオスの戦士から少年の名を日常的に聞いていたため、ティーダの信頼を得るのは容易い事であった。

 ティーダを先導しながら、セフィロスはほくそ笑む。
 今ここで殺すよりもカオスの戦士として幾らか利用してから消した方が、コスモス側にもティーダにも絶望が深いだろう。

 時がくるまでは、カオスの人形として使ってやろう…。

 そのセフィロスの思惑をティーダは敏感に感じ取り不安を生じさせたが、彼以外に縋れる者のないティーダは目の前で揺れるセフィロスのコートを強く握り、必死で後をついて行った。

 その後、セフィロスの隣には金髪碧眼の“人形”が侍るようになり、その世話を焼いているうちにセフィロスに情が湧いてしまい、ティーダがカオス軍の“癒し要素”となるのに、そう時間はかからなかった。

君はお人形 End

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