手を振る君(∞ 910)
本当に、本当に、最初は単なる遊びだった…。
事の発端はバッツやスコール(スコールはバッツに引きずられて渋々であったが)とやったカードゲームで俺が二人相手に大敗したこと。
バッツは罰ゲームとして『ジタンがティーダに「付き合ってくれ」と申し出る』という、何ともはた迷惑な条件を提示してきたのだ。もちろん、それは両者に当てはまる。
ゲームで負けたからには勝者のいうことは絶対だ。俺は渋々承諾し、罰ゲームを遂行すべくティーダを探す。あのティーダの事だ。きっと俺をからかって終わるだろう。…そう思っていた。
どうせ騙すなら、と劇団員の血が騒いだ俺は最高の演技で、皆の前でティーダに交際を申し出た。
レディに申し出をするように、甘く優しく、有無を言わせないような最高の誘い文句。
俺も最高の出来だと思っている。でも、ティーダならば笑って一蹴してくれるだろうと思っていた。
でも、予想外の事が俺に降りかかった。
俺からの告白を受けたティーダは戸惑っていたかと思うと、顔を赤くする。
おいおい、レディみたいじゃないか、とからかおうとした時、ティーダは赤い顔を俺に向けた。
『い…いいっスよ! こちらこそ、よろしくっス!!』
顔を赤らめたティーダの表情は真剣そのもの。その反応に一番驚いたのは告白をした俺。
まさか、受け入れてくれるなんて思わなかった。
いや、受け入れたら受け入れたでごめんだけど。俺、ノーマルだし。
すぐに訂正しようとしたがティーダの保護者である三人の睨みで言いだす事ができず、そのままティーダとお付き合いする事となってしまった。
それをバッツは笑っていたが、スコールは俺を殺さんばかりの視線で睨んでいて思わず尻尾がぴんと立った。
俺がティーダと付き合っている事は瞬く間に知れ渡った。
皆の前で交際を申し出たのだから、仲間内ならば納得がいく。でも、カオスにまで知れ渡っているなんて思いもしなかった。あいつらが広めたな、畜生。
特にティーダの親父であるジェクトには「こんなチビ助に、うちのガキが満足してくれるかぁ?」と至極失礼なことを頭をぐしゃぐしゃにされながら言われたし、
俺の兄であり、宿敵だったクジャには「よくやったね。これでキミを手に入れれば美しい小鳥と魚が手に入る」だの、意味不明な事をうきうきとしながら言っていた。
そして、今の俺は何故か味方からも敵意を向けられていた。
ティーダの兄貴分である三人と、前からティーダに片思いしていたスコールを始めとして、ティナやオニオン、リーダーにまで敵意を向けられているのはどういうことだと本気で頭を抱えた。
そんな中でバッツだけはいつもと変わらず接してくれているので、唯一の安全地帯だ。……敵意を向けられる事になった元凶だけど。
「ジターン!」
出た。元凶第二号。
告白しておいて、その言い草は無いだろう。と思われるだろうが、この言い方が一番しっくりとくる。
コスモスの中でもアイドルと言うべき存在のティーダは、誰からも愛されている。
俺だってティーダの事は好きだ。もちろん友情的な意味で。
でも、仲間の中には友情以上の好意を持っている奴もいて、特にフリオニールやスコールあたりは分かりやすい好意をティーダに示していた。
逆に、どうして気付かないんだと不思議に思う。
俺に向かって手を振っているティーダに俺はなんとなく手を振り返す。手を振り返すとティーダも嬉しそうに顔をほころばせるものだからたまらない。
たしか、俺よりも年上だよな?なんでそんなに可愛いんだ。
…と考えた瞬間、俺はまた頭を抱えたくなった。
同年代男に可愛い、は無いだろう。レディやちょっと失礼だけど、オニオンにならともかく。
ティーダはさっきも言ったけど年上だし、悔しい事に俺よりも背が高いし、ちょっと童顔ではあるがスポーツマンであるため、男らしい筋肉もばっちりとついている(まぁ、鎧を着ている奴とか現役兵士と比べると華奢な方ではあるけど)。
それらを総合しても、可愛いと思ってしまう。そんな自分が信じられなかった。
俺に近付いてきたティーダは俺の後ろから抱きついて、今日何があったか聞いてくる。
やめろ、潰れるから。その様がまるで主人に甘える大型犬みたいだなと思ったのは内緒。
俺はティーダの重みに耐えながら、自分の蒔いた種であるティーダと恋人らしい話をしていた。
…でも、ティーダとこうしているのはいやじゃない。俺がそれを知ったのはかなり後の事になってからだった。
手を振る君 End お題配布元:猫屋敷
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