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事実(凌牙+遊馬)
いらいらする。この感覚が拭えねぇ。

この日、学園の札つき『シャーク』こと神代凌牙は不機嫌さを体現した表情を浮かべていた。その表情のおかげで全ての生徒はおろか教師すらも遠巻きになり、彼の通る様を見ている。

その視線には全く目もくれず、最後の授業はさぼることを決めた凌牙は体育館裏にて懐を探る。
ここで懐から取り出されるのは煙草…というわけではなく、一つのドロップ缶。
札つきのワルにドロップというとてもシュールな光景であるが、それを見ている者はいない。凌牙は乱暴にドロップの蓋を開けて開けた蓋をポケットに入れる。勿論、後で缶を持ち運ぶために必要だからである。

凌牙は缶を傾けて揺らすとカラコロンという缶にぶつかる軽い音とともに、凌牙の掌に色とりどりのドロップが顔を出す。
白、黄色、緑…色とりどりのドロップの中で白を選び、他のドロップを缶に戻してから白いドロップを口の中に放り込む。ハッカの爽やかな味と甘ったるい味が口の中に広がった。

暫くドロップを舐めてある程度小さくなった所で凌牙は奥歯でドロップをかみ砕く。小さなかけらとなったドロップは凌牙の舌の上を滑り、喉を嚥下する。喉を嚥下してもまだ甘ったるさを残していたが、心はまだ落ち着いていない。もう一つドロップを食べようと缶を傾けた時だった。

「あれ?シャーク??」

間延びした拍子に聞き覚えのある声。凌牙はチッと舌打ちをして顔を上げた。凌牙の前には苛立ちの原因、九十九遊馬が驚いたように立っていた。

「シャーク、こんなとこで何してんだ?」
「それはこっちのセリフだ。九十九遊馬。お前こそ何をしている」
「俺たち一年生は五時間目で終わり。今から帰るところ」

確かに遊馬の服装はこれから帰るだろう服装。いつも一緒にいる筈の小鳥や鉄男はおらず、どうやら一人で帰るところだったようだ。
これと言った会話が続かず、このまま立ち去ろうかと思った時、ケホケホと乾いた咳が聞こえた。

「…お前、喉痛むのか?」
「へ?…ああ、今日の音楽でかっとびすぎて…」

そういえば、さっき自分に声をかけた時も声が掠れていた。遊馬のことだ。合唱かなんかで力強く歌ったから、少々喉が枯れているだけ。
そうとわかっていても何故か凌牙は遊馬の事を放っておくことができなかった。気が付いたら、遊馬の手の上に幾つかのドロップが乗っていた。

「へ?これ……」
「…これでも舐めてれば、すぐに良くなる」

凌牙はそれだけを告げるとドロップ缶を持ったまま背を向けていってしまった。遊馬は呆然としながら手の中で輝くドロップたちを見つめると、太陽のような笑顔を浮かべた。

「なーんだ。あいつも意外と優しいじゃん!」

遊馬はほんの少し掠れた声で言うと、掌に落とされたひとつを口の中に入れた。

紫色のドロップは甘酸っぱいグレープ味であった。

事実  お題配布元:ひよこ屋

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