ただ望むのは貴方の幸せ(覇王独自)
本当に望むのは、そなたの幸せだけだ。
我は元々、双子の妹として生まれる運命だった。
だが、我の体は母の胎の中で死んでしまった。
我は、自分が生まれる前に死んだという事を知った。
だが、姉は言ってくれた。“俺の中においで”と
我の魂だけは姉の体内に吸収され、我と姉は一つの肉体を共有した。
生まれてしばらく、我は「十代」と名付けられた姉と共に成長した。
覇王、という名前は、母の胎の中にいた時に十代がつけてくれた名であった。
己の肉体はなかったが、十代の傍にいられるだけで幸せだった。
だが、現世に生まれた十代は多くの辛い目にあった。孤独も味わった。
力のない我は、十代が立ち上がるのを応援するしかなかった。
それだけが歯がゆい。悲しい。我は何もできない。無力だ。
そう零すと、十代はそんな事はない。俺は皆がいてくれるから寂しくない、と言った。
だが我には、十代の心が「強がっている」と手に取るように分かった。
ずっと同じ肉体を共有していたから分かる。十代が望むのは、生身を持つ友人。
だからこそ、我は一度、十代の闇の中に消えた。己の力をつけるため。
その間、十代の泣き叫ぶ声が聞こえていたが、我は外に出る事をしなかった。
そして、月日が経って十代は生身の友人に裏切られた。見捨てられた。
十代は我のいる闇の世界まで堕ちてきた。その目は輝きを失い、虚ろだった。
我は悲しみと怒りを噴出させた。自分がいない間に、十代は傷ついた。
あの時と同じだ。我は十代を救う事ができなかった。
我は十代の肉体を借り、その報復を行った。我を止める事ができるのは、闇に堕ちた十代だけ。
十代、我が望んでいるのは…十代の幸せのみなのに。
“闇に降りた少女”は“闇に堕ちた少女”を庇うため、夜叉の仮面を被った。
“闇に堕ちた少女”は“闇に降りた少女”の行動を見て、泣くばかり。
“闇に降りた少女”は夜叉の仮面で、“闇に堕ちた少女”の悲しみとなる物を消していく。
ただ望むのは貴方の幸せ
(我が望むのは、そなたの幸せのみ)
(何故、そなたは我に笑顔を見せてくれぬ)
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