魔法少女リリカルなのはA's+
B1
「君にはホントに呆れるよ……!!」
怒号ともとれる声を発して魔力の収束を始める。
平行に振り上げた華奢な手。
握られたシュネーヴァイスの先端。
集うオレンジの魔力には一切の迷いなど無いように見えた。
「まって!話を聞いて欲しいの!!」
「…………」
答えずただ眼前の敵を見据える。
そしてどこまで臆病なんだと自分を嘲笑った。
見据えたはずの目の前の少女の顔にピントを合わせることが出来ない。表情を見ようとすると目が泳ぐ。
はたしてこんな馬鹿な話がこの世のどこにあるんだろうか?
覚悟は嫌と言う程決めていたはず。なのにその結果がこのザマ。
まるで出来の悪い三流悲劇。いやこの場合喜劇と言った方がまだ救いようがあるかもしれない。
軽く自虐した後、かなでは手中のデバイスへ視線を落とす。
そこには収束された魔力が荒れ狂っていた。
「僕には話すことなんてなにもないよ?」
話を切って捨て、魔法のイメージを思い描く。
「かなでちゃんに無くても、わたしにはあるの!!」
「……なに?」
なのはの剣幕に押されたのか、しぶしぶといった風に聞く姿勢を見せたかなで。
しかし収集した魔力は四散させる事無く留まらせたまま、いつでも攻撃の出来る体勢を。
それを確認するとなのはは一度ムッと口をへの字に曲げて、しかしほっとしたように顔を緩めた。が、それも一瞬。
真剣な眼差しに戻し、言葉を選ぶように一拍子間置く。眉根を寄せて、まるでありったけの想いよ届けと言わんばかりに切実に、慎重に話し始めた。
「あのね、かなでちゃん?」
「うん」
「あれから……かなでちゃんと臨海公園でわかれた後、皆と協力してかなでちゃんのことを色々調べたんだ」
若干不貞腐れた様にムスッとしていたかなでだったが、色々調べたという言葉にピクリと肩を震わせる。
「それでね。ほとんどデータが消されちゃってたけど、かなでちゃんの過去も知る事ができたんだよ?」
「……僕の過去?」
思考が停止する。
アレほど探し追い求めていた過去が今目の前にある。
そもそも管理局と言うほどの組織なのだ。人一人の過去を探るには充分すぎる設備や人材が揃っている。
しかし、相手は憎むべき管理局。
過去は喉から手が出る程知りたい。でも、敵にコウベを足れるのだけは死んでもしたくないと、思考が強い拒絶を示している。
そもそもなのはが知り得た自分の過去が正しいかも分からない。
そんなかなでの心中を察してか、なのはは悲しげなまま話を続けようと口を開いた。
「ぁ」
「まって。ちょっとまって」
かなでの制止のセリフに出鼻を挫かれ、言葉を飲み込む。
それだけじゃない。何か別のモノを感じてかなでを凝視する。震える肩に風になびく髪。顔を見ようにも相手が俯いてしまっていてはどうしようもない。
かなでは困惑してる。
頭の回転が比較的早いかなでの頭は色々と考えるうちに何を考えていたのかも、何を問題視していたのかもごちゃごちゃになって溶け合った。
完全にオーバーヒート。
それ程かなでにとって、なのはの一言は衝撃的だったのだろう。
ぐるぐると回る視界に、ぐるぐると廻る思考。
その内、感情の制御が出来なくなって目頭が熱くなる。
あぁ、そう言えば前にも泣き虫だと言われたっけ。
何も思い浮かばず口が勝手に動き出す。
「…わ……ない……」
「えっ?」
「わからない。そんな事急に言われたって!……僕、わからないよっ!!」
「かなでちゃん!?」
なんでだろう?
知りたかったはずの過去を知るのが怖い。
過去を取り戻す。
ただ其の為だけにこうして走ってきたのに。
なのはの口から間違いを吐かれるのが怖い。
私はそんなに……
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