オリジナル小説 マッサージと針 「ふぅ……会議は明日か……」 私は今、この国有数の一流ホテルに居る。 それは、明日開かれる『世界平和国際会議』に我が国の代表として参加するためだ。 会議の主な内容は、恐らく軍備縮小だろう。 だが我が国の状勢を考えると、今軍備が縮小されればレジスタンスの連中が騒ぎ出すのは目に見えている。 「何が『今の政府は腐っている』だ。 こちら側の身になってから発言してほしいものだ」 外したネクタイを備え付けのハンガーに掛け、スーツのままベッドに倒れ込む。 ここ数日この会議のためにまともに休みを取っていないせいで身体は限界だ。 「誰かマッサージでもしてくれないかな……」 誰に頼む訳でもなく、ボソリと本音が口を突いて出た。 それから暫くして…… 部屋のチャイムが鳴らされた。 時計を見れば午後の9時を少し回った所。 こんな時間に誰だ? 再び響くチャイムの音。 どうやら音の主は私に考える時間を与えてはくれないようだ。 仕方ない、用件だけでも聞いてお引取願おう。 私はベッドから降り、ドアへと向かった。 「よいしょ……どちら様ですか?」 ドアを開けるとそこにいたのは…… 「当ホテルの特別サービスで、マッサージをしに参りました。」 いかにもマッサージ師と言わんばかり格好で、男が一人立っていた。 「いや…別に頼んではないのだが……」 確かにマッサージをしてほしいとは思ったが、フロントに電話をした覚えは無い。 「ですから…特別サービスなのです。追加料金は頂きません。」 料金はいらない?つまりタダと言う事か。 ………別にマッサージ代で生活が左右される程の貧乏ではないが、せっかくだ。ホテルの好意も無駄にする訳にもいかない。 「そうですか。ならお願いします。」 「はい、お任せ下さい。」 男は部屋に入る。 「では早速ですが、ベッドに横になって頂けますか?」 「あぁ、わかりました。」 私は男に言われるまま、ベッドに寝転び俯せになる。 「背中に乗りますので少し我慢して下さい。」 ギシ…… 流石に大の男二人が乗るとベッドも軋みの音を立てるか。 暫くすると、背中に指を押し付けられるのを感じる。 少し力が弱い気がするが、これはこれで気持ちいい。 それに疲れ切ったこの身体にはこれくらいがちょうど良い気もする。 ギシ…ギシ…… 男が力を入れる度、ベッドが軋む。 …男二人でベッドを軋ませても何も楽しい事はないな…… そろそろいいだろう。 あまりやり過ぎてもかえって毒だ。 私は感謝と終了を告げる為に首だけを後ろに回した。 「君、ありがとう。もういいよ。」 「えっ!?」 その時男の手には、数本の細長い針が握られていた。 いきなり私が振り返ったので驚いて硬直している。 「おや?それは?」 「あ、あの……これは、その……」 焦っているのか、かなりしどろもどろだ。 「君、針治療も出来るのかね?」 「え?……あ、は、はい!」 「そうか、それは良い。私も針の知識は少しあってね。早速やってくれるかね?」 何かを戸惑っている男を背中から退けて今度は仰向けになる。 「さぁ、頼むよ。」 「は、はい……」 針治療に馴れていないのか、ぎこちない動きで針を打ち込んでくる。 少しツボからズレているが、まぁ仕方ない。 そのまま10分程が過ぎ……… 「やぁやぁ、どうもありがとう。お陰で身体かだいぶん楽になったよ。」 「は、はぁ……」 こうして男は緊張の糸が切れたような顔で出て行った。 [次へ→#] [戻る] |