幼馴染み
9
「……っ…!」
このタイミングじゃバッチリ瞳が重なってしまうのは、仕方がない。
早まる鼓動に、上昇する体温。
蒼の姿を目にしただけで軽い眩暈を覚え動揺する俺に対し、意識する方がどうかしてる……とでも言いたげに、その佇まいは普段通りだった。
静かに俺を見据えてくる蒼を直視出来なくて、俺は慌てて視線を外す。
その直後、蒼が何事か言いたげに薄ら唇を開いたのを――――馬鹿な俺は完全に見逃していた。
キーンコーンカーンコーン……。
運がいいのか悪いのか、タイミングを見計らったように授業開始を告げるチャイムが校内中に響き渡る。
クラスメイト達は教師が来る前に自席に座ることを優先し、教室内はバタバタと騒がしくなった。
俺はと言えば机上に出しっぱなしにしていた分厚い教科書をパラパラ捲り、頭と瞼ごと伏せて時間が早急に経過することを祈りつつやり過ごす。
俺のすぐ側を通過する長い脚。それには全く気付かないフリをして、教科書の端を掴む指先に力を込める。
――――この時ばかりは、否応なく自分の名字を呪った。
背後の、椅子の脚を引き摺る音だけが嫌に鮮明だ。
背中にじっとりと浮かび上がる汗は一体何を意味しているのか。
幾ら何でも、同じ教室にいて、席も前後してて尚且つ家まで隣同士という状況でずっと蒼を避けられるとは思ってないけど。
でも、昨日の今日なら一日ぐらい、避けてもいいと思うんだ。
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