幼馴染み
9
正に間一髪、だ。
目の前を通り過ぎるトラックを愕然としながら眺め、最初は絶句していた俺だけど、隣で一緒に座り込んでいる蒼を見るとその表情はいつになく真剣で。
「あ……」
だから、ありがとう、を言おうと口を開いた途端。
「ちゃんと前見てろよ!」
珍しくも、蒼の怒声が俺の鼓膜を直撃した。
普段、余程のことがないと大声を出さない蒼。
そんな蒼に大声を出させるようなことを仕出かした俺。
自分が情けなくて、ごめんの『ご』の字も出てこない……。
完璧黙り込んでしまった俺とは対照的に小さな溜息が耳を掠めた。
「……した…」
それは、溜息に紛れて聞き逃した声。
俺がその真意を確かめるより先に暖かな胸元へ身体ごと引き寄せられた。
「心配した……」
それは小さな小さな独り言にも似た声音で。
でも、抱き締められる腕は物凄く力強くて、だから本気で俺を心配してくれたんだってことは分かった。
「ごめん……」
蒼は、言葉では何も答えてくれなかった。
それでも、こうして密着していると、こんな時に不謹慎だとは思うけど……蒼の腕の中で安心しきっている俺がいることを、知った。
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