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X7 〜ペケナナ〜
悩ましき男の性(さが)
「はぁ…疲れた〜」


アスカに無理やりチームに入れられた次の日、誰が言ったのかシンジがあのレビン乗りだということが学校中に広がっており、シンジは朝からずっと会う人会う人から質問責めやチームの勧誘を受け、昼休みには力尽きた様に机にだらけていた。



「それにしても、何時の間に広まったんだろう…昨日は何も無かったのに」






ため息混じりに呟いていると『カシャッ…カシャッ』とカメラのシャッターを切る音が聞こえてくる。



「ん?…」



顔を上げてみると、レイの前の席の『相田ケンスケ』というクラスメートがしきりにシンジの姿をファインダーに納めようとしている。



『おっ!!いいね。そのまま動かないでくれよ』



カシャッ



反射的にケンスケに従ってしまうシンジ。



「凄いよな碇は……俺たちと同い年なのにあの死神と互角に走っちゃうんだからよ」



ケンスケはプロのカメラマンのような動きでシャッターを切り続けながらシンジに話し掛ける。



「おかげで今回のバトルのビデオがバカ売れだよ」


「ビデオ?」


「俺さ、中学ん時からあの死神のバトルを撮ってんだ。最初はただの趣味でコレクションの一つだったんだけど、最近になってそのビデオをダビングしてくれって奴が増えて、今じゃ一本千円で売っても品切れ状態さ」


「へぇ」


「特に今回のは今までにない売れ行きだよ。他校の連中まで買いにくるからな」


と言いながらあらかた写真を撮り終えたのか、ケンスケはカメラを自分のバッグにしまい込むと、かわりに一枚のDVDを取り出す。


「これでお前の写真も撮れたし、やるよコレ」



差し出されたDVDに死神とシンジのバトルが収められている事は察しがついた。



「…ありがとう」



「またリベンジする気があるなら教えてくれよな。いつでも準備しとくからさ」



そう言って教室から出て行く。







これで原因がはっきりした。貰ったDVDのパッケージには丁寧にシンジの名前がプリントされている。これを彼から買った人全員が観たんだと思うと余計に疲れがのし掛かってくるようだ。



















それから数分、つかの間のボーっとする時間を堪能していると、ヒカリと一緒にアスカが昼食から帰ってきた。





「な〜に疲れきった顔してんのよ!!シャキッとしなさいよシャキッと」



疲れているのに更に疲れてそうだ。




既にスカートを規則の丈より遥かに短くして、暑いからと言って胸元のボタンを開けているアスカだが、その方が似合っていたりする。



しかし、「ジロジロ見ないで!!」という顔をするくらいならやらなければいいのにとシンジは思う。何故か?目のやり場に困るからだ。





それにしても、教師という人種はどうしてこう可愛い女子に甘いんだろうか?


今も廊下で「ボタンしろ!!」って男子が怒られてるのにアスカには手を振って通り過ぎる。




世の中はいつの間にか女性優遇の時代なのか…



「なんで露骨に嫌そうな顔すんのよ。この私が話し掛けてあげてるんだからもっと嬉しそうな顔しなさいよね」



教科書が開いて置かれたままのシンジの机に足組みして座るアスカ。



「はいはい」



適当な返事をし、平静を繕うシンジだが…



すぐそこにあるスラッと長くて綺麗な肌の脚はライオンの檻に放り込まれた餌を例えるのが早いだろうか。





アスカが無防備に足を組み替えた瞬間、目が行ってしまった思春期で色んな事に旺盛な年頃のシンジを一体誰が責められよう。



「何見てんのよエッチ!!」



「イテッ!?」



顔を赤くしたアスカにこずかれるシンジ。


「仕方ないじゃないか!!」とは言えないシンジ。



果たして、それは目が行ったシンジが悪いのか?それとも男の悲しい性(さが)を理解できないアスカが悪いのか?



鶏と卵。どっちが先かという議論くらい答えが出なさそうなので、ここはあえてスルーしよう。



「さっきのメガネと何話してたの?」



「これをくれたんだ」



「DVD?……まさか変なのじゃないでしょうね」




男同士、アスカにとっては特に如何にもという印象を持つケンスケから渡されたDVDがまともなハズがないという目でシンジを見る。



「そんなんじゃないよ!!」



「どうかしらね〜」




今度はわざとらしく足を組み替えるアスカ。目を逸らす反応が遅れるシンジ。どうやら動揺するシンジの姿が気に入ったようだ。この時からアスカは度々シンジにちょっかいを出すようになる。





もちろん今回はわざとなのでその中(?)は見せないようにしているが、逆に見えそうで見えないのがイイという人種も少なからず存在している事をアスカはまだ知らない。






そして、アスカの事が気になるクラスメートは少なくないのだ。どのくらい居るかは、今小さくガッツポーズもしくは鼻の下を伸ばした男子を数えると早いだろう。




1、2、3…







…今、教室に居る男子全員だ。







そんな男子たちの想いと目線をよそにシンジとアスカは話しを続ける。



「コレ…僕が走ったのが入ってるんだって」


「えっ嘘〜!!」




突然興味津々で身を乗り出してDVDを見るアスカ。その時もの凄くアスカの顔が近づいたのでシンジは慌てて仰け反るようによけた。



さらっとした髪から甘い香りが漂う。綺麗なうなじから首もと。



アスカの挑発+とっさの行動の後でまだ脳が正常に作動さないシンジはついつい見てしまう。




それにしても、今のシンジは凄い体勢だ。少しでもバランスが崩れれば椅子ごと転んでしまうくらいの仰け反り方。




危機に迫られて集中力が増したせいなのか、そんなピンチな時に限って制服の胸元から谷間が見えている事に気がついてしまったりする。





悲しすぎる男の性…






今、心のリミッター振り切れた




「それじゃあさ……!?」




アスカがシンジに目を合わせようとしても目線がクロスして合わない。




今のシンジの体勢はよける為にとった仰け反り姿勢だが、アスカには「そこまでして見たいか!!」という姿勢に見えて仕方ない。



だって本能に支配された目線と体は嘘をつくことが出来ないから。




「こ〜ん〜のぉぉ……」




アスカの目に怒りの神が宿ったのが見える。



「バカシンジ!!」



ここから先は非常に暴力的なシーンを含む為、ひとまず一気に3時間ほど時間を経過させよう。






















「………知らない天井だ」




もう少し男の悲しい性を理解して頂きたいという男子全員の思いを跳ね返す程に強力な一発をアスカにもらったシンジは何故ここで寝かされているのか分からない。



また記憶がなくなったらしい。



頭の傷が開いたのかズキンと痛みが走る。


頭を押さえながら体を起こすと、横に膝に本を開いて置いたまま顔を俯かせる女子が座っていた。



その髪色からして綾波レイだという事はすぐにわかったが、全く気配が無かった為に幽霊でも見たように驚いてしまった。



「あ、綾波?」



「…気づいたのね」



本に詩織を挟み顔を上げると、その紅い瞳で真っ直ぐシンジの瞳を見つめる。



「看病してくれててたの?」



「…保健委員だから」



時計を探して時間を確認するともう放課後だ。



「もしかしてずっとそこに居たの?」



と聞くとコクリと頷く。



「ゴメンね。つまらない事でつき合わせちゃって……先に帰っててよかったのに」



シンジの頭に巻いた包帯がほどけてズレ落ちそうになる。


シンジが自分で押さえて巻き直そうと頭に手をかけようとした時、レイが身を乗り出して落ちかけの包帯に手を掛ける。



「そのまま動かないで」



その指示通りにカチンと硬直化するシンジ。


ベッドに座ったマネキンのようになったシンジの包帯を優しく丁寧に巻き直すレイ。


互いの体が急接近したにも関わらず、アスカの時のように興奮するような考えは浮かばず、逆に暖かさと安心感を感じていた。



その光景はまるで転んで怪我をして泣きついて来た子供に絆創膏を貼ってあげている母子の様。



「いい絵だね。お似合いだよ、お二人さん」


音も気配もなく突然カーテンの隙間から体を乗り出して現れたカヲル。



シンジは驚きと恥ずかしさで顔を真っ赤にして石化する。逆にカヲルなどきにしてない様子で淡々と作業をこなすレイ。



シンジが石化したおかげで非常に包帯が巻きやすくなり、あっという間に巻き終えた。



「素敵な時間を邪魔して悪いんだけど、パソコン室に緊急召集だ。」




カヲルは上を指差しニコッと微笑んだ。

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