X7 〜ペケナナ〜
ようこそ白煙高へ
月曜の朝、4月であるにも関わらず、真夏のような日差しがジリジリと肌を焦がす雲一つない晴天の空の下、暑い暑いと言いながら汗を拭き、学校に向かう登校中の生徒たち。
彼らがくぐる校門の脇には『入学式』と書かれた看板。登校してくる生徒をよく見れば、真新しい制服を着た者もチラホラと。期待と不安が入り混じった表情をしながらも顔を上げ、これからの高校生活を見据えるように校門を通り抜けていく。
しかし、そんな新入生の中に一人、校門をくぐれずに立ちすくむ少年が居た。
「………」
顔を俯かせる少年の名前は『碇シンジ』。『第三東京都立第三中学校』出身のごくごく普通な少年。
両脇を他の生徒達が不思議そうに眺めながら通り過ぎていく。
「は〜い、おはよう。おはよう……んっ?」
学校から生徒たちに挨拶をにこやかに返しながら校門に向かってくる一人の女教師『葛城ミサト』29才独身。
赤いジャケットにミニスカート、おおよそ教師には似つかわしくない派手な格好で、その長い髪を靡かせながら笑顔を振りまいて歩く。すると、当然の様にシンジの姿を見つけ歩み寄る。
「……ねぇ君、どうかしたの?具合でも悪い?」
シンジの肩に手を置き、少し中腰の姿勢で顔を下から覗き込む。
「………いえ、何でもありません。大丈夫です」
そういってシンジはゆっくりと校門を抜け、丸めた背中をミサトに見せながら校舎の中へと姿を消した。
「………ん〜…」
また難しい奴が来たなとミサトがシンジの後ろ姿を複雑な面もちで眺める
しかし、そんな考えを吹き飛ばすような生徒がタイミングよく爆音と共にやってくるのが聞こえた。
「一応来たみたいね…」
校門前で腕組みして立っていると、目の前にS30Z顔にするキットが組まれた180SXが停車した。極太のマフラーからは重低音が轟き、シルバーの車体は日の光を反射してキラキラと輝く。
「おはようございます。今日の化粧は一段と気合いが入ってますね」
ガルウィングに改造されたドアを垂直に開けて車から降りてきたのは、白銀の髪に紅い瞳が目を引く『渚カヲル』。
本来なら今日からこの高校の二年生だが、訳あって留年し、今年も一年生をやり直す事になった学校一の問題児である。
女子からの人気は校内に留まらず、他校の女子や近所のおばちゃんに致まで不動の地位を確立しているという。噂では、カヲルの留年が決定したことで、志望校をここに変えた生徒も居るとか居ないとか。
「化粧の事はどうでもいいの…入学式に校門前に横付けするなんて偉くなったもんね」
「先生が見えたんで挨拶しとかないといけないかなと思って。今年も僕の担任なんでしょ?」
「そうよ、ったく…何で私があんたみたいな問題児の世話しなきゃなんないのよ。」
「それも仕事でしょ」
「あんたは只でさえ上に目を付けられてれのに、ここの教師にまで睨まれたら面倒よ。少しは私の身にもなりなさい」
腰に手を当てて注意するミサトの話しを軽く流すカヲル。
「そうそう、そういえばまた新しいマフラーに交換したんですよ。前のだと下のトルクはあったんですけど、やっぱり上の抜けが悪かったんで。それにいい音でしょ♪」
逆にマフラーの自慢をされ、「ダメだコリャ」と肩を落とした。
「そうだ、今年のクラスメートには面白そうな子いますか?」
「中学からの資料を観る限り数人ってとこね。でも去年と大して変わらないて思うわ」
極秘と書かれた中学からの資料を簡単にカヲルな手渡す。
それを車に寄りかかりながらバラバラと捲って読むカヲル。何人かの付箋紙が付いた生徒はじっくり読むが、それ以外はざっと読んで飛ばす。そうしていたら手が滑ってその中の一枚が地面に落ちた。
「おっと…」
「ちょっと〜大事な資料なんだからもっと丁寧に扱ってよね」
「はいはい」
しゃがんでその紙を取るついでに一通り読んでいると、学校の予鈴が鳴り響いた。慌てて時計を見るミサト。
「あっ、もう時間じゃない!!」
「何かあるんですか?」
「私、今日の式の司会するのよ。あんたどうせ式に出ないんでしょ。その資料こっそり私の机に返しといて!!」
そう言って慌ただしく学校の校舎に駆け込んで行く。
カヲルはその様子に目もくれず、興味深そうにじっと付箋紙も付いていないその資料を読んでいた。
「碇シンジ君か……居るじゃないか。磨けばとびっきり光りそうなのが」
資料をまとめると車に放り込む。
「返せとは言われたけど今日は気分じゃないし、今度にしよ」
そう言って自分も車に乗り込む。
「生徒諸君、ようこそ白煙高校へ。歓迎するよ」
カヲルは車をバーンナウトさせ、歓迎の気持ちを込めて後輪から真っ白な白煙を撒き散らかす。
「またやってるわねあの馬鹿」
体育館へ向かう途中に聞こえたスキール音でカヲルのバーンナウトに気づいたミサトは呆れた顔で笑った。
時に2017年…
その年の第三新東京都立白煙高校の入学式は朝から少し慌ただしく始まった。
しかし、それはこれから刻まれる数々の戦いの余興にもならなかった
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