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短編です。
博多弁と名古屋弁



バレンタイン。それは男にとって大事な日である。

ばってん。俺の周りは男しか居ない。
きっと今日も母さんから貰うんばい。

「昌ちゃーん?今日は早く帰って来てね〜」

「…分かったばい。母さん」

そう言って学校へ向かうが内心ドキドキたい。
行く途中で角から現れた少女にぶつかり、「きゃっ!ごめんなさい!お詫びにこのチョコを…かっこいい!私と付き合って!!」なんてあるかもしれんたい?。

「ふふっ、今日こそは」

なんて呟きながら角を曲がる。
と、何かにぶつかった。
が、しかし。
飛ばされたのは俺で、地面に強かに後頭部をぶつけた。

じ、えんど。





目を開けると木で出来た天井が見えて周りを見渡す。

もしや、ぶつかって気絶してしまった俺を心配して家まで運んだんじゃなかろーか?
となると「ごめんなさい!私、おっちょこちょいで、大丈夫?スープを作ったの!飲める?はい、あーん」なんて事が…

「頭大丈夫か?」

なん、その低いハスキーボイス…。
あれた、バイト先に居る先輩が確かそのくらい低い声で毎日ニヨニヨしてる俺に頭大丈夫か?と言っとるのを思い出した。

いや、きっと風邪でも引いて低いだけばい。
聞き間違えばい。

「あ、はーい。大丈夫ばーい……」

寸分違わぬ先輩ですた。
しかもスープ持ってるやん。
あれ?あーんするん?

「お前寝ながらニヤニヤしてたぞ」

俺のデコを弾いて隣に座った先輩は、とても良い表情でした。

「つかぶつかって気絶たぁ、弱過ぎんだろ」

「んや、先輩、鏡見て言うてんて」

貴方でかいですからね。
俺もでかいけど。
確か188pになりました。

先輩は198pやけど。

「お前ずっと寝言で君からの愛ならば受け取るばいとかニヤニヤしながら呟いてたぞ」

「な…先輩はモテるけんよかねー…俺もあやかりちゃーよ」

そう言ってブーたれた俺の頭撫でるんやめてくれん?
さみしかだけやけん。

「彼女欲しいのか」

「そら当たり前やし…先輩はイケメンだけん余裕やねー。俺もイケメンに生まれたかよ」

「お前は訛りを直せばモテるだろ」

訛りなんて関係なかよ。
関西弁とかモテるやん。
羨ましかー。

「訛っててすんませんねー。直せんかったんだけんしゃあなか」

「でも良いと思うぞ?博多弁可愛い」

可愛いって…
初めて言われた気ーする。
怒ると怖かてしか言われんけん。

「どぎゃん言われようが顔は平凡だけん」

「いんや、おみゃーのどこが平凡だぎゃあ」

訛り訛り言う先輩は実は名古屋出身だったりする。
いじける俺に久々の名古屋弁を聞かせてくれた先輩に思わず噴き出した。
なーんかどうでんよーなったわ。

「おみゃーさんは目付き悪りぃ金髪ヤンキーだがや…めんげらしいわ」

「先輩の方言よーわからんばい?」

いつも分かりやすい言葉を使う癖にたまに言う、めんげらしい?の意味が分からんとばってん…

「チョコやーたら俺があーます」

「よかよか!そんな男にもろーてもさみしかだけばい!!」

「おみゃあさん、喧嘩うっとるんきゃあ?」

「どぎゃん考えとー!だってんさみしか言うやろーが」

「優しい優しい先輩がチョコやる言ってんだぎゃー、素直ん受け取るん当たり前じゃなきゃあかぁ?」

羽目が外れ始めた先輩は、たまにこれをやってしまうんたい。
なんやかんや言うても方言て抜けんし落ち着くから喋ると止まらんのはしゃんなかと思う。
けど、先輩。
俺はほとんど分からんとよ?

「先輩先輩、一番難しか名古屋弁つこーてや」

「一番きゃあ?…そーだやなぁ…あー……おみゃあさん、いんちゃんやっとー、どえりゃあにゃあとったぎゃあ」

「おー!全く分からんとばってん…」

文字に置き換えてもやっぱ、やゆよが多くて分からんばい。
熊本やってもまだ分かるんやなぁ。

「正解何て言うん?」

「お前はジャンケンして凄く泣いてたなーって言ったんだなも」

「名古屋弁ておかしかー!俺んとこまだまだ可愛かばーい」

「おみゃあさんとこはどうなんだぎゃあ?」

「にしゃの雪隠こわーて泣きよったん知っとるばい?……」

「何かが怖くて泣いてたの知ってる…?かな?わかんね。」

「正解はお前がトイレ怖くて泣いてたの知ってるよーって意味ばい」

二人して笑ってからスープを受け取った。
俺が猫舌なん知っとるから飲めるまで馬鹿話してくれたんやね。

「にしゃのそーゆーとこすいとーよ」

「…っ!」

なん?そんな真っ赤になって。
まるで俺が好きみたいやね。

「あれ?すいとーって意味教えた事あったっけ?」

「…調べた。前に調べた」

「博多弁好きになってくれたんやねー」

「違う…お前にいつか言ってもらいたくて調べた」

「…え」

「ぁー…おみゃあさんは彼女欲しいんだぎゃ…忘れよったんだなも」

ちょ、頭回りません先輩。
だけん、先輩、それって。

「…先輩、俺をすいとーと…?」

「…ん、でらすいとー」

顔を隠して蹲る先輩に不覚にもドキドキした。
やって、初めてだけん、ドキドキせんのがおかしいやろ?

だけん、俺、先輩気になっとったんやもん。

優しくて頼れる先輩はそらぁモテるけん。
せやったらはよ彼女作って先輩は先輩のまま終わらそう思ってたんよ?
やのに、先輩。好きなんやて、俺が。

「…俺も、すいとーよ」

「…、嘘やが。おみゃー。彼女欲しい言ってたやみゃー」

「そんなん、先輩は絶対俺なんか見らんて思ってたからやん」

「ホント?嘘とか後で言っても離されんって…でらすきゃあて思ってたんだなも…」

ベッドに頭を乗せた先輩の耳が真っ赤で、もしかしたら俺も真っ赤かもしれないと思ったばってん隠さんかった。
やって、先輩可愛いんやもん。

「俺、言うか迷って、すきゃあてすきゃあて苦しかったんだぎゃ」

「分かっとーよ。俺もくるしこうて、しゃーなかったんばい?」

「愛しとるて、キスしてえーか?」

「えぇよ」

聞き取りづらい訛りが消えて口付けの音だけが響いた。





「なぁ、すいとーよ?」






後で調べたらな。めんげらしいて、可愛いって意味やったんやね。
先輩は回りくどかばい…(ーー;)














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あきゅろす。
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