[携帯モード] [URL送信]

短編です。
運命と必然



どうして。
どうして先にー

深い森の中で赤い髪が揺れる。
俺の腕の中で静止する。

いつだって遠くに想いを馳せた。
遠い国の王子と遠い国の王子。
どうして出会ったのか。
どうして恋をしたのか。
後悔ばかりが過ぎて行く。

あまりにも唐突に。
必然を連れて。

『王子の消息が途絶えました』



そんな通知要らなかった。
そんな紙切れ要らなかった。

戦いは常にどこかで起こり、誰かが死ぬ。
王子であれば戦う。
だが、どうして先に逝ってしまったのか。

約束したじゃないか。
共に手を取るまで生きようと。

忍んで逢う事もあった。

約束の地で彼は死んだ。

約束した日。
共に国を捨て、異国に発とうと決めた日。
彼は死んでいた。

いつかそうなると、思っていた。

戦えば怪我をした。
戦えば死んでいく人間がいた。
そこに自分や彼が居るかもしれないと胸を締め付けた日もあった。

しかしどうしてこの日なのか。

唯一同じ赤目は閉じられ、唯一ではなくなっていた。

抱きしめた体は既に硬く冷たい。
息は途絶え、笑い掛ける事はけしてない。

「あぁ、運命はこうも…」

空は憎い程青く、草は穏やかな風を浴びてそよぐ。

たった一人の人間が、死んでいた。
そう片付けるには俺達はあまりに近かった。

落ちる雫は冷たい彼に降り注ぎ、慌ててそれを拭う。

綺麗な死顔で、眠っているようにも見えてしまう。

いつもの冗談の様に笑いながら起きるのではないか。
実は死んでなんかいないんじゃないか。
なんて錯覚する。

降り注ぐ木漏れ日が二人を照らした。

見えない片目から雫が零れた気がする。
手を当てれば透明の液体に触れ、ただそれだけの事だが俺は何も見えなくなった。

彼の胸に顔を擦り付け、声を殺す。

あまりにも安らかで。
あまりにも綺麗に。

この時代を恨んだ。

戦いと言うくだらない事のために死んだ彼の手を掴む。

硬く、冷たい。
指も曲がったまま。
あの日渡した指輪がキラリと光った。







「…また。あの夢」

俺が必ず見る夢。
最近はずっと毎日見続けている。
あの人が死ぬ夢。
たまに生きている時の夢も見る。

少しやさぐれているが、恋人である俺にだけ優しいあの人。

あの日死んだ彼は、夢の中の俺を大切にしていた。

戦いばかりの世界で、唯一と言っていい程の俺自身の世界。

ゆっくりと起き上がり、歯を磨こうと洗面台に立つ。
どうしてなのか、鏡に映る俺の目は赤かった。
それだけではない。夢の中の俺と同じく、左目だけ見えない。
ある日突然痛みだし、気がつけば眉辺りから真っ直ぐ頬まで切り傷が出来た。
それも、とても古い傷だ。

病院に行っても原因は分からず、それでも私の子だと育ててくれた母は、綺麗な目だと言っていた。

夢の話も何度もしている。
目が赤いのはその人との唯一なんだね。と話していた。

「かあさーん。歯磨き粉どこー?」

鏡から顔をズラし、隣の部屋に居た母を見る。
綺麗な金の髪が揺れた。少しいたんでいるが。

「えー…母さんわかんなーい。もう水で洗いなさい…」

「適当だなぁ」

面倒臭そうにソファにダイブした母に、きっとまた寝るんだな。と苦笑した。

どうにか探し当てた歯磨き粉をチューブから出すと歯ブラシに少し乗せた。

歯を磨こうと口を開けた途端、見えない左目に激痛が走った。

持っていた歯ブラシは手から滑り落ち、べちゃりと床についた。

慌てて来る母の気配に、少し安堵した。

激痛の中。どこかで体が歓喜している。

『あぁ、この日が来た』と。

認識したと同時に痛みは消え、心配する母に大丈夫だと笑った。

顔を上げた時、母に抱きしめられ、どうしたのかと問うと、左目が泣いていると小さく笑った。





今日転校する先の学校に着くと、どうしてもじわじわと痛む左目が気になった。

顔を上げ、学校の屋上を見る。

金網に手を掛け、俺を凝視する人を見るより先に目の奥がチリチリと認識しだす。

涙は止めどなく溢れ出し、ただ。それが運命なのか必然なのかは分からない。

きっと彼だと心が叫んだ。

弾かれた様に駆け出し、屋上を見やると彼の姿は無く、もしかしたらただの妄想だったのかとも思った。

だが、確認しなければ気が済まなかった。

学校に飛び込み、階段を一段飛ばしで走る。

俺を見た生徒や教師は何事かと大口を開けている。

階段を二回駆け上がった時、誰かの走るスリッパの音だけがやけに響いた。

俺は三回目の階段を登り始めた時、反対側に立つ彼を見つけた。

赤い髪の赤い目をした少しやさぐれたあの人。

恋い焦がれ、胸を締め付け、死んでいたあの人が居た。

俺は思わず彼の胸に飛び込んだ。

左目だけではなく、両目から流れる雫が、彼のシャツに吸い込まれて無くなった。

俺をきつく抱き締める彼もまた、泣いていた。

「…ライト…ライト」

ギュッと締め付けられた胸に、やっと会えたんだと、また苦しくなった。

「ライト…ごめ」

「謝んな……もう、いいから」

夢の中で見た彼と同じ身長で、同じ顔で、もしこれを運命と言うなら、もしこれを必然と言うなら。

あまりにも幸せな事ではないかと。

そう、思ったんだ。


「リーク…これ」

「…っ」

俺が取り出したのは、あの指輪。
とまではいかないが、似せて作った銀の指輪。

それだけで分かったのか、受け取った指輪を握り締めて、俺の額に額をつけて、涙を零した。

ありがとう

そう紡がれた甘美な響きに二人、また雫を零した。





あとがき。
ここまで読んでいただいてありがとうございました(=^ェ^=)

ちなみに現世では陸と来疾と言います。
こんな運命あって良くね?みたいな感じで思い立った途端に書いたので、もしかしたら変な部分があるかもしれないです。
それを見つけたらご一報いただけると嬉しいです。

そして、いつも応援メッセージありがとうございます!!






[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!