短編です。
コンビニパンのヤンキー。
「お前バイトやってるんだってな」
「あぁ、やってるけど?」
「どこだよ?行きてぇから教えろ」
しまった!!
俺はコンビニで働いている。
だがそれを仲間に知られたくはない。
何故ならそのコンビニ。エブ■ワンのパンを作っているからだ。
言えないだろ。
頭は金髪で顔に傷があるいかにもヤンキーって奴が帽子かぶってマスク付けてエプロンでパンを作ってるなんて。
「勝手に探せよ」
「んだよ!良いだろ!」
「うぜぇー」
なんてあしらったが俺は内心バクバクだ。
俺がそこでパンを作っているのは同じ仕事場の池田さんが気になるからで、かなり不純な動機だからだ。
しかも!しかもだ。相手は男で子供まで居やがる!!
だが、良いんだ。話せるだけで…
うぉおっ!なんつー乙女思考っ!!
もう良いや。
今日も入っているバイト。
店長に頼んで出来るだけ同じ日にしてもらっている。
店長は理解ある人で、本来金髪ピアスなんてダメだが帽子かぶるし、ネットかぶるし。いんじゃね?と、軽い人だ。
「はぁ…」
ダチと別れてバイト先に向かう。
店内に入って店員にお疲れーと挨拶をかわした。
裏に入って着替えて居ると聞き覚えありまくりの声が聞こえた。
「お疲れ様です。今日もよろしく今田くん」
「は、はい!お疲れ様です!!」
勢い良く頭を下げた俺にははっと爽やかな笑顔をくれる。
俺があんたをどんな目で見てるか知ってんのかよ…
「そう言えば今田くんにアドレスを聞こうと思って忘れてたよ。教えてくれる?」
「うぇっ!?はい!良いです!!全然マジ!激良いです!!」
「変な日本語使ってー。敬語もいいのに」
携帯を出した池田さんは笑いながら俺を見る。
急いで出した携帯はいろんな所が剥げていて、兄貴に貰ったリラックスしているクマがついていた。
うわぁ…恥ずかしい。
「ボロボロだね。買い換えないの?」
「いや、まだ保護者連れて行かなきゃなんねーし。携帯良くわかんねーから」
そう!俺は機械音痴だぜ!!
最低限メールと電話は出来るが他は触った事がない。
変なとこ飛ぶし知らない奴に電話しちまうし何かビビるからしない。
「うーん。今度一緒に行く?」
「ふえっ!?い、良いんですか!?」
え?これデートじゃね!?
違うか。
「良いよ?明日空いてたよね?大丈夫?」
「はいっ!行きます!!」
「そっか、じゃあ明日10時に街の交差点でいい?」
「はいっ!!」
その後は何かよく覚えてない。
食パンスライスもチョコドーナツも何か気が付いたらやり終わっていた。
池田さんが苦笑していたのは覚えてる。
あとパンをぶちまけたのも。
いや、足の小指ぶつけたから棚を蹴ったら浮いたんだよね。パンが。
「今田ぁ!お前ぶっ殺すぞ!!」
「ぎゃっ!店長ギブっ!!」
首を締められた俺は店内で笑い者にされた。
池田さんはずっと笑ってた。
いつも帰りになると池田さんの息子が迎えに来る。
良く出来た子だと思う。
「あ、雪の兄ちゃん!」
俺を見たチビは全速力で俺に飛び付く。
「今日も可愛いね雪兄ちゃん!」
「いや、意味分からんから」
「こっ!こら!マサっ可愛いとか言わないっ!!」
「別にいっすよー。雅也のがチビだしー、むにむにだしー、可愛いからねー」
「男に可愛いって言うなー!!雪兄ちゃんのがふわふわの髪で肌すべすべで可愛いじゃーん!」
「意味がわかりませ〜ん」
いつもこんな感じの俺等。
何故雅也が俺を可愛いと言うかは分からない。
きっと基準がおかしいんだ。
子供は分からん。
隣でわたわたしてる池田さんが可愛くて仕方ない俺はずっと雅也を弄り続けた。
俺に抱っこされたまま寝てしまった雅也を池田さんに渡そうとしたが。
何だこいつっ!!
離れねぇ…
「マサ!マサっ!起きなさいっ!」
「…んぅ…うぜー…にゃむ…」
「あーこりゃ起きねーな…」
「マァサァー!!」
「いっすよ?送りますよ」
キョトンとした池田さんは慌てて首を横に振った。
「ダメだよ!学生がこんな遅くまで外に居たら!早く帰らないと親御さんが…」
「あぁ、あいつ等どうせ居ネェからいっすよ。大体俺、朝までかえりませんし」
でも、と言いながら俯く池田さん。
遠慮してるのか嫌なのか分からないから黙るしかあるめーよ。
「…分かった。じゃあ車回して来るからここに居て?」
「うぃーっす」
パタパタと走って行った池田さんを見て居るとふと雅也が顔を上げた。
「お、起きたか?」
「バーカ、はなから寝てねーよ」
「は…?」
「雪兄ちゃんも健気だよねーずっと遠くから見てるつもり?ウチ、父子家庭なんだけど」
「は?え?」
「だーかーらー!あんたがいつまで経ってもアタックしないから俺が2人を近づけてやるっての!もう、ホント馬鹿通り越して可愛いわ」
何この子。怖い。
飽きれた様な溜息を零す10歳に恐怖する。
「うわっ!離すなよ!落ちるじゃんか!!」
「誰お前…」
「池田雅也だけど?て言うかお父さんの事好きなんだろ?俺、お前ならお母さんになってくれてもいいなって」
「おかっ!?」
「やばっお父さん来たじゃん!!お休み!頑張って!」
俺がボケっと雅也を見て居ると池田さんの車が目の前で止まった。
助手席のドアが開いて池田さんが口を開いた。
「今田くん?」
「お母さんっ!!!?」
「お母さん?」
「あ、違います」
雅也の肩が微かに揺れている。
こいつ笑ってやがるっっ!!
助手席に乗り込んだ俺は雅也を抱え直した。
「ごめんね今田くん。このバカが」
「いっ、いっすよ。」
このバカは狸寝入りしてますがね。
「…」
「…」
「…」
「…うひゃんっ!?」
「え?」
不意に雅也が俺の脇を突ついた。
俺弱いから。脇とか背中とか首とか。
つか皮膚が?
「や、雅也の手が…」
「そっか。変な夢見てるのかな?」
「夢っつか。こいつはただの変だ…ふぁっ!」
「…、あー…マサ。実は起きてない?」
突つく指がピタリと止まる。
それもそれで怪しいだろ…
つかふぁって何ぞ!!
「……マサ、頑張ってるんだよね」
「え?」
「マサが5歳の時に母親が死んで、マサはそれから少しグレた」
「…はや」
「だよね…でも無理してるのかなって少し悪い気がするんだ」
赤信号で止まった。
池田さんの顔は少し。いや、かなり綺麗だ。
「母親が居ないのにそんなの関係ないっていつも睨まれてる。新しいやつ見つけて安定した職に付けってさ」
「しっかりしてますね」
「けど、俺は優柔不断で、何やっても失敗ばっかり。唯一好きな料理も勉強しなきゃそう言うお店に行けないし。新しい母親だって今のところ全然居ない」
「…」
「そしたらマサにある事に勘付かれちゃって…」
「ある事?」
「好きな人が出来たんだ。一生懸命で、間違っても。間違ってない!って言い切っちゃう子でね」
聞いた途端稲妻が直撃したみたいな気がした。
俯いて雅也の頭を撫でる。
「金髪で、目は少しキツイかな?やんちゃで生意気。だけど素直で明るい。」
「そ、うですか。」
「話してもちっとも気づかない。遠回しな言い方じゃダメなのかな…」
俯いていた顔を上げて池田さんを見る。
この人が幸せになれるなら。
この子が幸せになれるなら。
「素直に自分の気持ち、言わないとダメなんじゃないっすか?きっとその子馬鹿なんすよ」
「…ははっ!そうかもね」
赤信号はまだ変わらない。
「俺、雪が好きだよ」
あれ?今。
今。
「…付き合ってくれないかな?」
「…池田さ…」
池田さんの顔が近い。
俺は固まって目を見つめる事しか出来なかった。
近づいてくる。
チュッとリップ音が聞こえた。
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