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短編です。
いつもの席に居ないあいつ。


俺がいつも座っている席は窓際の一番後ろの席だ。

クラスでは話す事がなくて、帰るまでボケっと外を見て過ごしていた。

俺はふと隣の席を眺めた。
誰かが座っている所を見た事がないあの席。
だから知った名前。

斎藤香月。

どんな奴かは知らない。
どうして来ないのかも知らない。
だけどテストは受けているらしい。
答案用紙が入っている事がある。
気が付けばなくなっているが。

出席日数大丈夫か?なんて分からない。
学校に来ているのかさえ分からない。

不意に外を見ると誰も居ないはずのグラウンドに緑の頭をした奴が居た。
ベンチに寝そべっている。
顔には日が当たらないように本が乗っている。

少し気怠い暑さの中、涼しげにそよぐ髪が光に反射してキラキラと輝いた。

俺はあいつの顔を見てやろうかと席を立った。
担任や生徒は驚いて俺を見たが誰も注意しなかった。

階段を二回降りて靴に履き替えて外に出る。
蝉の声が煩くて眉間に皺がよる。
グラウンドの奥に設置されたベンチを目指して真っ直ぐに歩いて行く。
何かがあるわけじゃないが何となく顔が見たかった。

奇抜な色に染めてるのは俺だけだと思っていた。
真っ赤な髪がちらほら視界に入る。

ベンチに辿り着いた俺は、緑頭の本に手をかける。

ドキドキと心臓が速まって息を止める。
ゆっくり持ち上げようとした瞬間手首を掴まれ心臓がどくんと脈打つ。

手首を掴まれたまま固まっていると緑頭がゆっくりと起き上がり、本がばさりと地面に落ちた。

「んだオメェ?」

「…」

掴んでいた手を外し、俺にガン飛ばしてくるそいつは綺麗な顔をしていた。
少し切れ長の目に眉と唇にピアスを嵌めている姿はどこから見てもヤンキーだった。

「何しに来たんだっつってんだろ」

「…何でもない」

当初の目的を果たした俺は踵を返し、その場を去ろうとする。が、奴に腕を掴まれ引かれる。

「何でもないわけないだろ」

「…何となく来ただけだ」

振り返って告げても納得いかないのか眉間に皺を寄せている。

俺の位置では暑い日差しがもろに当たり、体温が上がるのが分かる。

「授業…今授業中」

「あ?行くわけないだろ」

俺の腕を掴んだままベンチに胡座をかいた。
煩い蝉の鳴き声に空を見上げる。

「お前は?授業行かないのか?」

「空、見てるだけだし」

少しだけ鳴き声が小さくなった気がした。

「お前、こっち座れ」

俺の腕を引いてベンチに近づける。
当たっていた日が木に遮られて少し涼しく感じた。

「赤くなってんな?日の光駄目なのかよ?」

そう言って俺の頬をツンツンと突つく。
皮膚がそんなに強くないだけだが、日に当たると少し斑点状にピンクになるのだ。
あまり好きじゃない。

「少し弱いだけだ」

「つかマジで何で来たんだよ」

俺の頬を引っ張りながら緑頭が揺れる。

「くらふゅひゃらしょろみたら居たかりゃ、かおみてみようと思っひゃ」

「変なやつだなお前」

「お前の頭もな」

キョトンとしたそいつは直後に爆笑しだした。
煩くないその笑い声に少しだけ笑う。

「お前も大概変な頭だぜ?」

「奇抜な色に染めてるのは俺だけだと思ってたから」

「目立つしな…そういやクラスってどこだ?」

「3-4だ」

またキョトンとして俺をガン見するそいつに俺も見返すとふわりと笑った。

「俺も3-4だ、不思議な事もあるんだな」

「…お前、斎藤香月?」

「そうだけど名前何で知ってんだ?」

「隣の席だ」

笑だしたそいつを眺めてると不意に顔を上げた。

「お前だけ知ってるのは嫌だな…お前何つーの?」

「俺は稲葉朔」

「サク?」

「うん?」

「呼んだだけだ」

ふへへ、と笑う斎藤は俺の頭を掴んで振り回した。

「サク、サクか」

「うん?」

「呼んだだけ」

「うん」

暑いはずなのにそんなに暑くなくて、気がつけば涼しい風が吹いていた。

こんなに他人と話したのも久しぶりで、どうしてかそこから離れる事が出来なかった。




翌日から教室に来るようになった斎藤と急接近していったのはまた別の話。



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あきゅろす。
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