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短編です。
ダンデライオンを擬人化して小説にしてみた。


暑く照りつける太陽にウンザリして俺はその場に腰を下ろした。

俺は生き物が好きだ。動物も草も大地も。
しかし俺は生き物に好かれる事はない。絶対に。

遠くで子供の声が聞こえてそちらに振り返る。

「いったぁー、切れちゃったぁ」

「大丈夫?早くここから離れよーよ…見つかったら食われちゃうよ?」

俺はヌーの子供のもとに行こうと腰を上げると怪我をしていない方の子供が俺に気づき、悲鳴を上げる。

「な、何でここにライオンが居るの!?ねぇ!早く立って!!」

「待って!!置いて行かないでよっ!!!」

近づくと一人は一目散にかけて行った。
俺は下唇を噛み締めて目を閉じるとまた歩き出す。
足から血を流している少年はズルズルを這い蹲りながら俺から距離を取ろうとする。

「…待て、食べやしねぇから。薬草。これ、効くから使え」

薬草を投げて寄越し、その場から去る。
ガタガタと震え、薬草に目もくれず這い蹲りながらも俺とは逆の方に逃げて行く。

恐怖。肉食獣である俺は一人で居ようとも、優しさを出そうとも恐怖の対象でしかない。

誰一人として味方は居ないのだ。

雄ライオンはある時期を迎えると一人で群れを作るために故郷を離れなければならない。
俺は少し違う理由で群れを離れる事になった。
だが俺はそれから一人で居る。
仲間が欲しくないわけじゃない。
動物を食べる事が出来ない俺にとって群れに行く事は死を意味する。
しかし、死とは俺を指しての事ではない。

昔、母親に肉を食べさせられた事があった。

それはそれはこの世のものとは思えないほど美味いものだった。

それまで昆虫ばかり食べていた俺は飢えを抱えて暮らしていた。
リミッターが外れてしまったのだ。
肉と言う肉を食べ、誰彼構わず攻撃し、そして食う。

気がつけば周りには誰も居なかった。
群れから出されたのだ。
危険分子は排除されるはずだが、余りにも凶暴化していたため、手を下さずに荒野に捨てられた。

俺は寂しくて悲しくて仕方がなかった。
それからはまた昆虫や草を食べて過ごしている。
筋肉はあまり付かなかったが、そこまで痩せているわけでもない。

荒野の先に谷があり、その先に森が見える。
気が向くままに谷沿いに進み、森を眺める。
小動物達が、コソコソと木の間から俺を見て、目が合えばサッと隠れる。
谷の下を見れば深い闇が覗いていて、微かに底が見える。

暫く進んだ先には木で出来た橋が掛かっており、そこを進む事にした。

ギシギシと響く音が谷に吸い込まれる様に消えて行く。

ふと顔を上げると橋の先に大きな大樹があった。
キラキラとした木漏れ日に、苔のびっしりと生えたその姿はまさに神木。
俺は口を開けたままそれを見上げているとふわりと何か鼻を擽る香りに目線を落とした。

大樹の根元に寄り添う様に座る少年は金の髪をサラサラと風に遊ばせて俺を見る。

あぁ俺と同じ色だとそんな事を考えていた。

少年は首を傾げてにこりと笑う。

俺は驚き、眉を寄せてこう問う。

「お前は俺が怖くないのか?逃げないで…居てくれるのか?」

笑ったまま吹き抜ける風と共に一度だけ頷いた。
俺は口を閉ざすと、頬に涙が伝う。
嬉しい。そう、生きて来た中で最も。
暖かいのは太陽のせいか、彼のせいかは分からないが、俺の寂しさはなくなっていた。



彼は声が出せないのだと直ぐに分かった。
それから彼には両足と左腕がなかった。
何も分からなかったが俺に出来た初めての友人だった。

それから俺はこの大樹の辺りを縄張りにする事にした。

毎日縄張り周辺を見て回り、その日見た物がどんな物だったか、毎日持ち帰る土産を手渡して小さな頭を撫でる。
膝の上に乗せていろんな動物の話をした。

「お前をいつか連れて行ってやる。俺が背中に乗せて走ってやる。」

そう言うといつもの様ににこりと笑う。
暖かい笑い顔は俺の心の中から全身に向けて温めてくれる。

夕方になるといつも決まって大樹に登り、彼を膝に乗せて夕日を見ていた。

さらりと揺れた金の髪が俺の腕を擽る。

夕日を浴びて赤くなっている部分と金のままの髪が綺麗なコントラストを生む。
キラキラと輝く髪を撫でて綺麗だと言えば。
俺の後ろ髪を掴んで俺の目の前に持って来て口を動かし、『同じ』と言う。

「同じじゃないさ、お前はずっと綺麗だ。キラキラしていて純粋だ。」

キョトンとして自分と俺の髪を見比べて首をかしげる。

血に染まった事のない髪を撫でて目を閉じる。
ずっとこんな日が続けばいいのにと祈りながら。





俺が荒野の方へ見回りに行くと、キラリと光る石に目を奪われた。
金色の琥珀石だ。
綺麗な色を見て、彼の髪を思い出す。

「よし、今日の土産はこれにしよう。また喜んでくれるだろうか…」

声を出さずに笑う姿を思い出す。
彼はどんな時も笑っていた。
怪我をして帰っても、たまに暴走する時も、にこりと笑ってなだめてくれた。
そして笑って右手を振る。

小さな体を使って一生懸命手を振って俺の事を待っていてくれてる。

琥珀石を握り締めて空を見れば深い灰色の雲が広がっていた。
ポツポツと降り出した雨に俺はハッとする。
彼は雨の日は元気がないのだ。
走り出せば徐々に強くなる雨。
嫌がらせの様な雨に視界を遮られ、鼻も効かず、泥に足を取られる。

遠くで鳴り響く雷に頬が引き攣る。
足をもつらせながらも必死に走り続けた。

やっと見えて来た橋を勢いそのままに走る。



辺りが真っ白に染まった瞬間、浮遊間が襲う。


落ちる瞬間見た彼の顔は泣きそうに歪んでいた。





気がつけば辺りは狭く暗くなっていて、谷底に落ちた事が分かった。

動かせない体を他人事の様に見つめていたが、最後に見た彼の顔を思い出し、手に握った琥珀石を強く、強く握り締めて声を張りあげる。

「大丈夫だ!!!俺は全然平気だ!!泣くなよっ!!!!すぐに、すぐに行くから!!!」

口先だけだ、口先だけだが彼の顔が笑顔になるならと、叫び続ける。

頬に伝う涙は以前とは違う冷たいものだったが、彼がそれを流さずに居てくれるなら。

俺は願い叫ぶ。無事だと。かすり傷だと。

そんな嘘は震える喉で徐々に細く小さくなっていく。

血は止まらずに広がり、あぁ、死ぬんだなとそう悟った。

どうして自分はライオンだったのか、どうして自分はこんな姿だったのだろうか。


もう嘘なんか吐けないが、もし、もしも…



「…もし、も…お前の様な…姿になれれば…。愛してもら、えるかなぁ…」

掠れた声は誰にも届かないが、頬に伝った涙は暖かいものだった。







空は晴れ渡り、彼が谷底に舞い降りるとそこに一杯のタンポポが咲き乱れた。







と言うダンデライオンを聴いて書きたくなりました。
話がちょっと急すぎるけど間には色々な葛藤があった様に思います。
これはアニメとかにしてほしいっすね。
聴いただけで泣きますもん。
知らない人は是非聴いて下さいね。
寂しがりライオンとタンポポの話でした。

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