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桜庭学園の王道は少し暴走する。
坂上『かな』。


それからクラスに戻らずに屋上に居た。
俺はフェンスに寄りかかったまま動かなかった。

走馬灯の様に頭を過る過去が俺の心臓を掴んだまま離さない。

ゆっくり振り返り、フェンス越しの山を見つめる。

あの友人は死んではいない、だがもう関わる事はないだろう。

俺の性格のせいで引き起こされた悲劇に指先が震える。

ふと気配を感じて振り返って構えると驚いた顔をした御柳がいた。

「あれ…早咲?」

「先輩…」

「ここは初めて来るんじゃないか?」

「はい、気がついたらここに居て、あ!邪魔でしたら移動しますんで」

御柳が首を横に振って俺の隣に腰を下ろす。

「コンクリート冷たっ!?」

「そっすね。先輩はどうしてここに?」

「あー…今日はダチと会う約束しててよー」

「お邪魔じゃないですか?」

大丈夫だと笑う御柳の顔を見て少し安心した。
何も知らない人が居る事が心地いい。

「授業サボりかよ?」

「まぁ、そうなりますね」

笑って返すと御柳が俺の頭に手を伸ばす。

「何かあったらここに来いよ。きれいだろ?空見てると落ち着くんだぜー?」

「そっすね」

頭を撫でられながら顔を上げると青い空が広がっていた。
雲が透き通る程度で、雨は絶対に降らない天気だ。

「雨に打たれるのもオツだぜー?」

「風邪引きますって」

苦笑して御柳を見ると目を細めて優しい笑みを見せる。

悩んでいた俺の思考から、一時的にだが過去を追い出してくれた。
見た目とは正反対の気遣いに、また笑いが込み上げる。

「ありがとう、先輩」

瞬きをして視線を彷徨わせて頭を掻いた御柳にまたありがとうございますと伝えた。

すると、唐突に開かれた扉に視線をむけると綺麗な金髪ロン毛の人が立って居た。

ネクタイは赤色で、先輩だと分かる。

「おいおい、イチャイチャしてんなよ」

「…はっ!?ち、ちげぇよ馬鹿!!」

「黙れドM」

「えー…と、早咲龍騎です。すんません、先にここに来て居まして。」

ふーん、と興味なさそうな返事をして御柳の足を蹴っている。

「哉!やめろ!!」

「おいおい、テメェ次にその名前出したら人生終わらすぞ」

『かな』と言う名前が嫌いなのか蹴る足に力が入る。

「わ、分かったってば!坂上!!」

「よし、許してやろう」

そう言って御柳の肩に足を乗せる坂上が、俺を見て目を細める。

「テメェ、喧嘩出来るな」

「はい、一応やれますよ」

「おい!坂上!?」

御柳の手を振り払い、俺の襟を引き、立たせる。

「やるぜ」

「坂上!!」

俺は頷いて構えると御柳がやめろ!!と叫ぶ。

「うるせぇドM!黙れドM!」

「少しっすよドM先輩」

「ドMドM言うなっ!!!」

顔を真っ赤に染める御柳に二人で一通り笑うともう一度構え直す。

「しらねぇぞ…もう…」

フェンスに背中を預け、見学の体制に入る御柳の手がフェンスを叩く。

ガシャガシャとした音が止んだと同時に二人、足を踏み出す。

坂上は主に足を使い、俺の急所を的確に狙う。

足を左に流し、右腕を顔めがけてくりだすとスっと避けられる。
そのまま左腕を鳩尾辺りに繰り出すが、後ろに飛ぶ事でかわされ、ニヤリと笑われる。

だが、俺の攻撃は主に猛攻だ。

かわされた瞬間に左足を地面に固定して回し蹴りを出す。
次に右足を地面につけて左足を振り上げると同時に跳躍して坂上の肩に足を落とす。

「っ!?」

「すげぇ…無駄がねぇや」

御柳のセリフに坂上が御柳を睨むと俺は一瞬動きを止める。

それが駄目だった。

またニヤリと笑う坂上にわざと御柳に気を取られたフリをしていた事に気づく。

鳩尾に拳がめり込み、慌てて後退するが、坂上も前に足を踏み出す。

防御一点になった俺に、反撃の隙を与えまいと次々と的確な攻撃が繰り出される。

防御している腕が震え始め、足の力も弱くなる。
膝ががくんと崩れた。

坂上が俺の前に仁王立ちで皮肉な笑みを見せる。

「中々だが、俺には勝てねぇよ」

油断している所を狙うのは癪だが少しムカついた。

右膝をつけたまま坂上の足を薙ぎ払うと坂上は尻餅をつく。

「油断…大敵っすよ、先輩」

驚き顔のまま動かない坂上は我に戻った瞬間右手で顔を押さえると爆笑し始めた。

「はははっ!!やべっ!激楽しい!!」

「おい、坂上…お前キモいぞ」

御柳が引き顔で坂上の頭を叩くと笑い終わった様で、立ち上がり俺に手を伸ばす。

「楽しかったぜ」

「はい、先輩強いっすね」

手を掴むとゆったりと立たせてくれた。

思っていたより足にきていたのかフラリと体が傾く。

「「早咲!」」

御柳が俺の腕を掴み、坂上が脇の下に腕を入れて支えてくれた。

「すみません…」

俺が苦笑すると坂上が俺を抱え上げる。
担がれて慌てるとそのまま屋上の扉の方へ歩き出す。

「先輩!?」

「歩けねぇなら保健室いくぜー」

「げっ!?」

御柳が心底嫌そうに後ろから着いて来る。

人1人担いでる割にはサクサクと歩く坂上のおかげですんなりと保健室につく事が出来た。

「鷲士ー怪我人」

「んもう!哉ちゃん!?鷲士って呼ばないでって何度言えば!ってあら?龍騎ちゃんに蓮ちゃん!!」

苦い顔をする御柳は一歩後ずさると坂上が俺をベッドに座らせる。

「湿布くれ」

「もう、毎日相手の子労わるなら喧嘩しないの!」

「うっせぇバケモン」

早乙女先生が持ってきた湿布を受け取って俺の裾を捲る。

「自分で出来ますよ!!」

慌てて腕を掴むと頭を叩かれた。
全力で。

「足…」

御柳が後ろで俺の足を見ているので少し鳥肌が立つ。

「早咲がキモがってんぞドM」

「…!?」

顔を上げた御柳は、気まずそうに顔をそらす。

「腕も出せ」

「あ、いや…」

ズキズキと痛む腕を掴まれ顔を顰めると坂上が鼻で笑う。

「あらー…痛そうねー」

「うわっ!?坂上!手加減しなかったのかよ!!」

「手抜いたら失礼だろ」

真っ青な痣が出来た片腕に二枚ずつ湿布が貼られる。

「よし、お前一時寝とけ」

「え、そう言うわけには!」

「死ね!」

頭を強打され、意識が完全にシャットアウトした。








[*逃げる][説教#]

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