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可愛さ余って
あなたの腕の中は幸福で
-君の腕の中は幸福で
荒れ狂う嵐の中でも
-どんな暗闇の中でも
きっと、暖かく、仄かに光を燈すのだろう
「○×省役人の汚職事件について、○×省大臣は以下のコメントを残し……ピッ……円高は依然衰えることなく……ピッ……低気圧は北上を続け、明日は全国的に雨が」
--ピッ--
どのチャンネルを回しても最近の世界情勢やら不景気やら、暗いニュースが流れている。
いい加減嫌気がさしてテレビの電源を切った。
こちとら乙女の事情による腰痛でただでさえうんざりしているというのに、ちょっとは気が紛れるようなニュースを流すっていう配慮はないわけ?
レッサーパンダが立ったよ!やったネ☆
みたいなさぁ。…すみませんね、美人なアナウンサーさん。貴女に怒ってたわけじゃないの。
いや、世間がすごく大変なのは知ってるんだよ?よくわからないけど。
それよりも今私の中で取り上げられるべきニュースは
あいつとケンカしてしまった、ということだ。
ケンカは日常茶飯事…なんだけど。
今回はなんだか様子が違う。
てゆーか!私がものすごく怒っている!のです!
だって!私という可愛い可愛いカノジョがいるというのに「親友」という女の子と二人でいっつも出掛けて。まだ出掛けるくらいならいい。でもここ1ヶ月、私との時間よりもなんかあの女の子との時間が多くなって、終いには楽しげな2人を街中で見掛けてしまった今回に関しては、もう!怒りがどうしても治まりそうにない!!
…ふぅ、少しは落ち着いた。取り乱し失礼しました。
とまぁそんなこんなで、あいつからのメールやら電話をシカトし続けて早10日。
さすがにあいつも焦っている様なので、「明日も、メールするからね」という見慣れた文面に空メールを返してやった。
実は、会えないという現状が結構限界で。いや、自分のせいなんだけど。
でもこっちから言うのはなんか、癪だし。
よくこんな意地っ張りと付き合ってるなぁと変なタイミングで感心してたら、携帯からあいつ専用の着信音が鳴った。
「…もしもし」
躊躇いがちに応答すると、あいつの声が大きく響いた。
「よかったぁ!!出てくれた!!
もう、このまま自然消滅かと思った!!」
「…そんなのしないよ。私が白黒つけたい性格なの知ってるでしょ?」
「うん、だから、しつこく連絡取ってみた。」
へへっ とか、なんかこんな時にも照れ笑いしながら話すから、もうムカつくやら可愛いやらで、結局腹が立った。
「だからね、この際はっきりして欲しいの。あの子のこと…本当は好きなの?もう、私は彼女としていらない?」
言ってたらなんか悲しくなってきた。
なんて重たい女なんだ。
「えっ?!なんでそんな展開?!
そんなわけないじゃん、僕が大好きなのも、僕の彼女なのも君だけだよ?」
「じゃあなんで…」
あんなに楽しそうだったのか聞こうとしたら、いきなり声を遮られた。
「窓、開けてみて」
意味がわからないながらも自室の2階の窓を開ける。
空気がぬるい。少し、天気が悪いみたいだ。そういえば低気圧がどーちゃら言ってたな、なんて考えてたら、携帯と下の両方からあいつの呼び掛ける声がした。
反射的に下を見ると、にこにこしたあいつがいた。
走り出したのもまた、反射的だった。
玄関へ駆け降り、ドアを開け、あいつがいる場所へ向かう。
そこにはやっぱり、にこにこしたあいつがいた。
「な…んで?」
びっくりして、声が掠れる。
「そりゃもちろん……
あ!あと10秒待って!」
頭は?がいっぱいで。よくわからないながらも待ってみたら、きっちり10秒後、いきなり抱き着かれた。
そして体が離れたかと思うと、満面の笑みで
「お誕生日、おめでとう!」
と、言われた。
全てが一瞬に感じられて、目が点、とはこのことなんだろうなぁと思いながら彼を見つめてたら、今日誕生日でしょう?と笑顔で見つめ返してくれた。
付き合ってから、私の初めての誕生日。
怒りですっかり忘れてた。
てか、これとあの子とどう関係してんの?!
怒りを思い出し、問い詰めようとしたら、目の前に小さめの箱。
「はい、誕生日プレゼントです!」
うぅ、なんて眩しい笑顔なんだ。
開けてみるとそこには、線の細い、可愛い腕時計があった。
こんな、私のガラじゃないのに。
なんだか嬉しくてびっくりして、涙と一緒に怒りも流れてしまった。
すると彼は焦って、どうしたの?と何度も聞いてきたから、それもおかしくて。
やっとの思いで聞いてみたら、
今日のことを彼女に相談してた、と。
このサプライズ計画のダメ出しをしてもらっていた、と。
あんなに楽しそうだったのは、お互いの恋人をノロケ合っていただけだ、と。
再び、目が点。
この時ほどの脱力感を、私は感じたことはないと思う。(当社比)
なんか怒ってたことも全部馬鹿らしくなった。
こんなびっくりして迎える誕生日なんて初めてだ。
ありがとう。
…でもね、サプライズとかどうでもいい。…嬉しかったけど。
-うん。
これは頂きます。ありがとう。
-うん。
でももっと欲しいものがあるの。
-…何?
ねぇ、淋しかった分、もうちょっとだけ
ぎゅって、して?
あなたの腕の中
包み返す自分の両腕
これが幸せなのかな?なんて笑い合う
そんな今が、きっと幸せ
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