正チャンis mine! 正一は不機嫌であった。 どこからどう見てみても不機嫌であった。 眉間に深い皺をよせ、寄るものみな傷つける勢いの尖った空気を発していた。 それもこれも原因は… 「白、蘭、さんめぇぇぇ!!」 正一の上司兼恋人、白蘭にあった。 正チャンis mine! 数週間前、正一はスパナの研究所に久しぶりに遊びに来ていた。仕事、ではなく遊びに。 二人は昔からの知り合いで何かと馬が合い、プライベートなことでもよく関わってきた。 正一がミルフィオーレに入った時も、スパナがいて驚いたものだ。 そうこうしているうちに、正一は日本支部に配属されスパナは正一の管轄内になった。 だがお互いに忙しすぎてなかなかゆっくり会える機会がなかったのだ。 本当に久々であるスパナと「ただの友人」として接する貴重な一日。 楽しい時間はドンドン過ぎ、もうその日は終わろうとしていた。 「正一、今度一緒に休みをとろう。もっとゆっくり話がしたい。」 正一の残念そうな顔を見たからか、スパナは苦笑しながら提案する。その提案に正一は顔を輝かせながら頷いた。 スパナは正一にとって、混沌とした裏の世界の唯一、といっていいほどの気を許すことができる人間だった。 一緒にいると正一は安心する。 裏の世界に入ろうと、どんな兵器を作ろうとも根底は変わらない、スパナ。 暗い闇に呑まれそうになってもスパナがいるから、なんとかなるのだ。 嬉々として互いに来月の一番はじめの月曜は、一日自由になるようスケジュールを調節しようと決めた。 「早く、月曜にならないかなぁ…」 正一はウキウキとしながら、パソコンのスケジュールの中に予定を組み込んだ。 なのに なぜ僕は今、こんなことをしているのだろうか 「白蘭さん!!!」 バァンと盛大に扉を叩き開けた正一は、憤然としながら部屋に入って行く。 目的の人間は、「お、正チャン。どうかしたの?」といきなりの正一の登場に驚きもせず、平然と返した。 「なんなんですか!これは!」 正一は白蘭に一枚の書類をつきつけた。 「これだけの量の仕事を今日中に終わらすなんて無理です!」 そこには、『至急仕事内容』と消印も押された正一への仕事が連ねられていた。今日は日曜、スパナとの約束の日は明日。 すべて終わらすには明日まで延びるのは目に見えている。 しかし正一はこの一週間スケジュール調整をしたため多少余裕があった、一週間前に書類を渡してくれていれば丸く収まっていたのに。 「どうして今日、こんなもの渡すんですか!内容的にも『至急』なんてものではないし!」 折角、明日はスパナと一日ゆっくりできるはずだったのに 正一の怒りは最高潮に達し、白蘭に文句の一つでも二つでもいわなければ気が治まらない状態だった。 白蘭は目の前の紙と正一をを繁々と見つめる。 「理解ってたよ?僕、明日正チャンが予定入ってたの。」 「はぁ!?」 「理解ってて仕事任せたの。」 言葉を失う正一に、白蘭はニコリと笑いかける。 「正チャンが僕以外の男とスケジュール調整してまでデートするなんて許せないもん。」 だから御免ね? と全く悪いとは思ってはいない態度に正一の止まっていた思考は動き出した。 僕が、明日のためにどれだけ仕事や任務に神経をつかって調節してきたのか、わかっているのか!!! 白蘭はミルフィオーレのトップだ。 確かに彼が正一のスケジュールを知らないはずがなかった。その事実がよけい正一を腹立たせる。 「ふ、ふざけるなっ!僕がどれだけ明日を楽しみにしてたかっ白蘭さんにわからな「それより先はいわないでね」 氷のように冷たい声がした。 正一は白蘭の変容にギクリと体を強ばらす。 滅多なことがなければ、崩れない白蘭の笑顔が消えていた。 「僕、大好きな正チャンを滅茶苦茶にしたくなるから」 声色が本気だと重く主張していた。 正一は体中の肌が場の鋭利な空気に晒され、痛みだすような錯覚をおこす。 白蘭さんが…怒ってる…? 正一はさっきまで怒りで頭に昇っていた血はすっかり落ち着き、今度は寒いほど体が冷えきっていた。 後ろに数歩後ずさって、怯えたような素振りをみせた正一に、白蘭を包む空気が変わった。 なんだか 怒っている、というより落胆しているようだ 「あのねぇ…正チャン…。」 「は、はい」 白蘭に溜め息まじりに話しかけられた正一は、固い返事しかかえせない。 正一の畏まった態度に、白蘭は再度溜め息を吐く。 「正チャンの恋人は、僕だよね? …確かにキスもセックスもしたけど、正チャンから積極的に僕に仕掛けてくれたことないよね。」 「なのにさ」 ソファに項垂れた白蘭は、怨めしげに正一を見つめた。 「なのに、スパナ君と会うってなったらやたら行動的だし、嬉しそう。 僕にはこっちが呼ばなきゃ会ってもくれないくせに…今だってそんなに怯えて…」 拗ねたように口を尖らせながら白蘭はソファの上で三角座りをした。 まるで子供のような、仕草言動。 一連の流れをただ茫然と眺めながら、正一の頭にある可能性が思い浮かぶ。 ちょっとまて、もしかしてこの人ーーーー 「馬鹿ですか…貴方…」 正一の力が抜けた声に、顔を太股におしつけたままの白蘭が微かにみじろぐ。 小動物のような反応に正一はクスリと笑った。 本当に馬鹿だ 白蘭に振り回されるのは好きだからに決まっている白蘭の一挙一動に過敏に反応してしまうのは、彼を思っているが故 どうでもいい人間なら正一は、受け流すだろうにそうしないのは白蘭が好きだからだ だが、いつも白蘭の行動や突拍子のない言動に振り回され正一は辟易していたのも事実。 まったく、気の合う友達と会うぐらいで 嫉妬するなんて 「…正チャンのばーか…」 踞ったまま動かない白蘭に、正一は微笑みながら近づいて行く。 「白蘭さん」 「…」 「白蘭さーん」 「…」 ダンマリ、か ソファに座った正一は、愛しくって馬鹿らしくて白蘭のフワフワの髪を撫でた。 「…あの、ですね。別に僕は白蘭さんに消極的とかじゃなく、白蘭さんが僕が動く前に行動するから僕は動けないんですよ。」 耳元で囁くように正一は、白蘭に告げる。 沈黙の後、白蘭の腕が正一の首元にのび絡まった。 そのまま正一を引き寄せ胸におさめる。 「正チャン…」 「なんですか?」 「……ごめん」 しゅんとしたまま正一と目を合わさない白蘭に、正一は余計可笑しくなる。 きっと、白蘭がこんな姿を見せるのは正一だけ 独占欲丸出し、子供のように嫉妬する、こんな弱い白蘭をみれるのは恋人である正一だけだ 「白蘭さん、好きですよ。」 正一は今だ項垂れている恋人へ滅多にしない自分からのキスを贈った。 ところで 「白蘭さん、明日のことですが…」 「それは駄目」 「…」 「だって正チャンは全部僕のだもん!」 END あとがき ケアさんからいただいたお題は『嫉妬』だったんですが…大丈夫でしたか? (^q^) とりあえず三角座りした白蘭さんがかけてよかったです(笑) [*前へ][次へ#] [戻る] |