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逃げるって、どういう意味だろう?
私がそう思っていると、さっきヒロインの側でがっくりうなだれていた立派な鎧の男がぶるぶる震えて「何が何だか、ワケが分からないぞ!?」と私が一番言いたいことを言ってくれた。ありがとう。

「スタイナー!もう、これ以上、わたくしを追いかけないでください!!」

きれいな女の子が見た目どおりの聞き惚れるような美しい声で、鎧の男に訴えかける。
すると私たちを追い回していた兵士が、困った様子で鎧の男に向き直った。

「隊長!どうすれば良いでありますか!」
「う〜〜〜む」

後ろを向いて随分長いこと唸っていたが、スタイナーさんは振り返って飛び上がりかしゃんと音を立てる。

「そういうワケにはいかないであります〜〜〜っ!!」
「あいかわらずガンコ者ねっ!」

かわいらしい顔を苛立ちで歪ませる女の子にジタンさんが声をかけた。

「こんなヤツはほうっておいて早く行こう!」

もう一人の役者さんと二人はスタイナーさんから距離を取る。
ついでに私も、何となくそうしなくちゃいけない気がして彼らに付いていった。
スタイナーさんもすぐさま追い掛けて、何とか女の子に思い直させようと必死だ。

「姫さまっ!」
「あっ…あの子、また…」

スタイナーさんから視線を動かすと、さっきの男の子に目が行った。また転んだのか倒れている。
心配になって駆け寄ったが、それより先にジタンさんがしゃがんで声を掛けた。

「おい、おまえ、ダイジョウブか!?」
「う、うん
ちょっとコケただけ……」

男の子はそう言って立上がり、帽子を深く被り直す。

「ケガしてない?」

私が訊くと、男の子はふるふると首を振った。「平気…ありがとう、さっきのおねえちゃん」

「えええいっ!姫さま、覚悟なされい〜っ!」

ホッとしたのも束の間、怒鳴り声に何事かと思い顔を上げると、痺れを切らした様子のスタイナーさんが剣を抜き放っていた。

「ち、ちょっと!そんな危ないもの、しまってくださいっ!」

私は青くなって言った。
自慢じゃないが、刃物なんかカッターとハサミと包丁以外に見たことがない私には、あまりにも刺激が強い。
しかも、人に向けるとなれば尚更だ。
何とか止めようとあたふたする私の肩に手がポンと置かれて振り向くと、ジタンさんが「なーに、心配いらないさ!」と爽やかににっこり笑った。
何か言葉を返そうとしたが、その前にジタンさんは前に飛び出しスタイナーさんの前に対峙する。
私以外の人たちは、あの兵士二人も、オレンジのバンダナの役者の人ですら皆やる気らしい。
でも私はあの剣の刃を見ただけで、もう怖くて動けなかった。情けないけど足が動かない。
すぐに戦闘が始まった。
スタイナーさんが剣を振り下ろすのを器用に避けて、ジタンさんは思いっ切り鎧を蹴り上げる。ガンという鈍い音と「ぬぉっ!」という声と共に、スタイナーさんは少しの間動きを止める。
その間に男の子が炎で兵士を迎撃すると、「熱血もここまでです〜」「デートに遅れちゃう〜」などとやる気のまったく感じられない捨て台詞で逃げていった。

「貴様っ、それでもプルート隊員か!」

憤慨して怒鳴るスタイナーさんを見て、私は苦労してそうだなと同情してしまった。
怒りに任せてスタイナーさんはバンダナの男にまた剣を振るうが受け止められ、逆にすばやい動きで翻弄される。

「すごい…」

そうやって何度かやりあいお互いダメージを受けずにいたが、やはり疲れが溜まったのかスタイナーさんが肩で息をして動きを止めた。

「なんのこれしき…」

もう一度スタイナーさんが剣を構えたとき、地面ががくんと揺れて皆ふらついた。

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