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震える手で手摺をギュッと握り締めて今の状況を理解しようとしたけど、落ち着こうとすればするほど頭が混乱していく。

(こんな西洋っぽいお城、日本にあるわけないじゃん!まさか外国なの…!?)

寝てる間に外国に来たなんて、いや、そんなバカな…。
まだ確かめたわけじゃない。誰かに訊いてみよう。不法侵入かどうかもハッキリするし。
取り敢えずできることから始めることにして、ぱっと顔を上げて辺りを探す。
早速誰かいた。髪が銀色の人が。
終わった…外人だ。
しかし中学の時習った英語が今こそ輝くときに違いない!でなきゃ私は今まで何を勉強していたんだ。
外人に近寄って思い切って声を掛けた。

「ぱ、ぱーどん?」

……違う!これ「もう一回言ってください」だ!何言ってるんだよ私は…。
テンパる私に対して、外人さんはちょっと驚いたような顔で振り返った。

「…え、何だいそれ。僕はパードンとやらじゃないけど。人間違いじゃないかな?」

外人さんはにこっと微笑んで私に言った。
肌が雪のように白くて、見たことがないくらいに綺麗な顔をしている人だ。
格好は露出が多くて怪しいと言うか変だけど、不思議とこの人には似合っている。
私は慌てて言い直した。

「いや、あの、そうじゃなくて…ここが何処か、訊きたいんですけど…」

ついでに「日本語お上手ですね」と言い掛けたがやめた。そんな軽口を叩ける相手ではなさそうだった。
外人は私の言葉を聞くとますます驚いたようだ。
迷子だと思われたのかな。この年で迷子は恥ずかしい…。

「どこって…アレクサンドリア城のホールだよ。正面玄関入ってすぐじゃないか」
「ア、アレクサンドリア?」
「…それも知らないでこんなところにいるのかい?じゃあどこから来たっていうのさ、君は」

呆れと不審を抱いた視線で見られて、私は更にどぎまぎしてしまった。
どうしよう。そんなこっちが知りたいことを言われても困る。
うまい答えが思い付かなくて黙っている私に眉をしかめて不信感を露にしていた外人さんが、突然目をみはって私の顔を覗き込んだ。
ちょっと…顔が近いんですが。
固まっている私を余所に外人さんは目を細めて若干低い声で言った。

「君は…ココの人間じゃないな?」
「!」

あんな質問をすれば当たり前だが、早速バレた。
予想できたはずのことなのに、私は何とも言えない恐怖感にとらわれていた。
一瞬見せたあの表情で、この人の目が人間味を感じさせない冷たい温度を帯びていた。ぞくりとするほど作り物めいた美しさのある冷気だったので、私はすっかりすくみ上がってしまったのだ。

(駄目だ。捕まったら駄目だ)

即座に脳裏に過ぎった考えに、私は忠実に従うことにした。
外人さんが無意識に伸ばしたらしい手が届く前に私は踵を返して全速力で走り出す。

「あっ!ちょっと…」

元の親切そうな声に戻った外人さんが咄嗟に呼び止めたが私は振り返らなかった。
あの人のお陰で分かったことは二つだ。
ここが日本じゃないこと、なのにどういう訳か言葉が通じること。
しっかり肝に銘じておいた。

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