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この医者たち、危険につき


 「あれを全て倒すのは不可能だ。数が多すぎるし、後にはまだ軍人が控えているんだぞ」

 走りながらエマージを振り仰いだレオハルトが言う。しかし医者はというと、ニヤリと彼らしく口を歪めて笑っていた。

 「全て倒す必要などない。ただ我々は耐えれば良いのだ、――・・・仲間が管制室を制圧するまで」

 ハッと軍人が目を瞠る。軍医の方は、成る程と言いたげに頷いた。

 「そういう段取りなわけだね?」

 「馬鹿な、管制室のマザーコンピュータはそうそう簡単に扱えるものじゃ・・・・・・、」

 「幸運にも、こちらには脱走した科学者が味方についている」

 「あの時の・・・――やっぱりグランハルトだったか、くそっ!」

 捜索の結果、結局見つからなかった脱走ロボットの所在をしれっと聞かされ、思わずレオハルトは舌打ちをしてしまう。その反面、彼が助かって良かったとも思う。あの時対峙した友人の目と言葉を思い出し、彼は安堵とも苦笑とも取れる笑みを零した。

 「ということは、私たちは逃げ続けながら追手を減らせば良いわけだ」

 「なるべく引きつけながらだが――もはやそう余裕ぶるわけにもいかんな」

 彼方から重い足音が近付いてくるのを聞き取り、巨躯の医者はぐるり辺りを見渡して呟いた。

 「先程のように、同士討ちを誘いながら戦うしかあるまい」

 こくり、と面々が頷く。その時、レオハルトの背中をミアがちょんとつついた。何だい、と屈み込んだ彼に、心配そうなミアの視線が刺さる。

 「お怪我大丈夫ですか?」

 「ああ――大丈夫、何ともないよ」

 正直な話、平気なわけはないのだが、今は立ち止まっている暇はない。そう考えて頷いた彼に、ミアはまだ不安そうな表情を崩さなかったが、彼の気持ちを汲んだのか、それ以上食い下がることはなかった。

 ガシャン。ガシャン。ガシャン。重い足音が近付いてくる。

 角から姿が見えると同時に、ミアが先頭に向かって何かを投げた。地面に触れた瞬間、球は閃光を撒き散らして爆発する。光に撹乱され歩みを止めた機械兵士に突っ込んでいくのは、エマージとセントリックス!

 大振りにチェーンソーで敵を薙ぎ払う。唸る武器は兵士たちに反撃の間を与えずに、片っ端から沈黙させてゆく。

 攻撃からあぶれた者は、今度はペンチに頭を潰された。真剣な眼差しだが口元がニヤリと歪んでいる辺りセントリックスらしい。

 先頭軍団を蹂躙したところで、二人は攻撃の手を緩め退く姿勢を見せた。壊れ落ちた機械兵士の残骸から、セントリックスが銃を一挺後ろへ蹴る。

 床を滑る音を聞きながら、敵と距離を開けつつ、彼は旧友の背後へ回った。

 「頼むよ」

 「全く、仕方がないな」

 言うや否や倒れた兵士を引きずり上げ、前に翳すエマージ。同時に、後続から一斉射撃が放たれた。

 ガンガンと金属に当たる弾の音。大柄な二人のボディが兵士一体で覆えるはずもなく、腕や脚を弾が掠めた。それでも足早に後方へ退がると、今度は入れ違いにレオハルトが前へ出てきた。

 普段使うより一回り大きなマシンガンを手に、エマージの後ろから躍り出す。弾が頬を掠めたが、構っている暇はない。

 腰で銃底を支え、グリップを握る手に力を込める。トリガーを引きながら、弾の飛び交う中を敵に向かって突っ込んでいく!

 バラバラと落ちる薬莢が澄んだ音で転がるが、聴覚機関には届かない。聞こえるのは敵のボディを弾丸が貫く音。貫通した弾は後ろの兵士に当たり、前から次々に崩れ落ちていった。

 勿論レオハルトの身体にも、幾つも弾が穴を、ひびを、焦げ痕をつけていくのだが、痛みを今は感じなかった。

 膝を折った兵士の銃を蹴り離し、首を掴んで引っ張り上げる。そのボディの陰から、背後にひしめく機械兵士の群へ、マガジンを空にする勢いで一気に弾を浴びせた。

 正にそれは鬼の攪乱。ど真ん中に弾を喰らわされた兵士たちがどよりと隊列を崩した。後ろに控える者が引き金を引くが、前の仲間に当たるだけでレオハルトには届かない。

 マガジンを食い尽くし空回りする銃を投げ捨て、代わりに自分を狙っていた敵の手を蹴り抜いて新たな銃を奪う。

 手近な奴を思い切り突き飛ばし、狙われない内に後ろへと跳んだ。その動きは、白兵戦を得意とする14隊に相応しい。

 「流石セントラル軍14隊。敵に回すと厄介だが、味方にすれば安心この上ない」

 へらりと軽口を叩いたセントリックスの肩を引き、エマージが脇道へ飛び込む。後からミアとレオハルトも続いた。

 「その厄介な敵とまだ当たっていないのが気に掛かる。グランの方へ回られるとまずいな」

 「もっともっと頑張らないとですね、先生」

 走りながら呟くエマージを、後ろからミアが追いかける。四人とも体力的には限界だが、まだ終わりにするわけにはいかないのだ。

 祈るような気持ちで仲間の成功を思い、人知れずエマージは唇を噛み締めた。

 (早くしてもらわねば困るぞ、キッド、マディ――!)



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