武器を振るえ、勝利の道を突き進め!
その頃、広間で派手な一戦をぶち上げていた陽動組は、雪崩れ込む軍人の多さに押されつつあった。
いくらエマージの戦闘力が並以上とはいえ、同じく医者に過ぎないセントリックス、更には本来戦う術を持たないミアでは、戦闘のエキスパートたるセントラル軍に対して役不足なのだ。
そしてその戦闘力不足を補うべきレオハルトすら、未だに自らの迷いに照準を揺るがせている。
対峙しているのは、元仲間。そんな想いが彼の手元を狂わせる。折り合いが良くも悪くも、彼にとって仲間は仲間なのだ。例え自らを処刑しようとした軍の構成員であっても。
「まるで、蟻の大軍を相手にしているようだ・・・潰しても潰しても・・・まだ湧いてくる! 対処のしようが・・・ありゃしないよ!」
「その口にマシンガンを装備すべきだったな、喋る暇があるなら一人でも多く叩き潰せ!!」
セントリックスが息を弾ませれば、声を荒げてエマージが叫び返す。
広場に雪崩れ込む軍人たちは、同士討ちを恐れて銃を派手に使いはしないが、何分数が違うのだ。しかし奴らを釣る為には、リスクを負わねば始まらない。
「先生たち、目を閉じてて下さいっ!」
手に砲丸のようなものを持ち、ミアが叫んだ。サッと身を伏せた仲間の上に弧を描き、弾は床に着弾するや閃光となって弾け飛んだ。
室内に満ちた高濃度の光にモニターを焼かれ、軍人の波がどよどよとブレる。
「良くやった、ミア」
「えへへ、ヒナさんからもらったんです〜」
ふ、と笑みを浮かべ、ミアの頭に片手を乗せたエマージは、助手の華やかな笑顔から視線を離して敵軍を見渡した。
と、その時、ずん・・・と響く重い音を聞いて、エマージとセントリックスが顔を見合わせた。
「どうやら、また新しく何か来るらしい」
「先程の警報にあった、機械兵士という奴か」
また難儀な、とエマージはぎっと眉間を寄せる。
「離れた方が良い。ここは広すぎる、数当たり戦は不利になる」
まだ閃光弾の効力がある内にと、一行は別の出口を目指してまた走り出した。
ずん・・・ずん・・・。
彼らの後を追いかける、重厚な足音。敢えて振り向くこともせず、一行はとにかく細い通路を目指して走った。
「・・・・・・この辺りで良いだろう。」
ぴたり、と。先陣を切っていたエマージが足を止め、周りもそれに倣った。重い足音は次第に近づいてくる。
「軍人たちは追いかけてくるかな?」
「多分来るが、背後で待機するはずだ。機械兵士の攻撃に巻き込まれたくないはずだから」
セントリックスの質問に、今まで口を閉ざしていたレオハルトが囁くように返した。
「あの兵士には感情がない。だから例え味方を巻き込む危険があっても攻撃する」
「それって・・・酷いです・・・」
「つまり、破壊行動に特化した冷酷極まりない精鋭だと」
「足音を聞く限り、少数精鋭ではないようだね、残念ながら」
前を見据えながら言葉を交わす四人。次第に近づいてくる足音が、じわじわと鋭気を削りにかかる。
ずん・・・・・・――
重低音と共に、機械兵士が角から姿を現した。
それと同時に、セントリックスが左腕のペンチを構え突進する。不意を突かれた機械兵士が腕の銃器を構えるも、遅い!
頭上から降った一撃に一体目が沈む。次の一体が弾を乱射する一瞬前に、長身をいっぱいまで地に沿わせて躱す。背後では、エマージがチェーンソーを盾にミアを庇う。レオハルトも低く身を伏せていた。
「お前だけ避けるな」
「痛いのは御免だからね」
顔も見ずに言葉を交わすが、お互いがどんな顔をしているか、旧友の彼らには手に取るように分かっていた。片や不機嫌に口端を曲げ。片や不敵な微笑を浮かべている。
間違いない、と腹で笑い、エマージは右腕を振りかぶる。狭い通路では、機械兵は一列にならざるを得ない。その腹ど真ん中を狙い、得物を叩き込む。
ギ、ガ・・・―――!
チェーンソーの回転音に伴って悲鳴に似た音を上げる身体を、力任せに押し出す。後ろに詰まった機械兵士が銃を撃つが、それでは前の兵士に当たるだけで意味はない。分断された兵士がくずおれると、その後ろには数々の銃口。
「伏せろ、巻き込むぞ!」
鋭くレオハルトの声が飛ぶ。考えるより早く地に伏せた二人の医者を超え、マシンガンから放たれる弾丸が機械兵を襲った。振り返れば、ミアを後ろに隠し武器を握る軍人の姿。
「今までの大人しさが嘘のようだな!」
「彼らはただの鋼鉄の塊・・・・・・私の仲間とは思えなくてね!」
嫌いなんだ、とレオハルトが続けた気がするが、敵味方入り乱れる銃撃の音で掻き消された。幾発かは確実に彼の身体を傷つけているはずなのに、退く素振りすら見せないのは流石軍人と言うべきか。
幾体目かの機械兵士が倒れた所で、マシンガンが空回った。積み重なった鉄屑が邪魔をし、残りの機械兵士はその場で立ち往生している。
「今の内に退こう! こんな障害物じゃ足止めにもならない」
ちらとミアの無事を確認し背を向けた軍人の後ろを、ひらりと身を翻して医者二人が追いかける。レオハルトの言葉を裏付けるかのように、後方で鉄屑を踏み壊す音が響いた。
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