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戦え!戦え!引っ掻き回せ!


 一方、既に内部へ侵入していたエマージは、レオハルトとミア、セントリックスを引き連れて、開けた場所目指してひたすら進軍していた。

 広場に人員を割いている軍内部は、それでも警備の壁があるにはあるが、普段に比べれば閑散としているに違いない。向かう相手を締め上げながら、四人は突き進んでいく。

 「次はどこを曲がる!?」

 今対峙した相手を、彼がカメラアイを瞠るよりも早く斬り倒したエマージが後方に吠える。あっちだ、とレオハルトが右の通路を指差すと、その矛先をセントリックスが腕をぐいと引いてわずかに左へ変えさせた。

 「そっちよりこっちの部屋を通った方が早いよ! 実は奥の通路に通じるドアがあってね、なあに前見つけた近道だよ」

 言うなりさっさと部屋の中へ身を滑り込ませる軍医。続いてエマージとミアが、最後に慌ててレオハルトが走り込み、扉を閉じた。また走り出した一行のしんがりを勤める、真面目一本の軍人に向けて、エマージがニヤリと笑う。

 「こういう脇道も、覚えておいた方が良いだろうな」

 ぽかん、と呆けたレオハルトへ降る笑い声。大声は困るよエマージ、と振り返って叱るセントリックスと、隣の赤いジャンキーを見比べながら、レオハルトは一瞬今来た道を振り返った。

 自分が知らずにきたことが、何か一つでも落ちているような、気がして。

 しかし、ちょうど彼らが別の通路へ飛び出したのと同時に鳴り響いた警報に、レオハルトだけでなく、全員が意識を一点に向け顔を見合わせた。

 「どうやら別の奴らが始めたようだね!」

 「ふ、好都合だ。ならば我々も遅れは取れまい!」

 「早く目的地まで行かなくちゃですね!」

 広間はもう少し。警報の発信源へ駆けてゆく軍人たちの前に立ちはだかるエマージの得物が、禍々しい雄叫びを上げる。

 「こ、こっちにも侵入者だ! Cエリア4番通路にも応援頼む!」

 無線に向かって叫ぶ一人の側頭部を、セントリックスのペンチが叩き抜く。吹き飛んだ軍人の身体が床で弾むのと同時に、何処かで爆発音が沸き、建物全体が軋みを上げて揺れた。誰かが爆弾でも起爆させたのだろうか。そこかしこで鳴り響くサイレンが、異常事態を演出している。

 「くそ、どうなってるんだ!? 何でこんなジャンキー共に・・・・・・!!」

 「所詮軍などこの程度ということだ、残念だったな!」

 「ぐあ、あぁッ・・・!」

 次々通路に流れ込む軍人たちを斬り伏せ、捩じ伏せ、やがて四人は広間へと辿り着いた。セントリックスが壁の警報器をぶち壊し、ここにもけたたましいサイレンを撒き散らす。

 「さて、派手にやろうじゃないか!」

 「元よりそのつもりだ。ここに全兵力を集めるつもりでな!」

 背中を合わせて構えた医者二人に倣い、ミアもまたその背を二人に預ける。手に抱えているのは、爆薬を詰めたカプセルだろうか。

 レオハルトも事情が分からないなりに、倒れた軍人から銃を取り上げ構えた。しかしそのフェイスには、ありありと困惑が滲んでいるのだった。



 軍内部は確実に混乱を来たしていた。

 グランハルトの仲間だけでなく、広場で合流したジャスライト率いる一団もこの混乱劇を盛り上げているのだ。彼らの一見破天荒に見える暴れっぷりにも、隠れた意味がちゃんとある。

 この混乱の中、その意を果たすべく、キッドとマディも自らの仕事のため中へ侵入していた。

 彼らが目指すのは中央管制室。マザーコンピュータを乗っ取るのが二人の仕事なのだ。

 軍人らは十分別の場所に引きつけられているようで、二人が走る通路には今、人影一つ見当たらない。

 「ほんと上手くいったぜ」

 「安心するのはマダ早いヨ! 管制室にはキット人が居ル」

 「そん時のためのコイツだろ!」

 片手に構えたピストルをちょいと帽子脇に掲げてみせるキッドに、その背にしがみついているマディが慌てて抗議する。

 「手、離さないでヨ! 落ちたらどうするのサァ!」

 「悪い悪い! ・・・・・・おっと!」

 先の角を人影が掠めるのを見て、キッドが足と口を止める。手近にあったドアノブをひっ掴んで回し、迷わず中に飛び込んだ。

 「中、誰もいなくてラッキーだったな」

 「こんな大混乱なのに、ノンビリ部屋に籠ってる人は珍しいだろうネ」

 すげなく言いながら背から降り、マディは抱え持っていたパソコンを覗き込む。早くマザーコンピュータをこちらの支配下に置かなくては。

 マディの持つ技術力は、マザーコンピュータ攻略に欠かせない要素だ。しかし彼一人では、今度は戦闘力が不足する。なけなしの人員の中、付き添いに選ばれたのがキッドだったのだ。

 マディの死に損ないの身体がどう捻り出しても持ち得ない機動力とスタミナを補うのが、キッドの役目。

 一時は険悪な雰囲気だった二人だが、今は互いに力を合わせる心持ちになっている。そもそも、心が揃わなければこの仕事、務まりはしないだろう。

 と、暫く慎重に廊下の人影を探っていたキッドが、ようやくマディを振り向いた。

 「おし、居なくなった。行くぞマディ、捕まれ!」

 「分かっタ!」

 ラップトップを抱え直し、ヒラリとキッドの背に飛び乗る。また風のように走り出した二人が目指す――その場所へと。



 だが。



 その時、警報を上書きしてアラームが鳴り響いた。新たな展開を告げる音に、キッドとマディのみならず、中央部で暴れていたエマージたちも、人知れず切り込んでいたグランハルトとヒナギクも、方々で戦うジャスライトの仲間も皆、一様に身を固くした。

 『――各員に告ぐ。侵入者排除の為、レベルシックスを発令。よってこれより、機械兵士の投入を開始する』

 「機械兵士だあ?」

 キッドが訝しげに、聞き慣れぬ単語を口に乗せる。
 そういえば一度だけ、確かストリートチルドレンの掃討作戦か何かの折りに、そんな物が投入されたという話を聞いたような気がする。

 「アレ、使う気かァ。マズイネ、今のままじゃ止められナイ」

 頭上で呟く声に、知ってんのか?と問い掛けると、

 「そりゃそうサ! 前にワザとハッキングしたことがあるんだモノ。グランに頼まれたからネ」

 あの時は、とマディは続ける。

 「ウマいこと侵入できたケド、今回はチョット難しいカナ」

 「・・・・・・じゃあ四の五の言うより、管制室乗っ取っちまった方が早いんじゃねーの?」

 ぱちり、と。二人の視線が交叉する。

 「――言えてるネ!」

 「そんじゃ、先を急ごうぜ!」



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