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回り出した歯車の行方は


 バン!という激しい破裂音と共に、ざあっと辺りに濃い煙幕が広がった。迅速な煙の回りに、包囲網がざわつく。同じくグランハルトたちも焦りを浮かべたものの、エディゼーラのロボット――ササムラがそれを宥めた。

 「安心なされよ、あの声音は仲間のものだ」

 緊迫はしているが静かな声音に、そうか、とグランハルトは納得して頷いた。グラッジバルドが慌ただしく指示を飛ばしている声が聞こえる。まあ有能なことだ、とエマージが鼻で笑う声も聞こえた。

 「ササムラ、ゲイン、こっちです!」

 突然、煙を裂いて誰かの声がした。侍ロボットと、鍔付帽子のロボットとが声を振り向く気配がする。あ、とグランハルトとレオハルトが同時に顔を向ける。

 「ジャスライト、か?」

 元13隊隊長、ジャスライト。軍を脱走してからは、同じジャンキーとして路地裏の民となっていた彼。以前ガルバートを引き取ってもらった、かつての同胞だ。銃剣を背負った姿が薄く見えて、グランハルトはそちらへ向かって手を振った。

 「久し振りだな、ジャスライト! お前の仲間か?」

 「はい! ですが今はさて置きましょう。時間がありません」

 凛々しい顔つきに、グランハルトのカメラアイが細められる。どこか頼りない好青年というイメージを捨てないといけないな、と、彼は小さく笑った。

 しかしぐずぐずもしていられない。グラッジバルドの指揮の下、軍はすぐに再編されるはずだ。

 「混乱に乗じて正面突破の計画はおじゃんだな。どうする、グラン?」

 早口で問い掛けるエマージの隣で、セントリックスが前行くササムラたちを引き止め、何か話し出した。エマージを振り返り、またその他の顔を見つめ、

 「さあ南南東に進行だ、私達はこの煙が消える前に何とか逃げ出さないといけない。後ろの君達も来たまえ、幾らいても人手が足りないんだからね!」

 「南南東・・・・・・?」

 「そこには旧式の鉄門があったはずです」

 レオハルトの呟きに、ジャスライトが答える。

 「こうなるのを踏んでね、私が前もって鍵を開けておいたのさ。正面から突破するのは不可能だろう? あそこから全員侵入し、それから持ち分の仕事に掛かれば良い」

 「そりゃでかした! よし、俺と仲間で足止めする。エマージはキッドとマディ連れて中入ってろ!」

 背中から銃を取り上げて、グランハルトが言う。頷いたエマージと、ジャスライトの仲間たちが、煙幕の中一斉に南南東の旧門目指して走り出した!

 ざああ―――――・・・っ

 煙が風に吹かれたなびく。消えゆく壁、さらされる姿、いち早く捉えたグラッジバルドのカメラアイが揺れる。

 「追い詰めろ! そちらに道はない! 皆殺しにしろ!!」

 狂ったように叫ぶ彼の後ろで、ラグハルトも同じく得物を構え戦闘体勢を取っている。やっべ、と独りごち、グランハルトはさっと辺りに目を走らせると、空へ向けて一発、発砲した。

 すぐさま潜んでいた場所から、ヒナギクが駆け寄ってくる。少し離れた場所からは、同じくキッドたちも。さっと傍へ寄り添った忍の肩を引き寄せ、耳元へ囁く、

 「侵入口変更だ、南南東の旧門から入る。全員入るまで、お前も足止め手伝え」

 「承知!」

 ニィッとヒナギクが笑う。一直線に、彼らジャンキーは旧門を目指してひた走る。

 「総員構え!」

 背後からラグハルトの号令が飛ぶ。続く鉄の音の多さに、ぶるりとヒナギクが身を震わせた。

 「全く、自分とこの隊長と戦るってのぁ嫌な気分だぜ!」

 背後に仲間を庇う形で包囲網と対峙したグランハルトが、背に掛けていた物を手繰り寄せ掴み、吐き捨てる。隣ではヒナギクも、気持ちは分かると言いたげな面持ちで構えていた。

 発砲号令の直前、グランハルトは手にした手榴弾のピンを口で引き抜き、敵勢に向かって振りかぶった。しかしいち早く感づいたラグハルトが、それを空中で狙う。

 「おっと、そうはいくかよ!」

 だが今度は、腕の隠しから球を取り出したヒナギクがそれを投げた。

 地面に着弾する時間も惜しいとばかりに、放られた球をクナイで追撃すれば、眩い閃光を放っての爆発。ご丁寧にも煙幕の追い討ちもついている。目眩ましには十分だ。

 「さっすがシェイディアの戦士だな! よし行くぞ、ヒナ!」

 「そりゃどーも、っつかヒナギクだっつーの!」

 続いて起爆した手榴弾に包囲網が怯んだのを見て取るや、ぐるりと身を翻すグランハルト。彼に従い、ヒナギクも軽やかに身体を反転させ、駆ける。

 鉄扉は僅かにその口を開けていて、既に仲間たちを飲み込んだ後だと分かった。そこへ二人も身を滑り込ませる。

 中にはもう既に人影はなく、ヒナギクはちらりとグランハルトを視線のみで仰いだ。それににかりと応えて、グランハルトは忍の後頭部を手で軽く前へ促す。

 「全員仕事に掛かったのさ。やれる所までやり切る、そいつが今回の仕事だ」

 「分かってらあ。俺らは中枢目指すんだろ? さっさと行くぞ!」

 元軍人のグランハルトと、セントラルを調査していたヒナギクにとって、ここは庭のようなもの。お互い迷うことなく、奥に向かう通路へ向かって走り出した。



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