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始まりの鐘が鳴る


 囚人たちは処刑台に登らされ、台に首と両手首を固定された。その様子を、群衆たちは不謹慎な興味で見上げている。

 台上のレオハルトは彼らの視線を見たくなくてか、それともこれからの不安と絶望にか、引き立てられてからここまで、一度も顔を上げていない。

 対するセントリックスは、まだ持ち前の飄々とした態度を残しているのだった。

 (ねえ君、まだ諦めたらいけないよ)

 レオハルトの脳裏を、先程こっそりとセントリックスが囁いた言葉が過ぎる。

 (そんなこと、無理だよ)

 きゅっと唇を噛んで、彼は目前の床に弱々しい視線を向けた。誰も助けに来やしないのに。それに、もし来たとしても困る。逃げろと言ったのは自分なのだから。ジレンマに苛まれる彼を、しかし群衆の中から見上げる人影があった。

 「罪状読み上げが始まったら突っ込むぞ。良いな?」

 迷彩柄を隠すようにマントを羽織ったグランハルトと、

 「了解だ。後は野となれ山となれ、だったな?」

 同じく目立つ赤いボディを隠したエマージだ。目指すは処刑台の破壊と囚人救出。他の仲間は所定の位置で息を潜めていることだろう。二人は顔を見合わせ、ニヤリと笑った。

 泣いても笑っても、ここからが本当の大喜利だ。

 執行人の一人が、罪状を広げる。

 ざ、と人波を払い、二人が駆ける。

 走りながらマントを剥ぎ取ったグランハルトが、一足飛びに台へと飛び上がる。ひらり舞ったマントが落ちる前に、呆気に取られている執行人に肩当てを食らわし、台から突き落とす。

 と同時に、エマージも台上へと飛び乗り、そのチェーンソーが絶叫に近い歓声を上げた。

 自分を見上げる、驚いた顔のレオハルトに、グランハルトがにかりと笑いかける。

 「悪ぃなレオ! ちょっとばかし遅くなっちまった! エマージ、一丁頼んだぜ!」

 分かっている、と答えるよりも早く、医者の得物は嬉々としてギロチン台を破壊しに掛かっていた。次はあちらだ、と軍医を振り向こうとしたエマージへと、軍人たちが銃を向ける。

 狙われている、とエマージのブレインサーキットが弾き出すより早く、群衆の波の中からエストランド風の出で立ちをしたロボットが飛び出し、狙いをつけていた軍人の気を一手に引いた。

 鍔広の帽子に端正な笑みを浮かべるそのロボットは、ちょいと帽子の鍔を小粋に傾げると、あっという間に構えられた銃を蹴り上げ、更にもう一撃回し蹴りを繰り出して、軍人を台下へと沈めてしまった。

 その鮮やかな身のこなしに、グランハルトたちも目を瞠る。

 「貴様等ァァアアアッ!!!」

 「やべえっ、あいつだ!」

 その時、処刑台へと続く階段から轟いた怒号に、グランハルトがさっと顔色を変えた。

 グラッジバルド。今最も脅威となる相手だ。銃は周りをも巻き込むと思ってか、彼は愛用の銃の代わりにサバイバルナイフを掲げ疾り来る。

 エマージが思わずチェーンソーを構えると、その腰を先程のロボットがぐいと引いた。

 「あっちは心配要らねえさ! それよりこいつの台もぶっ壊してくれ!」

 その言葉にさっと視線を走らせれば、にこにこといつも通りの笑みを浮かべ待つ友、セントリックスの姿。ふ、と一つ、吐き出すように笑んで、思い切りギロチンの柱を叩き切る!

 その脇では、怒りに任せ突っ込んでくるグラッジバルドのナイフと、またもや台下から飛び出してきたロボットの刀が、火花を散らしていた。

 すらりと長い刀身に移るのは、緑のカメラアイに黒いファイバーヘア、幅広の袖口の一風変わった装飾は、以前ヒナギクが街で出会った、エディゼーラのロボットである。

 拮抗はほんの数瞬。ばっと間合いを取ったグラッジバルドは、今度こそ彼の得物を構えた。狙うは、台上に揃い踏みの反逆者共。

 彼らがハッと息を飲む前に、脇にレオハルトを抱え上げ、グランハルトが高々と叫んだ。

 「飛び降りろおぉっ!!」

 それが合図だったかのように、次々に台から飛び降りる馴染みある、または見知らぬ仲間たち。同じくセントリックスを抱えたエマージも、ずしりと重い音と共に地へと降り立った――が。

 「・・・・・・やれやれ、どうも万事上手くは行かないようだね。一難去ってまた一難とは正にこのことだよ」

 彼らの周りを取り囲む、数多の軍人たち。その構えた銃の矛先は、しっかりとジャンキーたちを捉えていた。はは、とグランハルトが乾いた笑みを浮かべる。

 「何だ、思いの外警備が厚いじゃねーかよ」

 呆然と呟いたその台詞に、ニヤついた返答が降った。台上から狙いを定めたグラッジバルドだ。凶悪に歪めた口元、澱んだ青いアイモニターは、逆光の中でも何故か良く見える気がした。

 「貴様等の動向を、計り切れんとでも思ったかァ? 大人しく武器を捨てろ。まあ貴様等の末路は、全員仲良くあの世行きだがなぁ!!

  撃 ち 殺 せ ! 」



 狂気的な号令に、全員の指が引き金を引――――――



 「そうは問屋が卸しませんぜ!!」



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あきゅろす。
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