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ヒナなんて小鳥みたいだろ!
 前にずらりと揃った面々は、彼らなりに興味津津といった様子で、その無言の期待めいたプレッシャーはヒナギクを戸惑わせるのに十分だった。

 すうと息を吸い、ヒナギクは、

 「俺は火奈菊。シェイディアから逃げてきた。」

 と、短く告げた。今まで情報を奪いこそすれ、自身の情報を流すことなどなかったヒナギクにとって、名前を明かしたこと自体が驚くべきことだった。

 だがそれ以上は何を言えば良いかも分からず途方に暮れていると、すかさずグランハルトから助け船が入る。

 「何で逃げてきた?」

 まだ真新しい傷を抉られた気がして、意図せずグランハルトを睨みつけてしまう。が、そんな視線に臆さず、彼は大仰な仕草で両腕を広げてみせた。

 「言いたくなきゃ別に良いんだ。ただ、ここに居る奴等はみーんな訳アリよ、心配するこたねえ。
 例えば俺は元軍人。ま、あっちのやり方が気に入らなくって辞表叩きつけてきたってことだな。
 ちなみに名前はグランハルトだ。グランで良いぜ!」

 にいっと屈託なく笑われ、肩透かしを食った気分でヒナギクはちらっと隣りの大男へ視線を走らせた。それに気づいたエマージがふっと息を吐き、への字に曲げた口で言う。

 「私はドク・エマージ。安楽死という大量殺人罪で、助手のミアとメディアルドから亡命してきた。」

 手短なエマージの言葉が終わると、傍らの少女がぺこりと頭を下げる。

 思わずへこっと会釈を返してしまい、複雑な表情を浮かべるヒナギクに、ニコニコと場違いなほど満面の笑みを浮かべたマディが手を振って、

 「ワタシはマディ!造りかけのまま廃棄されるトコを、ココまで逃げてきたんダ。」

 言いながらひらりとマントを捲ると、細く脆そうなフレームボディに、幾本もコードが繋がっているのが見て取れた。

 このマントが無いと死んじゃうんダヨ、と笑いながら言うのを聞いているヒナギクの表情は、「そりゃ笑い事じゃねえだろう。」と如実に物語っていたが、生憎マディは全く気づいていないようだ。

 とにかく、誰も彼もがそれぞれ理由を背負っていると分かると、少し強張っていたヒナギクの身体からほっと力が抜けた。

 小さく頷いて先を促すグランハルトに励まされるように、躊躇いながらもヒナギクはとつとつと自分の理由を話し始める。

 「俺はシェイディアの諜報員だ・・・・・・った。セントラルの情報、特に軍部の機密を探るのが俺の使命だった。

 けど・・・裏切られた。長老は俺を売ったんだ、俺にセントラルの情報を集めさせたくせに!

 俺一人を悪者にしやがって、殺そうと、しやがっ、て・・・・・・!!」

 一旦口に出したら止まらなくなり、次第に激しさを増す語調を鎮めることも出来ないまま、最後は喚き散らすように吐き出したヒナギクは、暫く荒い息で肩を上下させて俯いていた。

 その肩を、グランハルトの手のひらが撫でる。がばっとヒナギクが顔を上げると、今度はがしがしと頭を撫で回し、呆気に取られている相手の胸をコンコンと叩いて、言った。

 「ようこそジャンクポットへ!宜しくな、ヒナギク。」

 グランハルトの言葉が皮切りだったようで、他の仲間が次々に握手を求めて集まる中心で、未だにぽかんとした顔のヒナギクの口元は、次第にゆるゆると吊り上がって、最後には笑みを形作っていた。

 ここには、どうやら場所があるらしい。

 今まで持ったこともなく、ましてや存在すら知らなかった感情が何故こんなにもすんなりと馴染んだのか分からないが、それはきっとあのリーダーのせいだろうと、ヒナギクは目星をつけていた。

 何となく人を惹きつける男。傍に居ると安心する。一見バラバラなこの仲間らが共に居るのも、きっとその辺りが理由なのだ。

 「楽しくなってきちまったや。」

 ぼそりと呟いたヒナギクの背を、マディがとんっと軽くタッチし、にいいと笑みを見せた。

 「ホントに楽しくなるヨ!ワタシはココに来てから、毎日楽しくて仕方ナイ!」

 ラップトップを小脇に抱えて力説したマディの身体は、次の瞬間ヒャッと声を上げて宙に浮いた。

 何事かと上へ目をやれば、不機嫌そうな表情のエマージが彼の首根っこを摘み上げていたのだった。

 「楽しむのは結構だが、羽目を外すのは感心せんな。ただでさえお前はスクラップになりかけなんだ、自覚があるなら大人しくしていろ。」

 「ハイハイ、分かってるヨォ、エマージ!・・・アノネ、エマージはワタシの主治医気取りなんダヨ・・・アイタッ!!」

 「気取りじゃない。実質そうなんだ。」

 ぐうっと眉根を寄せた凶悪な顔をし、エマージは宙ぶらりんのマディを制すとさっさか奥へ引っ込んでしまった。

 その後ろをちょこちょこ小走りについていくミアが、扉を閉める手前でにこっと笑い頭を下げたので、ヒナギクも少し笑ってみた。

 「ミアちゃん、可愛いだろ。でも手ェ出すなよ?エマージに細切れにされっぞ。」

 「あいつ、医者じゃなくて殺人鬼だな。」

 呆れてそう言うと、グランハルトがけらけらと笑った。

 「あれはあれで良いとこあんだよ!まー気をつけねえとスクラップにされちまうが。」

 どこに良いとことやらがあるのだろうともう一度視線を奥のドアに投げてから、ヒナギクはグランハルトへ視線を戻した。

 余裕が出てきた今、一つ気になることがあるのだ。

 「なあ、グラン。ちょっと聞いて良いか?」
 「おう、何だ?」

 相変わらずの笑顔に少したじろぎつつも、

 「ここ・・・ジャンクポット、っつーんだろ?
 はぐれ者集めてるってことは何か分かったけど、何でその・・・・・・ゴミ溜めなんて名前なんだよ?」

 あんまりじゃないか、と続けたヒナギクに、グランハルトはぽかんと口を開いたまま少々固まった。それからおもむろに小首を傾げると、

 「・・・・・・ジャックポットみたいで縁起が良いだろ?」

 「・・・・・・・・・・・・はぁっ!?
 お前・・・お前っ・・・・・・頼れるツラして阿呆なんだな!!」

 「な、阿呆って何だ阿呆って!俺はこの名前気に入ってんだぞ!?
 大体、ヒナギクなんて女みてーな名前してるお前に文句はつけられたくねえ!お前なんかヒナじゃねえか!!」

 「ヒナじゃねえっ!!俺はヒ、ナ、ギ、ク、だーっ!!」

 子供じみた言い合いを続けるグランハルトとヒナギクは、あまりの喧騒っぷりに奥から顔を覗かせた三人が呆れ果てた表情で首を振っていることに気付かないまま、暫くの間ぎゃあぎゃあと騒ぎ続けたのだった。



To be continued...

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