新たな仲間!デルタチーム
木枯らし吹きすさぶ冬、師走の雰囲気漂うある日。
―――良いニュースがあるのよ。
そうアキラがイグニスたちに告げたのは、ほんの十数分前のこと。今、イグニスとイーガルは並んでサンクタム・フラットの入口に立ちながら、顔を見合わせていた。
「・・・なあ、良いこと、って何だろーな?」
「さあ・・・? オレには見当もつかないけど。」
「俺の新装備とか?」
「うーん・・・そういう話は聞いてないし、それならオレは呼ばなくて良いだろ?」
だよなあ、と苦笑したイーガルは、開けてみろよと言うようにイグニスの肩に手をかけた。それを受け、戸惑いがちにだが彼の指が開閉ボタンを押す。
シュンと軽い音と共に開いたドアの向こう、大きな布山三つの前に、アキラたち上層部メンバーが並んで待っていた。
その後ろでは、テクニカルチームが機材を片づけている。イグニスたちはまた顔を見合わせ、足早にアキラの元へ向かった。
「アキラさん、これが良いニュースですか?」
そびえ立つ布山を指差し、イグニスが問いかけると、にっこり笑顔を浮かべてアキラが頷いた。と同時に、布山の一つがカタカタと音を立てた。
・・・・・・震えている?
釣られて他の二つの山も、わずかに身動ぎを始める。微かに震えていたそれは、あっという間に大きく揺れ出し、しまいには堪え切れないとでも言いたげな笑い声と共に、ばさりと布をはぎとって現れた。
「にゃはははは! もー黙って置物のフリなんて無理だよお! やっほー、あんたが隊長? うわーっ小っちゃいー!!」
「ったく、このバカ・・・笑いやがるから釣られちまったじゃねえか。」
「あなたがたは全く、大人しく待つこともできないんですね! ・・・カールズ、隊長に失礼ですよ!!」
布の下から姿を見せたのは、イグニスたちより遥かに大きな三体のロボットだった。
赤、緑、黄のカラーリングを施された彼らは、ぽかんとしているイグニス相手に口やかましく言葉を交わしている。
今はちょうど、黄色のロボットがイグニスをつつこうとするのを赤のロボットが止めたところだ。
「・・・・・・あ、あの、アキラさん・・・?」
未だ困惑から抜け切れないイグニスの眼差しを受け、アキラが三体を仰ぐ。
「ほらほらあなたたち、イグニスが困ってるわ。自己紹介、お願いね?」
彼女の言葉に、彼らの会話がぴたりと止まる。その中で一際きっちりと敬礼を返した赤いロボットが、他の二人を代表して口を開いた。
「大変失礼しました。我々はGOD機動隊所属デルタチームです。私はエース、こちらはブロー、そして彼がカールズです。」
「・・・・・・・・・。」
「よろしくなーっ♪」
エースの紹介を受け、緑と黄のロボットがそれぞれ反応を返した。ブローは片手をちらりと上げただけなのに対し、カールズの方はぶんぶんと両手を高く掲げるポーズで、他より子供らしい印象を受ける。
「本日より、イグニス隊長、並びにイーガル隊員と共に地球防衛の任に就きます。以後、ご指導のほどよろしくお願いします!」
またもぴしりと決まった敬礼に、イグニスとイーガルは顔を見合わせ、照れくさそうにはにかみ笑いを浮かべた。
「ええと・・・よろしくな、デルタチーム!」
「ああ、チームってことは、リーダーはあんたか?」
すっとイーガルがエースへ視線を合わす。彼は一つ頷いた。
「はい、私がデルタチームのリーダーを勤めさせていただきます。」
と、ここで今まで大人しく話を聞いていたカールズが異論を唱えた。不満あらわに口を尖らせる仕草は、本当に子供っぽい。
「ズルいぞエース! オレだってリーダーやりたいー!!」
「あなたでは役不足です。リーダーは綿密な作戦を組み立て、その通り指揮する能力が必要なんですから。」
やだやだ、とさらにだだをこねようとした仲間を押しのけ、ブローも不快そうに口元を曲げ、言った。
「作戦の指揮だあ? じゃあ何か、テメエが下がれっつったら下がれってのか?」
「当然です。チームはリーダーの指示に従い、作戦を遂行するためにあるのですよ。」
さも当然と言わんばかりに発せられた台詞に、ブローがぎりと拳を握る。
二人は背丈こそ同じだが、体格的にはブローの方がはるかに部がある。二人より頭一つ分ほど大きいカールズさえも、彼の前では小さく見えるのだ。さすがのエースも、唇を引き結び、一歩下がってしまった。
しかし、言い争いが暴力沙汰に発展する前に、イーガルの鋭い声が飛んで、三体はハッと顔を下へ向けた。
「おい、鳥! 牛! 子猫ちゃん! イグニス困ってるだろ、ケンカすんじゃねーよ!」
「だ、誰が鳥ですか!」
「牛って何だ、ああ!?」
「そーいう風に呼ぶなよなぁっ!」
「じゃあお前ら、自分のボディ見てみろよ。」
呆れの溜息と一緒に吐き出された言葉に、彼らはお互いを見て、それから反論が浮かばず黙り込んだ。
確かに、エースの肩パーツは鳥を模したものだし、ブローのヘッドパーツには角が、カールズには耳をかたどったパーツがついているのだから。
唯一カールズだけは、「オレはただの猫じゃなくてチーターだもん。」と不服そうだったが。
「とにかく、同じ仲間なんだ、仲良くしなきゃダメだろ? なあエース、ブロー、カールズ?」
戸惑いがちにイグニスが言い、三体がしぶしぶ頷いたところで、事の成り行きを傍観していたマツウラが抜けた声を上げた。
「困ったなあ、これから合体の説明をしようと思ってたんだけど。」
「合体?」
またもや初耳な情報に、イグニスが首を傾げた。うん、と頷いたマツウラが、サンクタム・フラットの巨大モニターの電源を入れる。
ヴン、と唸ってから明るく輝いたモニターには、すぐにデルタチームの合体システムのデータが浮かび上がった。それを指し示し、今度はアキラが口を開く。
「デルタチームは、彼ら三体と自動走行ビークル、デルタローダーとの合体によって、I-Delta(イデルタ)になる合体プログラムを搭載しているの。」
おお、とイグニス、イーガル両者から賛嘆の声が上がる。すると、僕が考えたんだよ、とマツウラが嬉しそうに胸を張った。だが、すぐに彼は表情を一変させ、残念げに続ける。
「でもね、問題があるんだ。合体するにはするんだけど、その後はエネルギー循環のコントロールが必要になる。
だから、デルタローダーから成るコア部分に、イグニスが乗り込む仕組みになってるんだよ。」
「オレが?」
急に指名されたイグニスが、素っ頓狂な声を上げた。
「でもよマツウラ、それが何で問題なんだ? イデルタにイグニスが乗り込むだけなら良いじゃねーか。」
イーガルのもっともな疑問に、控えていたデルタチームも一様に頷く。マツウラとアキラはお互い顔を見合わせ、表情を曇らせた。
「それはね、この合体に危険が伴うということなの。」
「危険?」
「そう、デルタチームの心が一つにならないと、エネルギー循環に乱れが起きる。
いくらイグニスがコアとなって制御したとしてもし切れない、膨大なエネルギーが行き場をなくしたら・・・・・・どうなると思う?」
眉を下げながら問うたマツウラへ、エースが真摯な声音で呟く。
「・・・・・・爆発、ですね。」
「爆発!? おいおい、そんな危ねーシステムなのかよ! そんなとこにイグニスを乗せるって!?」
思わず声を荒げるイーガルだったが、なだめるよう腕に触れたイグニスの手に、不本意そうに口をつぐんだ。反対に微笑を浮かべたイグニスは、アキラたちとデルタチームへ順番に視線を送り、
「オレ、やります。デルタチームの心が通えば、爆発はしないんでしょう? それなら、心配ないですよ。」
力強く頷くイグニスに、デルタチームの面々も、思わず小さく頷き返していた。マツウラとアキラも、同じ。
「ええ・・・信じてるわよ、みんな!」
「そうだよ、デルタチームのAIはね、元々イグニスのものをモデルにしてあるんだ。一つになれないはずはないんだよね。
でも、同じプログラムで同じ教育をしたはずなんだけど・・・・・・何でかかなり個性が出ちゃってさ。」
あはは、と苦笑する彼に釣られ、口元に笑みを浮かべながら、けれどアキラはどこか嬉しそうだ。
「でも、それこそ心の証だわ。同じ子は決して生まれない。あなたたちはそれぞれ自分らしく、頑張ってちょうだいね。」
にっこりと微笑まれ、デルタチームは慌ててしゃんと背筋を伸ばし、敬礼した。
「了解、主任!!」
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