炎の勇者 イグニス登場!3 ついにボアコンダーがタカシの眼前に立ち塞がった。 見上げるほどの巨体に、捕らえたイグニスをかざし、ギロリと赤い目が見下ろしてくる。 その目を、タカシが見返した。 大きな目に涙を溜めながら。 「怖くないもん! イグニスがいるから怖くないもん!! ヒーローはこんなとこで負けたりしないんだぞ、絶対勝つんだ! お前なんかに負けたりしないんだ!!」 拳を握り締め、両膝を必死で伸ばして大地を踏み締めながら、タカシが叫ぶ。鋭い爪を敵が振りかざしても、真っ向から。 振り下ろされる―――! 「やめろおおおぉおぉぉおっ!!!!!」 辺りに強い光が満ちた。まるで星の爆発したかのような閃光に、タカシも敵も、思わず両腕で顔を庇った。 光の中、何かを引き裂く音、そして咆哮が尾を引く。光が晴れる。そっと目を開けたタカシの前に―――、 「イグニス!!」 薄い白煙の中、地面に立つ姿。その身には、超高温で熔けちぎれたボアコンダーの尾がまとわりついている。 腕を振るって残骸を払い、イグニスは損傷の痛みに吠える敵をぎん、と睨み言い放った。 「オレはお前には負けない。―――タカシが、そう信じてくれたから、オレは・・・お前を、倒す!!」 イグニスの言葉の終わりと同時に、ボアコンダーの腕が突っ込んできた。 それを跳び退いて避け、両腕をイグニブレードへ換装、地面を踏むや否や斬りかかる。 しかし敵もそう簡単にやられはせず、熱く燃える刃を両爪でがっちりと受け止めた。 拮抗する押し合いの中、慌てて安全圏まで離れたタカシを確認すると、ありったけの力をこめて剣を振り払い、敵の身体をはね飛ばした。 たたらを踏むボアコンダーが避ける隙を与えずに。 今度は銃を起動させ。 キュイン!とエネルギーの集束音を鳴らして、銃口が光る。胸のボタンが、チカチカと明滅を始める。 照準を、合わせた! 「イグニキャノン・フルバースト!!!」 光の弾が、連なり、加速して敵を貫いた。 悲鳴に似た咆哮を上げ、ボロボロになったボアコンダーの身体から閃光がほとばしる。 ハッとしたイグニスが、走りながら叫んだ。 「爆発するぞ! 伏せろ、タカシ!!」 驚いて飛び上がり、すぐに茂みの中へ姿を隠した少年を確認した刹那、イグニスも地面へダイブする。 そのすぐ後ろで、轟音を破裂させ、敵のボディが木っ端みじんに吹き飛んだのだった。 ものすごい爆風が木々を反らせ、幾本かメリメリと音を立ててなぎ倒していく。 まともにあおられたタカシは、うずくまった形のままゴロゴロ転がって木にぶつかり、ぎゃっと悲鳴を上げた。 その上に、金属片がパラパラと舞い落ちる。 だが思っていたほど爆炎は拡がらず、風が治まった後、そっと顔を出した時には、そこかしこにパチパチはぜる小さな火の元があるだけになっていた。 「イ・・・・・・イグニス・・・?」 恐る恐る名前を呼ぶ。すると、少し離れた倒木の向こうから、見覚えあるオレンジ色の姿が立ち上がった。 「オレならここだよ。」 全身、泥と傷にまみれながらも笑うイグニスを見て、タカシの顔がぱあっと輝く。駆け寄り、倒木を乗り越えた勢いのまま、彼の首にかじりつくようにして抱き着いた。 「イグニス! 良かった、無事だったんだね!!」 「はは・・・それはこっちも同じだ。ケガがなくて安心したよ、タカシ。」 「うん!」 と、少年を抱きかかえたイグニスの足がふらついた。おっと、と彼を下ろし、自らは木の幹に背中を預けて寄りかかる。背部のバックパックが、バチバチと火花を散らせていた。 「イグニス、大丈夫?」 「ううん・・・・・・どうやらパワー切れらしいな。 でも心配ない。―――もう仲間が来たみたいだから。」 えっ、と振り返ったタカシの視界に、揃いの制服に身を包んだ大人たちが続々とやって来るのが映った。 その先頭を切っているのは、ひょろっと背の高い男性である。 彼は軽く駆け足でイグニスの傍へ寄り、そしてタカシと交互に心配そうな視線を向けた。 「キミたち二人とも、無事で何よりだよ。ごめんね、遅くなって。」 「いえ、大丈夫です。それより、民間人の保護、完了しました。」 そう言ってぴしりと敬礼しようとしたイグニスは、叶わずふらっと体勢を崩した。 あ、と声を上げた男性が振り返り、手を振ると、仲間たちが電動担架を押してやって来る。 「イグニス、これに乗って。後は僕らに任せてくれよ。」 にこりと笑う男性に、イグニスが苦笑した。 「・・・はい、お願いします。」 ガラガラと運ばれていく彼に、タカシがバイバイと手を振った。それから傍らの男性を仰いで心配そうに、 「イグニス、大ケガしてるの? 死んじゃったりしないよね?」 「あはは、彼はそんなにヤワじゃないよ。なんてったって、平和を守るヒーローなんだから。 そうだろ?友信タカシくん。」 最後の呼びかけに、タカシが目を丸くした。何故名前を知ってるんだろう。それを見た男性は、へらりと緩く笑い、 「僕はマツウラ。キミのお姉さんとは友達なんだ。アキラさんに連絡しておいたから、もうすぐ来るんじゃ・・・・・・、」 ないかな、とマツウラが続ける前に、軽やかに走る足音が聞こえて、二人は顔を見合わせた。 「タカシ! 良かった、ケガはない!?」 「姉ちゃん!!」 弟をギュッと抱きしめ、アキラはほっと溜息をついた。小さな擦り傷はあるものの、目立って大きなケガはない。 もう一度強く抱きしめた後、彼女はすっと身を離して、今度はマツウラへと笑顔を向けた。 「連絡ありがとうね、マツウラくん。」 「いえいえっ、どういたしまして!」 輝かんばかりの笑顔を前に、マツウラがヘロヘロとした笑みを浮かべて、首を振った。それを見たタカシがニヤリとしたのにも気づかない。 「何はともあれ、万事解決しましたから、ご心配なく。」 「ええ。・・・タカシ、もう一人で危ない所に来ちゃダメよ? 私も一緒に帰るから、ほら、先に向こうのおじさんに消毒してもらってらっしゃい。」 アキラが指差した先には、イグニスを収納したトレーラーと、救急チームの姿がある。 はーい、と元気よく駆け出したタカシをしばし見守ってから、アキラはこっそりマツウラに話しかけた。 「演技ご苦労様、マツウラくん。ごめんなさいね、タカシにも秘密にしてほしいなんてワガママ言っちゃって。」 「いえっ、アキラさんがGODの主任だってことは、まだ一般には公開してませんし・・・!」 「実質的に、表のことはマツウラくんに任せっきりだものね。ほんと、感謝してるわ。」 にっこりと微笑まれて、マツウラが一気に真っ赤になる。しかしそれには頓着せずに、アキラはさらりと髪をなびかせて、弟の元へ行ってしまった。マツウラは安堵半分、溜息半分だ。 ともかくも、今回の件にタカシが巻き込まれたのは偶然である。けれどこの偶然は波乱を呼び、やがて大きな渦になるだろう。 全ては、まだ闇の中。星を喰らう意思の魔の手は、もうそこまで迫っているのだ―――。 To be continued... [*前へ] [戻る] |