見えざるモノ 6 爆風を完鎮した後、マグネフィールドはビリッと磁気の壁を揺らしながら消滅し、八つのデバイスに分かれるとまたGODビルの方へと飛び去っていった。 青空に残った軌跡を見送ったイデルタは、しばしその緑色のアイモニターに青を映していたが、おもむろに手にしたトリスカリバーを天へ掲げた。 きらりと陽光を反射した剣はイデルタの手を離れるや、デバイスの後を追うように青空を切り裂いて飛び上がった。 マグネフィールドを構築するデバイスもトリスカリバーも、戦闘が終わるとGODビルへ送還できるようプログラムされているのだ。 そして武器を無事送り出すと、ようやくイデルタはデルタローダーとデルタチームへと分離したのだった。 軽く地響きを立てて降り立った三体とローダーを迎えるために、機動隊の元からタカシが駆け寄る。 運転席から降りたイグニスに体当たりまがいに抱き着いて夏の太陽のように笑った少年は、傍らで首に手をかけながら回しているブローを見上げて言った。 「ブロー、カッコよかったよ! 僕、見直しちゃったもん。」 突然降って湧いた形で褒められたブローは、怪訝そうに口をへの字にした。その様子を、カールズがニヤニヤ笑いながら覗き込む。 「ははー、ブローってばびっくりしてる? なあなあびっくりしたんだろ!」 「うるせえバカールズ、ちょっと黙ってろ。」 「バカールズって言うなよ、デブローのくせに!」 「ああ!?」 売り言葉に買い言葉であわやケンカという所に、エースの咳払いが割って入る。 途端に黙った二体を見て、今度は苦笑を浮かべた少年だったが、イグニスから少し身体を引くと、彼の集音回路にそっと囁いた。 「・・・でもさ、こういうとこがデルタチームのいいとこなんだよね。」 「ああ・・・そうだな。オレもそう思う。」 きょとんと目を瞬いたイグニスも、すぐに頷いて、それからおかしそうにくすくすと肩を揺らした。 その姿を見とがめたカールズにつっこまれ、何でもないよと慌てて弁解し始めるイグニスに、またタカシが笑う。 と、肩を誰かに叩かれた。ひょいと振り向くと、いつの間にかアキラとエミリもそこに立っていた。 「姉ちゃん、エミリちゃん。」 「タカシ、遊園地はしばらくお休みだそうよ。残念ね・・・。」 「そっかあ・・・・・・。」 ちぇっ、と唇を尖らせてみたが、ステレオンとの戦闘であちこち破壊された園内を見れば、仕方ないのは一目瞭然だ。 「・・・せっかく遊びに来たのにね、ごめんねエミリちゃん。」 「ううん、タカシくんのせいじゃないもの、気にしないで。」 眉を下げるタカシと、ふるふる首を振るエミリ。結局デートは邪魔されちゃったな、と残念そうに顔を見合わせるイグニスとデルタチーム。 そこへ、警察と話し終えたらしいマツウラが、にこにこしながらトタトタと駆けてきた。相変わらずひょろついた走り姿の後ろには、イーガルの姿もある。 「あのね、いい話があるよ!」 花が咲く、と評するよりは、どちらかというと飛ぶ蝶が脱力しそうな笑顔で子供たちの前にしゃがんだマツウラの言葉尻を、イーガルがさらう。 「GODの協力に感謝するってんで、パークの経営者が秘密でメリーゴーランドを回してくれるってよ。マツウラが頼み込んだんだ。」 「えっ、ほんと!?」 「せっかく来たのに、まだ何も楽しんでなかったしね。タカシくん、エミリちゃん・・・それに、よかったらアキラさんも。」 「俺らも乗りたきゃ乗っていいとさ。」 オレたちまで?と目を丸くしたイグニスの手を、タカシがつかむ。 「みんなで乗ろうよ!」 せっかく来たんだから! そう言って笑う弟に、アキラも隣に立つマツウラを見上げた。 「・・・私たちも乗りましょうか、マツウラくん。」 「えっ! あ、はいっ! もちろんです!!」 秘密のメリーゴーランド。白い馬と鹿毛の馬が二頭並んだのに、タカシとエミリが座る。 イグニスは後脚で立つ馬の手綱を取り、イーガルは始めは渋ったものの、結局イグニスの隣で黒馬に座っている。 デルタチームはもちろん乗れないので、空いたスペースで座っていた。 そんな彼らの様子を見守るアキラとマツウラがいるのは、シンデレラに出てきそうな馬車かごの中だ。 音楽が始まり、ゆっくりと台座が回り出す。 ゆったりと上下しながら動く馬に合わせ、カールズもくるくると周りを回り始めた。 苦笑はするが止めないエースの横では、眠そうな光を宿したブローが、呆れた顔で溜息を吐いている。 「・・・ねえ、タカシくん。」 音楽の合間に、エミリが小さくタカシの袖を引いて呼びかけた。なあに?と顔を向ける。 少女は、少しだけためらってから、にこりと笑った口に言葉を乗せた。 「私ね、いつものタカシくんがすてきだと思うの。」 みんなを信じてるって言って笑ったタカシくんのことを、すごくすごくカッコいいと思ったの。 「今日は、ありがと。」 赤くなってしまった顔を振り切るように早口で告げ、エミリはつかんでいた袖をぱっと離し、またポールへと両手を戻した。対して言われたタカシはというと―――、 「ど・・・・・・どーいたしまして・・・。」 やはり真っ赤になって固まってしまい、ぎくしゃくと返事を乗せるのが精一杯なのだった。 To be continued... [*前へ] [戻る] |