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絡みつく罠、忍び寄る闇!4

 「大丈夫かね、あいつら・・・。」

 「信用してないのか?」

 糸に絡め取られたまま、イーガルが呟く。すると隣のイグニスが、きょとんとした声で返した。

 まるで今の状況をこれっぽっちも意に介していないかのような言いっぷりに、思わずイーガルは口元に苦笑を湛える。

 「いや、信じてねーわけじゃないけどよ。つーかお前が信用しすぎなんだ。」

 まるで仲間が来た今、何も心配などありはしない、そう言いたげな顔に、思わずそんな軽口を投げてみたりする。

 それでもイグニスは、当たり前だと笑った。

 「オレが仲間を信じないでどうするんだよ。それより、ここから抜け出さないと。もう少しでブレードが出せそうなんだけどな・・・。」

 最後は独りごちるような口調で言い、身をよじっているイグニスを尻目に、イーガルは視線を他へ向けた。

 摩天楼を駆け回る面々。策はあるような言い様だったが、果たして。

 信じていないわけではないさ、と己に言い聞かせながらも、一抹の不安は拭えないのだった。




 さてイーガルの心配をよそに、デルタチームは一心にビルからビルへと移動を繰り返していた。

 例えどんなに素早いとしても、所詮は一体。三体がかりで捜索すれば、見つからないはずがない。

 「見つけたっ!!」

 それを裏付けるかのごとく、とあるビルへ跳び移ったカールズが短く叫んだ。そちらへ顔を向けたエースとブローが、お互い別方向から敵に迫る。

 敵を囲む三角形。逃げ場はないと悟ったのか、パラサイダーロボは足を縮めて身を竦ませた。



 ―――と思ったのも束の間。



 突如バネのように飛び上がった敵の身体を避け、包囲網を緩める三体。その隙を縫って逃れたパラサイダーロボは、勢いに乗ったまま彼らに向けて糸を吹きかけた。


 しかし糸が絡まる寸前、今度は自らの意志で、ブローが傍らのエースを突き飛ばした。

 すんでの所で糸の呪縛を逃れたエースとは裏腹に、あっという間に絡め取られた二体の身体が宙に浮く。

 そしてそのまま空中に張られた“巣”へ、まるではりつけのように捕らえられてしまった。

 「くっそ、ベタベタする・・・!」

 「・・・ダメだ。どうにも動かせねえ。」

 巣にかかった二体はそれぞれ逃れようともがくも、粘着質の糸がそれを許さない。

 また残されたエースも、なす術なく呆然と彼らを見上げることしかできず。

 そんな彼らの様子を、キチキチと得意げに牙を鳴らしながら眺め、パラサイダーロボはゆっくりと変形を開始する。



 脚部は背後へ回り、腹部が割れて中から腰、それから足が現れる。クモの頭部はそのまま胸部となって、そこから頭がせり出した。

 ロボットモードに腕はなく、すらりとしたボディはどことなく強度を感じさせない。

 獲物を捕縛した後でしか変形しないのには、おそらくそういった面での問題があるのだろう。



 とはいえ、今や驚異的には変わりない。糸を巧みに操ってふわりと浮かんだクモ型パラサイダーロボ、スピーチュラに対抗できるのは、現在エースただ一人なのだから。

 しかし、頼みの綱の彼は、巨大な敵を前に尻込みしているように見える。ゆっくりと近づくスピーチュラから距離を取りたいのか、じりじりと後退るエース。

 そうだ、クモ嫌いなんだ、とカールズが焦り気味に呟く。

 「エース! 早く何とかしてよ!」

 「わ、分かっています!」

 「ビビってんじゃねえぞ!」

 「分かっていますッ!!」

 一点張りで返す彼だが、下がっていく様子では説得力もない。表情を持たないスピーチュラが、ニタリと笑ったような気がした。


 「そ・・・それ以上、私に近づかないで下さい! うわああああっ!!」


 ざり、と踵がビルの縁を捉えた時が限界だったらしく、怯えた声を張り上げ、エースがめくらめっぽう銃を放った。

 もちろん彼らしからぬ攻撃が、スピーチュラに当たるはずもない。ゆらゆらと幾発かを避けながら、やはり敵はニヤニヤとした笑気をまとっている。

 己を怖がっているモノなど恐るるに足らない。さっさと片づけてしまおうか。

 そう言いたげな様子で、スピーチュラが八本の足をエースへ向けた。

 足の先端全てに、光が集束する。細いながらも強力な、ビーム砲。








 ―――と、ぐんぐん膨れ上がる光を見つめるエースの顔から、恐れが消えた。



 それと同時に。



 「クロースラァ――――ッシュ!!!」



 斬ッ! 空気と共に幾本も足を落とされ、スピーチュラが驚愕の悲鳴を上げる。振り向けば、自由の身を謳歌する二体の姿。

 事の成り行きを固唾を飲んで見守っていたイグニスたちも、思わず目を瞠るほどだ。

 すると、銃を構え直したエースがおかしそうにクスリと笑った。

 「案外あっさり引っかかってくれましたね。彼らを眼中から外して私に引きつけ、奇襲へつなげる作戦・・・・・・ぶっつけ本番にしてはなかなかでした。」

 「エースの演技、迫真だったもんな! 狙ってんのが実はオレたちを捕まえてた巣だなんて、思わなかったろ!」

 「あなたたちの演技は大根でしたよ。何ですか、あのあおりの入れ方。わざとらしくてヒヤヒヤしました。」

 「言ってろ・・・。」

 拳を握り直し、ブローがスピーチュラを睨めつける。三方見渡しても、隙はない。

 「ギイィィイィイィイイ・・・・・・・・・!」

 万事休す。そう思ったかは知らないが、スピーチュラの唸り声にはそんな響きがあった。

 しかし、だからと言ってそうそう大人しく観念するはずもない。

 残った足をピンと広げ、先程溜めた分のビームを放つ。

 思わず避けたカールズの隙をつき、破られた巣に飛び移ると、目を瞠るスピードで天井付近まで滑り上がった。

 デルタチームが次の手を打つ前に、天井から無数の糸が降り注ぐ。

 絡みつけば動きを奪われるその攻撃に、エースが小さく舌打ちをした。

 「やはりちまちまと攻めていてはらちが明きませんね。糸に屈しない、大きなボディが必要です。」

 「てことは・・・・・・やっぱアレ?」

 いたずらっぽく投げ返すカールズにうなずくエース。

 「もちろん、合体しかありません!」

 言うが早いか、三体のエンブレムが光り輝く。

 同時に、イグニスもブレードで糸を焼き切って宙へ躍り出た。すかさず腕を振るい、イーガルの糸をも切り払う。

 「デルタローダ―――ッ!!」

 高く呼び声が響く。呼応するように、地上からフィールド目がけ飛び込んできたデルタローダーのエンジン音が轟く。

 開いたハッチに飛び下り、イグニスは中空にとどまるイーガルへ、親指を立ててみせた。

 「サポート、頼んだぞ!」

 「当たり前だ、任しとけ!」

 力強い答えに笑顔を見せたイグニスが、ローダーの中へ消える。

 不利な気配を察したスピーチュラが、甲高い咆哮を上げた。背後で蠢く脚が方々へ伸ばされ、砲口が光り出す。

 「ブロー! 任せます!」

 「おうよ!」

 広範囲、避けるのは至難と見たエースが指示を飛ばせば、ブローがのっそりと前へ出、腕を振り上げる。



 ビームが放たれるのと、



 ブローが腕を足元へ叩きつけるのが、



 同時!


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あきゅろす。
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