長編
3
コンコン



突然生徒会室の扉がノックされた。


「ひゃお!」


ビックリして流さないように我慢して目に溜まっていた涙がポトポトと絨毯に落ちて吸い込まれていく。


「失礼する」


さっきの「ひゃお!」が返事に聞こえたのか扉が開く。


ひゃお!は返事じゃないから開けないで〜〜!


「失礼する。今日提出の書類が来ていないのだが……」


アワアワしてると扉から入ってきた男とバッチリ目が合いました。


今日提出の書類のこと言ってるからたぶん風紀の人だとは思うんだけど、めっちゃ目見開いてこっちガン見してる。
まぁ、扉開けたら涙流してる男が座り込んでたら驚くよね……

俺がだったらかなり慌てると思う。
ほんとに申し訳ないです。


取り敢えず涙を拭いて立ち上がらないと話できないし…
ハンカチかタオル持ってないかと探したけど無いので(いつもはちゃんと持ってるよ!)ゴシゴシと制服の袖で涙を拭く。


「擦るな、赤くなる」


突然腕を掴まれて袖で拭いていた腕を止められた。

じぃっと腕を掴んだまま顔を見てくるので、ものすごく恥ずかしいんデスけど……


「あの……擦らないから、……手を……」


放してくれると嬉しいなぁ〜、なんて……
あまりじぃっと見ないで欲しいでゴザル。

男は方膝をついてしゃがみ、オレのもう片方の腕を掴み座り込んでいるオレと視線を合わせてきた。


「何故泣いていた?」


ん?
今、泣いてる理由きかれたよね?
え〜と?
いきなり知らない男に泣いてた理由なんて聞かれてもとっさに答えれないよ〜。



ーー突然生徒会の皆が仕事してくれなくなってひとりでやってみたけど出来るわけなくて寂しいし、転んでさらにカフェオレ溢して泣いてましたーー


………………。


キャー!言えるわけないわッ!
特にこれといった理由もないし、それで泣いていたとか恥ずかしすぎるわ。
しかもちょっと混乱気味で巧い言い訳がでてこなくてじぃっと目の前の男の人を見詰めてしまう。


「泣いていた理由を俺は聞きたい……いきなりこんなことを言うのもなんだがお前が泣いていた理由が知りたい、そしてお前の涙を止めたい」


なんだろう……すっごく恥ずかしいこと言われちゃった気がするんだけど……気のせいかな?


あ、この人風紀委員だよね?
だからなにかあったら困るから理由とか聞きたいのかな。

でも、だからといって泣いていた理由を話すというのは恥ずかしい。

視線をウロウロさせていると優しい視線を感じそれに釣られて見ると茶色の綺麗な目が優しくこっちを見ていた。


「生徒会の今の現状は風紀も把握しているから安心しろ」


掴まれたままの両方の腕が解放され、そのまま男の指がオレの目尻に残った涙を拭う。


「学園のほとんどの生徒がお前以外の生徒会が仕事をしないでマリモにかまけているのを知っているし、会計のお前だけが生徒会に残り学校を支えているのも知っている……」


目尻を拭った手をそのまま頬に添えられてしっかりと目線を固定される。

普通の状態だったらものすごく恥ずかしいが今のオレはそれどころではなかった。


マリモ?マリモってあのマリモ?
阿寒湖の毬藻?みんなそんなの育ててるの?
天然記念物だけあって育てるの大変だからこないの?
オレって毬藻の飼育に負けたんだってこと?
ものすごいショックなんだけど。


「生徒のみんな知ってるの?」


恐る恐る窺うように聞いてみる。

生徒会のみんなが毬藻飼育にかまけて生徒会の仕事してないってことを……


「ああ、みんな知っているぞ。……だがここまでお前が酷い状態だったとは書類が期限に間に合っていたので気が付かなかった。よく考えれば分かるものだったが風紀も忙しく気が回らなくすまないことをした」

肯定された!
まじで毬藻の飼育してるんだ!!



オレほんとに……毬藻飼育に負けたんだ……



親指の腹で目尻の下を優しく撫でられる。


「別に謝る必要はないよ、オレが勝手にやってただけだし。でも…」


初めて会った風紀委員に愚痴を言うつもりなんてまったく無かった……


「三週間一人で仕事しててすごくキツかった…」


だけど、優しい目でオレを見てくれて……


「寝不足もすごく辛くて終わらない書類がたくさんあって…」


オレが言う言葉に頷いてちゃんと聞いてくれる


「でも……ほんとはひとりが寂しかった」


優しく頬を撫でてくれる手がたまらなく嬉しかったんだ。


「よくがんばったな」


その言葉がすごく嬉しくて拭ってくれた涙がまた流れて絨毯に落ちる。

落ちた涙が絨毯に消えていく。
染み込んで消えてしまった涙は跡形もなくなっていた。


落ちた涙消えちゃったーーー


そう思ったら不意にストンとなにかが落ちたように心が軽くなった。


「うん。オレめちゃくちゃがんばったんだ」


仲間だと思ってた人たちには毬藻飼育の方が重要だったらしくて負けちゃったけど……

ニコリとオレが笑うと男はちょっとビックリした目をしたが、また優しい目に戻りおれの言葉に頷いてくれた。


病気じゃなくて毬藻飼育のせいで仕事サボってる生徒会のみんなのことなんかもう知らないよ!








「オレ生徒会会計やめるよ!!」



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あきゅろす。
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