story.
行こう。
ねぇ、君には、この真っ暗な暗闇が、どう映っていたのかな
***
「あたしはもう、何かに怯えながら生きるのは沢山だ」
泣き腫らした目を、着物の袖で拭った蜜は薄気味悪い夕焼けを見つめて、俺へと揺ぎ無く語る。
「だからって死ぬつもりは毛頭ない顔をしてるよ」
「当たり前も当たり前、母様のように犬死になんてしてやらない」
「じゃぁ、俺も一緒に行くよ。父様を討ちに行くんだろ?」
俺と、蜜の父様は一緒。母様も…一緒。
でも、父様と母様の立場はとてもじゃないが一緒とは言えなかった。
所謂(いわゆる)、正妻ではない母と、その子供。
立場の低い、町人の娘が、昔一国の若と恋仲になりました。
そんな、馬鹿げた間に生まれた、馬鹿げた女と馬鹿げた男の間に生まれた、
罪深い俺達。
「それにしたって、自分の子供に殺されるなんて思ってもみなかったんだろうな、母様は」
ずっと城の地下室で、暗躍者として「教育」されていた俺達は、最初の任務として、母親を殺す命を授かった。
勿論、
抵抗なんてなかった。 そこら辺に居る女一人殺せば、少なくとも今の地獄からは、開放されると思ったから。
小さい頃から、親との接触なんてものは一切なかったし、俺は蜜だけを信じて、蜜は俺だけを信じて生きてきたから。
別になんともなかった。
それなのに、蜜は泣いていた。
俺は、泣かなかった。
これがきっと、俺と蜜との差なんだと、初めて、否応なしに俺は実感せざる得なかった。
「さぁ、行こうか、蜜」
俺は一人で、狂って仕舞ったのかもしれない。
あぁ、そうなのかも知れない。
それでも
「うん、行こう…是で、終わり…きっと、終わりにしよう」
終わりにしよう、この暗闇を。
君の目にこの暗闇がどう映っていたのか
俺は知る術を知らなかったけれど。
君だけでも、解放されて欲しい。
母様にも、父様にも、この現実にも
俺からも。
「さぁ、行こうか」
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