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story.
風の強い日
空を一面に覆うような暑苦しい雲を抜けて、
見たこともない世界に、

手を伸ばす


もう学校に行かなくなって、何ヶ月経つだろう。
心配してメールをくれた友達。

きっと、俺がこんなにも残酷なことを知りもしないで
ただ純粋に
心配してくれたであろう友達。

そんな友達を鬱陶しいと想ってしまう俺は、やはり冷め切った冷酷人間なのかもしれない。

ガツン…!!

「…?……」

窓からの破壊音。
突然独り世界に入っていた俺は、現実に引き戻された。

カラカラ……

「やぁ、お久しぶりだね、文(あや)」

「……藤群」

俺を名前で呼ぶ奴なんて一人しか居ない。
クラスでなんとなく話をして、
仲良くなった藤群菜穂子(ふじむらなほこ)。

そいつがなんで平日のこんな夜中に
俺の家の前で、俺の部屋めがけて石を投げつけているのか。

俺は全くその意図が読めずに、相手を無表情に見つめた。

「そんな顔で見るなよ。外は気持ちいいぜぇ?風が吹いてて、今にも飛ばされそうだ」

飛ばされそうなまでの強風を気持ち良いと言って、くすくす笑う相手を少し疑わしい目で見やると、俺はすぐに窓を閉めようとした。

「ちょ…!!タンマ!!STOP!!折角可愛いクラスメイトが足を運んでやったんだから、会話位しようよ」

「別に、来てくれとか云ってねぇし」

「そんな連れないこと云うなって。どうせろくに部屋から出ないで殆ど会話なんかしてないんだろ?クラスの奴が云ってたぞ、名々基(ななき)はメールしても返事が返ってこないって」

まぁ、そりゃぁ全部送られてきたメールなんてすぐに削除してしまえば、そういうことにもなるだろうさ

そう心の中で屁理屈を並べれば、相手が見透かしたようにまたもくすくす笑う。

「まぁ、文(あや)のことだからすぐにメール消したりしてるんだろうけどさ。だから直接来てみたのよ。どうだ、この意表をついた作戦」

「作戦は要らないから、帰れよ。風邪でもひいたら厄介だろ?他人の見舞いに来ておいて風邪なんて笑いもんだぜ?」

俺は軽く言い返すが、相手はそんなこと何一つ気にせずに一方的な会話を進める。

それがなんとなく心地よくて、俺はどうしても窓を閉められない。

「あたしさぁ、文が学校に居ないと、自分だけきったない人間なような気がしてきて、すごく居心地が悪いんだぁ。あんたはすごく現実的で、腹の中は冷め切ってて、情けもなくて、人と繋がりを持ったフリをしてる残酷な奴だけど」

「俺って、そんな風に想われてた訳だ」

「でもね、あたしはそんな文が好きだよ。人のこと信じないで、独りで生きようとする健気さとか、何も傷付けないように、無理矢理にでも優しさを振りまくところとか。相手を信用させておいて、自分を何一つ明かさないのは、相手に拒絶されるのが怖いからで、そんなところがすごく好きだよ」

「それは褒め言葉か何か?」

心に何も響かない。それなのに、藤群(ふじむら)の声はやけに優しかったから。俺はその先が聞きたくなって、先を急かすように相手へと言葉を投げる。

「だから心の底ではあたしなんてどうでもいい、そんなところも好きだ」

「…まぁ、事実だな」

相手はまたおかしそうにくすくす笑って、俺を見つめる。

「だからあたしに何を言われようと、きっと文(あや)は気にしない。だから、君はすごく居心地がいいんだ」

にっこりと笑う藤群はどこか寂しそうで、俺は初めて他人というものに、興味が沸いた気がした。

「明日から、学校に行くよ。お前に頼まれたら断れない」

「うん、是非断らないで欲しい。待ってるから」

そう、無理矢理に俺を暴かない藤群は、

すごく愛しくて、健気だ。

そんなことあいつにはわかっていないんだろうけど。

俺はそんなとこに惹かれて、やっとお前にだけは

自分を明かすことが出来た。


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