06
緞帳が下りていく。
見えなくなる舞台。
鳴りやまない大きな拍手。
思わず涙ぐんでしまった。きっと顔も真っ赤だろう。
なんて素晴らしいんだ、先程の新入生歓迎お笑い祭。
特に凄いと思ったのは金色先輩。
女を捨てたボケ(まあ男じゃけど)、計算されたボケ、そして二段構えのネタ…!!
笑わせない隙を与えない、そんなお笑いでした…。
『あの坊主眼鏡先輩の名前何だったっけ』
「ああ、金色小春先輩?」
『了解。栗木田これから金色先輩の事尊敬の意を込めて小春お姉様と呼ぶ事にするわ』
「まじかよ」
『それだけ感動したんだってば』
あたしもここにおれば、小春お姉様の様な女になれるじゃろうか、いや、栗木田はなる、そう言ったら阿呆か、と突っ込まれた。
麻梨紗ちゃんは感動せんかったんじゃろうか。
さっきからずっときょろきょろしとる。
「………おらんなぁ、財前先輩」
そう言う事っすか、先輩。
『てか小春お姉様は何処におるん?あたし握手したいんじゃけど』
「金色先輩なら、そこ」
麻梨紗ちゃんの人差指の先には一つの集団がもごもごしてる。
そこから何か悲鳴のようなものが聴こえてくるからうるさい、キモい、怖いの最悪なスリーコンボ。
流石小春お姉様、人からの信用も半端ないんじゃな。
「オドレらぁぁあぁぁ!小春に触んなやボケが!!!!」
『え、何あれ小春お姉様?』
「んなわけねぇじゃろ。一氏先輩じゃ、一氏先輩」
なら良かった!!!!
あたしの中の小春お姉様がわずか数秒でガラガラと素晴らしい音を立てて崩れていく処じゃった。
「一氏先輩は本間金色先輩らぶじゃな」
『あ、嘘ガチホモ?』
「おん」
まじかよ。
四天宝寺本間キャラ濃いな。
もっと他の学校にもわけたりゃあええのに。
いや、一氏先輩は無理じゃな。
受け入れられるんはここだけじゃわ。
………にしても。
『一氏先輩なあ……、本間邪魔じゃわ』
「!?」
『小春お姉様のSPみたいな感じじゃな。
あ―、うっと』
「え、あ、杏子ちゃん…?」
『なあ、どうしたら麗しの小春お姉様と仲良くなれるん?』
「……恋愛相談とか」
『恋愛とかなんそれ無縁ってか興味ねぇけぇ無理―』
ああああ。
小春お姉様と仲良くなりてぇ。
そして一氏先輩はあたしの敵と化した。
………………
『なあなあ麻梨紗ちゃん!
入部届け、出しに行こうでぇ!』
やあやあ皆さんこんにちは。
もう放課後だったりしますが充実した一日を遅れましたか?
栗木田は背中にこしの方までたるんってなってるリュックサックを背負っとります。
帰る準備万端じゃけ!!
栗木田はとても充実した一日を過ごしました。
小春お姉様の情報をかき集めていただけでしたが得たものは大きかったです、はい。
あ、そして今あたし達は入部届けを出しに行くつもりです。
見学したけど両方とも中々いい雰囲気の部活で、あたしの事可愛がってくれそうな先輩も見つけました。
いやはや、ありがたいこっちゃですな。
「おん、早めに出しといたほうがええしなぁ」
『んじゃあ行こうか―』
がたんと麻梨紗ちゃんが椅子から立ち上がるのを待ってから、二人で移動する。
何で四天宝寺ってこねぇにひれぇん?
今だに慣れんこの広さ、プライスレス。
『職員室を遠く感じるわ』
「後ちょっとだし!
……あ、オサムちゃんじゃあ」
『は?オサムちゃん?誰それ』
「四天宝寺中の教師やっとった人。高校に上がる噂聞いたけど本間じゃったんじゃな」
『オサムちゃん?誰、どれ』
「ほら、あれ」
麻梨紗ちゃんの人指しの先におる男の人は二人。
チューリップハットに咥え煙草でひょろりとした感じの男の人と、黒髪ピアスなのは………財前って言う人じゃね、あれ。
「うわっ、うそ!財前先輩がおる!!」
やっぱりな。
てか。
『オサムちゃん素敵じゃね…!!』
「え」
『ちょっと挨拶してくるわ』
「え、挨拶とか何」
そう麻梨紗ちゃんが言い終わらないうちに私は全速力で駆けだした。
『オサムちゃあああああああああん!!!!!』
「ぐふぅっ!!!!?」
全速力で走り、さらにジャンプしながら抱きついてみた。
オサムちゃんはよろけながらもあたしの事をしっかと抱きとめてくれた。
うは、この人のこの骨ばった中に筋肉のある体とか好み過ぎる。
でも服についてる煙草の匂いがかなりきつくて頭がくらくらする。
「……じょ、嬢ちゃん誰や?」
『初めまして!あたしは栗木田言います!!
そっちはオサムちゃんよな?オサムちゃん煙草どこの吸っとん?
これかなりきつい奴じゃろ、自分何歳なん?』
「え、27やけど」
『うは!好みの年齢だわ!!
ってか駄目じゃろ!!あんた三十路前じゃがん!!!
おえんでぇ、体は大事にせんとな。特に煙草何ざそんな毒草の塊以ての外じゃろそんなもん!』
「え、あ、はあ」
『もう離せんこうなっとる時点でアウトじゃな…。
あ、そ―じゃっ!!』
抱きついていたオサムちゃんから離れ、自分のナップサックをごそごそと漁り、飴を、あの舌なめずりをしてる有名な某ツインテール少女の棒つきの飴を出す。
『さあどっちがええ!?』
オサムちゃんの顔の前に二つの飴をずいっと差し出す。
オサムちゃんは其処から、棒のついた方を取った。
『わざわざゴミの出る方選んだん?アホじゃなあ、自分。
まあええわ。次から煙草欲しくなったらうちに言い?
それあげるけぇよお。それかお口の恋人でも頭からしゃぶっとけば?』
「え、あ、おん」
『ほんじゃあうちらは入部届け出しに行くから行くわ―、またなぁオサムちゃん!
麻梨紗ちゃん、行こぉでぇ!』
「あ、ちょ、待って杏子ちゃん!」
麻梨紗ちゃんが来るまであたしは手持無沙汰になった飴を口の中に放り込んだ。
そして、麻梨紗ちゃんが来てからオサムちゃんに声をかけ、もう一回手をぶんぶんとふってから職員室へと向かった。
…………………………
オサムは杏子から貰った飴を口にしており、コロコロ、からからと言う歯と飴がぶつかる音が小さく聞こえる。
オサムと財前は駆けて行った少女、杏子の方向に視線を向けていた。
二人の瞳の奥には、とある感情が揺らいでいた。
「杏子ちゃんなぁ…。
あの子ええんとちゃう?うちのマネージャーに」
「……アイツ変な奴っすわ」
「何でや」
「もう一人の奴は俺の方ガン見してきよったけど、あいつこっちいっこも見んかったんですわ」
「ほぉーん、おもろいやんか。
おん、ええんとちゃう?オサムちゃんはあの子をマネージャーに推薦します」
「………マネージャーにするかはわからんけど、おもろかったからブログのネタにしたろ」
財前はポケットから携帯を取り出し、メーラーを立ち上げていた。
宛先を一斉送信に設定し、先程の事を知らせるのだろう、中々の指さばきで文を作り上げていく。
ブログの事は後回しにするらしい。
その一方、オサムは少ない脳味噌というものをフルに活用していた。
まずはレギュラージャージをMサイズ、…いや、大きめの方が自分の好みだから大きめの物を注文しておこう。
さて、あの子は自分に随分となついてくれていたようだがどうやって勧誘しようか等、杏子をマネージャーに仕立て上げる事を考えていた。
二人の瞳の中、揺らぐ感情は好奇。
それはめらめらと燃え上がり、拡張していく。
一体それが杏子をどう飲み込んで行き、彼女の人生を変えていくのか。
それは誰も知らない、これから知る物語。
数分後、男子テニス部レギュラー陣全員の携帯が鳴った。
犯人は財前だった。
受信トレイ
Time 20XX/04/XX
from 財前
Sub 無題
おもろい奴発見しましたわ。
何やオサムちゃんがマネージャーに推薦しとりますけどどうします?
ああ、名前は栗木田杏子言うらしいっすわ。
やっとtns部が動き出します。
早く動かせたかったので展開がものすごく急になってしまいました。
後々加筆する予定ですが今は取り敢えずこれでお願いします。
20011.07/25
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