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慟哭




「副社長、初めまして。ラザードと申します」

「あ、ああ…そう言えばソルジャー統括に新任になった者がいたな──いやに、若いな」

神経質そうな細眼鏡をかけ、手にはグレーの手袋。髪は私と同じようなアッシュがかったブロンドで、体型はスーツの上からも分かるが、丈夫な筋肉が付いているようにはまるで見えない。余りにもひ弱そうなこの男が、何故ソルジャーの総括になれたのか不思議に思った。

「お会い出来て、光栄です。統括部門が出来たせいで、何かと忙しく……副社長に会えるのを楽しみにしておりました」

「異例の出世らしいな──まあ、新任おめでとうと伝えておく。報告書はタークスにと伝達していたのだが?」

「ヴェルド主任は今回の件で忙しく……ジェネシス追跡はソルジャー1stが中心になっているので、私が作成しました」

「セフィロスはまだジェネシスを追っているのか」

「はい。定期連絡以外、成果はまだ何も…タークスからはツォンをソルジャーのザックスに付かせて、調べさせています」

「セフィロスが戻ったら、私の所に報告に来るように言ってくれ。なるべく早くな」

「事件の時はセフィロスと一緒だったそうですね……ジェネシスが副社長の所に来た事に、何か心当たりは?」

成る程、こいつがわざわざ報告書を持って来た狙いはこれか。

「さぁ…? セフィロスは何と言っていた」
「副社長を人質にして、有利な立場に立とうとしたからだと──しかしジェネシスほどの男が何の準備も無しに闇雲に脱走したとは考えられない。それが今更、副社長を人質にと素人のような行動に出るのは腑に落ちないのです」

「成る程? しかし計画などは狂う事の方が多いだろう。ジェネシスの立場がそこまで追い込まれていると考えた方が自然だ」

私はこのラザードという男に、ジェネシスの目的が他でもない、セフィロス自身と会う為だったと思える二人の会話を伏せた。セフィロスもこの事は会社に報告していないようだ。聞いていたのはあの場にいたジェネシスとセフィロス、そして私の三人だけだ。セフィロスには何かある──この鍵を握っているのは私だけで充分だ。

「……分かりました。副社長が仰る通り、そのように解釈するしか今の所仕様がありませんね。我々には情報が少なすぎる──何にせよ、セフィロスが一緒で事なきを得ましたね。副社長とセフィロスが仲が良かったとは、内心、驚きました」

可も不可もない笑顔を浮かべながら誘導尋問のような会話をするこの男に、私ははっきり伝わるように侮蔑の笑みをしてやった。

「セフィロスと私は個人的に強いパイプを持っている。彼が色々と私の心配をしてくれるものでね。──ラザードくん、統括になったばかりで色々頑張っているのは理解出来るが、私の身辺調査など無用だ。私は神羅の副社長なんだからな」

その台詞を聞いてラザードが一瞬浮かべた微かな冷酷な表情を、私は見逃さなかった。

「──確かにその若さで統括にまで登り詰めた覇気はあるようだ。これからも頑張って定期的に報告を上げてくれ。面白い時間だった……もう下がっていいぞ」

「有難う御座います。私も副社長とこうして直接話が出来て光栄でした。また近々、お会い出来るのを楽しみにしております」

ラザードはスマートに笑顔を見せると、そつのない身のこなしで執務室を出て行った。
神羅は人材には事欠かないらしい。彼の内面に私と同じ"這い上がろうとする者"の野心を感じ、眉をひそめながらも笑いを止める事が出来なかった。





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あきゅろす。
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