[携帯モード] [URL送信]

NARUTO
三 

一人で出店を眺めて、ナルトは耳に届く音色がやはり懐かしいと感じた。

この祭りの光景も懐かしいと感じて、昔来たことがあったのか考えても思い出せなかった。

おそらくテレビとかで見るからそう思えるのだろうと考えるのを止めて商品をゆっくり眺めた。


頭の中では奈良に言ってしまった言葉が回って、ナルトは後悔してしまうが、やり直しなんてきかない。

聞き分けが良いようにしているけれど、本当はナルトだって奈良がどんな事をしていたのか気にはなる。

自分では遊ぶレベルが分からないから、尚更深みにはまってしまう。

奈良は大人なのだから、自分の知らない世界。

だから歯がゆく感じてしまう。

年齢も、中身も、生活も

なにもかも違うのだから。

本当は奈良と食べたかった綿あめ。

一緒に見たかった出店たち。

『・・・あほだ。』

折角奈良が自分に浴衣を用意して着つけてくれたのに、その人が隣に居ない事が寂しい。

都会と違って物陰になるものが無いから尚更暑い。

『・・・どっかで休もう』

何処にいても暑さに弱い自分が嫌になる。

木陰を見つけてナルトは夕暮れ空を見上げると、雲一つなくて夕日がきれいだった。

行き交う人の顔はみんな楽しそうで、あちこちから聞こえる笑い声の中に聞こえたもの。

『・・・どんだけだよ』

奈良を見かけたと話す若い女達の声に、舌打ちが零れた。

その声が嬉しそうで、奈良の浴衣姿の事を話していた。

気付いていないだけで、随分奈良の事を好いている事にナルトは自嘲的な笑みを浮かべる。

そんな話しすらに嫉妬してしまっている事が。


瞼を閉じても浮かんでくるのは彼の姿。

とくりと静かに脈打つ胸の鼓動。

――Never in all my life have I been so strongly attracted to any man


『――かんべんしてくれ』

どうしようもない気持ちを、どう処理していいのか分からない。

その言葉を簡単にいえる程、彼が軽い人間では無い事ぐらい理解している。

此処に連れて来てくれたこと、嬉しかった。

『・・・奈良さん』

そ呟いてナルトは膝に顔を埋めた。

過去なんてどうでもいい。

そこに自分は居ないんだから。

今の奈良を知ればいい。

面倒な事をしてくれてるだけ、自分は勝ってるんだから。

自惚れてしまえばいい。

自分は過去の人達より愛されてるって。


ふわりと香ったのは、嗅ぎなれた彼の香水。

『――・・・遅いよ、奈良さん』

「探しに来ただろうが」

頭を撫でながら言葉を返す奈良の声は少し低かった。

「何時まで顔下げたまんまなんだ?」

『泣いちゃうからやだ』

なんだそれ。

けれど涙もろいナルトだから、本当に泣くんだろうと奈良は感じる。

だからその身体を優しく包み込んだ。

「これならいいか?」

『ずりーってば・・・』

涙声で返すと彼はやっぱりクスクス笑う。

『綿あめ食いそびれた。たこ焼きも食いそびれたー・・・』

胸に顔を擦り付けながら訴えると、わかった分かった、と苦笑された。

「泣いてると何時まで経っても食えねえんじゃねえの?」

『泣いてないしっ!!』

がばっ、と顔を上げると、優しい笑みを浮かべてナルトを見る奈良。

『ずりーってば、ほんとずりーからっ!!』

そんな顔でみんな!奈良の顔を隠す様に手で覆うが、簡単に取られてしまう。

「どんな過去を聞いても、お前はあの言葉だけを信じてればいいんだ。」

『・・・知らない、そんなの。』

そっぽを向くと奈良はナルトの耳元に唇を寄せて囁いた。

「I think of you more than anyone」

『・・・っ』

かあ、と顔に熱が集中した。

「かお真っ赤」

『誰のせいだと・・・っ』

さあな。

ナルトを立たせて奈良は少し乱れた浴衣を直した。

「行くぞ。あと少しで花火になるし。」

『・・・ん。』

こくりと頷いて奈良の隣に立った。

――・・・I think of you more than anyone

誰よりも君を想う


本当に狡い人だと、横目で奈良を見ればまたとくりと胸が高鳴った。

『――・・・奈良さん』

「ん?」

けれど、ナルトはそん事はどうでも良かった。

『煙草吸う暇あるなら、もっと早く見つけられたかもね?』

「・・・うっせ」

不貞腐れた声でナルトの頭を脇に抱き寄せ締め付けた。

痛い痛いと暴れるナルトに、奈良はケラケラ笑った。




花火が始まる時間まで二人は飲み食いをして、開始時間が近くなってくると奈良は祭り会場から外れようとした。

『・・・奈良さん、花火ここじゃないの?』

「見やすい所あんだよ」

そのまま彼に連れて行かれて、山の中に入って行くと辺りはどんどん暗くなっていき、にぎわう声や音すら遠くなって行く。

「俺は毎年ここの祭りに来てんだ。そんでいっつもキバ達と話してる。」

立ち止まること無く淡々と話す奈良の言葉を聞きながら、ナルトは躓かないよう暗い森の中を歩いた。

「でも誰かを連れて来る事なんて無かった。ただお前は自然が好きだからって理由で連れて来たが、過去の事なんて忘れてた。」

『ありがとう』

過去なんて奈良からすればどうでも良かったのかも。

誰も連れて来た事が無い。

ナルトはそれだけで十分だった。

「悪かったな、今になって俺も言われた事に気付いた。」

――シカマルはいつか本当に大切な奴が出来た時、お前の過去が相手を苦しめて、後悔する日が来ると思うぞ。

――過去なんて変えられやしねえだろうが。大体俺はその日が来るなんざ思っちゃねーよ。


あの頃はそんなもの無いと思っていた。

無いまま時間が過ぎていって、今まで感じた事のない衝撃が走ったのはまだ新しい。


隣に立つこの子と出会うまでは。

『・・・まさか奈良さん、誰か妊娠させた事があるとか?』

「よし、今直ぐ拳骨してやる」

『いやいや!奈良さんの過去ってなんかもう・・・乱れてそうな感じがしたから!』

頭を押さえながら告げると、奈良は気まずい顔を浮かべる。

『まさか・・・ハーレム作って・・・だふっ!!』

「どこの貴族だ、それは・・・っ」

ごすん、と拳骨をされてナルトは涙目になった。

「ただ・・・まあ女には困って無かったし誘われる事が多かっただけだ。」

『良く聞く遊び人ですね。』

「なにいきなり敬語になってんだよ」

いくぞ。手を握って奈良は進み始めた。

『でも奈良さんが俺に遊びなのか本気なのかも分からないよ?』

「・・・分かれよ」

溜息を零して奈良は反対の手で頭を掻く。

「まあ、そんなの今から分かっていくもんだろ」

『奈良さんは余りそう言うの出さそうに無いよね。』

それも気付かれてるのか。

出さない代わりに違う所で出している奈良は、ナルトの観察力の高さに驚いてしまう。

鈍そうに見えて鈍く無かったり。

あれから数分歩くと開けた所に出て、ナルトの目は見開かれる。

『すっ・・・げー・・・っ』

満天の星空に、ナルトの頬は熱くなる。

きらきら輝く星たちを見上げて、首が痛くなることすら忘れた。

「ここからだと花火が独り占め出来んだよ」

『すごい!奈良さんこの空すげーよ!!』

笑顔で奈良に告げると、やはり連れて来て良かったと実感する奈良。

こんなに喜ぶ姿が見れるのだから。

奈良は腕を伸ばしてナルトの腰に腕を回して抱き寄せた。

『・・・ん?』

振り向いて首を傾げるナルトに、奈良は肩に顔を埋めるだけ。

『奈良さん、どうしたの?』

「ずっとしてなかったろ」

案外甘えん坊な事は、奈良には言わないでいるナルト。

きっと誰も知らない、本来の奈良の姿を。

自分だけの秘密にしておきたかった。



[前へ][次へ]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!