NARUTO
5
ナルトの熱は翌日になればすっかり下がり、奈良に礼を告げた。
本当に付きっ切りで看病してくれた事が、ナルトには嬉しかった。何だか特別な感じがして。
そして、テストが終わって海の日が近づいた頃にそれは返却された。
『・・・俺は天才だーっ!』
「うるせーナルトォッ!」
すぱーん、と用紙の束で頭を叩かれたが気にもしない。
『家庭教師ばんざーい!!』
「拳骨されてーのか、ウスラトンカチ・・・」
『お断りしまー・・・いっでーっ!!』
ごすん、と拳骨をされてナルトは頭を摩りながら席に戻った。
「なんぼよ?」
前田が尋ねると、ナルトは誇らしげにテストを見せた。
「――マジか」
『天才・・・マジ天才!』
95と書かれた点数に、前田は驚き眺める。
ナルトからはどんな人だか聞いていたが、あの英語が苦手なナルトをこんな点数にした家庭教師の凄さに驚く。
『あー楽しみー』
「くそ、俺だって海にいきてえ・・・っ」
ナルトはもう頭の中は海の事しか考えていなかった。
『ほんと、楽しみ・・・』
そして、この海の日が彼と過ごす最後の日になるのではないかという気持ちを抱えて。
*********
奈良は車で迎えに来たが、ナルトはドン引きしていた。
「・・・なんとなく分かる。」
『むり。海止めよう!ほんと止めよう!』
なんでこんな車で来るんだ!
どこから見ても高級車としか見えないそれに、ナルトは海に行くのをためらってしまう。
「仕方ねーだろ、俺のは今探してる最中だし余ってんのこれしか無かったんだよ。」
『先生ボンボンか、ボンボンの出身なのか!』
「なんだその生まれた国みたいな言い方!」
ぎゃいぎゃい騒ぐが、近所迷惑を考えて欲しい。
さっさと乗れ、と促してナルトは渋々乗り込んだが、どうしてかナルトは間違った発言をしてしまった。
『失礼いたします、助手席様・・・』
「お前、なんかどっかアホだよな。」
呆れた顔で告げるとナルトはむう、と頬を膨らませる。
静かな音で車は走りだし、高速へ続く道へと向かって走る。
が、ナルトは後悔することになる。
『むりむりむりむりむりっ!』
「うっせーな、事故んねーから安心しろって」
奈良は高速に乗ってから直ぐ、ナルトが感じたことの無い速度で走り出したことに驚き、メーターを恐る恐る見て更に驚愕した。
いくら直線だからって、160キロ出す馬鹿どこにんだ!
あ、隣にいたよ。
ひとり脳内でボケと突っ込みをして、ナルトは徐に携帯電話を取り出した。
『拝啓南の島にいる父上と母上様・・・』
「遺書のつもりかナルト!」
『だって俺死んじゃう!事故らなくてもショックで死ぬっ!』
涙目で訴えても、奈良は前しか見ていない。
何を狙ったのか、奈良は忌々しそうに舌打ちをした。
「邪魔くせえ、左に寄れってんだ」
『ひだ・・・っ』
前を見るとナルトはもう言葉を無くした。
前を走る車に蒙スピードで近づく奈良に、もうナルトの心臓は早鐘以上にバクつき、呼吸が苦しくなる。
「掴まってろよ」
『つか・・・ぎゃあっ!』
ぐおん、と加速しながら車線が左に寄るとナルトの身体は揺れて、数秒してすぐ今度は右にと移動する。
(怖い、怖すぎる!)
悪さをしていないのにカーチェイスをしているような気になって、ナルトは頭を抱えた。
すると頭に手が乗っかって来たのを感じて流し見ると、奈良は前を向いていたが運転する姿が普段と違うように見えて、またトクリと胸が鳴る。
「もう直線終わるから安心しろ」
『・・・出来ない』
「ここで出さないと混むんだって。もう少し我慢な。」
『――おやすみなさい』
ナルトは現実逃避しようと瞼を閉じれば、頬を抓られる。
『・・・痛い』
「寝たら連れて俺も寝ちまうかもな」
それはマズイ!目を開いて極力前を見ないよう窓の外を眺めたが、それでも怖い。
次から次へと車は通り過ぎ、カーブになると頭をぶつけた。
「なにやってんだよ・・・」
『誰かさんがスピード落とさないからですよ!』
はいはい、と苦笑を零して奈良はナルトの手を握る。
それには流石に焦ってしまう。
『なんで手なの!おかしいでしょうよ!』
「またぶつけたいのか?」
それとも前見るか?
そう言われてしまうとナルトはその握られた手に縋ってしまった。
自分よりも大きな手。
自分よりも長い指。
「・・・・・・。」
ナルトはぎゅっ、と掴むと、奈良は口端を笑わせていた事にナルトは気付かなかった。
車のスピードが落ち着くと、景色は段々変わっていき、海が見えてくるとナルトの気持ちが上がっていく。
波に反射する太陽の光はキラキラと輝いていて、引き寄せる波が気持ち良さそう。
『奈良さん今どんな車探してんの?』
「ワンボックスで床がフローリングのやつ。」
候補がいくつかあってなかなか車が決められない。
ナルトはこれでもいいじゃん、と思うがそうではない事も分かっている。
自分で探しに探して気に入った車を買う。
きっと免許を持っている人なら大抵はそう感じるんだろう。
今日は海の日の祝日とあって人が凄い。
ビーチにはあちこちパラソルが立ち、人の姿でひしめき合っている。
今は車内だから感じないが、外に出れば熱気が凄いんだろうな。
去年の夏休みは我慢出来なくて大きなビニールプールを買って庭で浸かっていた。
それを見たクシナは、まるで鰐みたいだ、と言われた。顎まで全部水に浸かり、そこで昼寝をしたのだから、そう言われても仕方が無い。
それを前田達に言えば入る入ると騒ぎ、しまいには水鉄砲の打ち合いになった。
あれは楽しい。
今年はどうなる事か。
「もうすぐ着くぞ」
『人で凄いだろうね』
そりゃな。
奈良は駐車場に入るとやはり高級車なだけあってか人目を引いてしまう。ナルトは慣れていなくて視線を下に向けた。
けれど奈良は止まらずそのまま進み、ナルトは不思議な顔で眺めていると、幾つかあるガレージの前で止まる。
『・・・なんで?』
「これ貸しガレージなんだよ。たまに居るだろ馬鹿する奴。」
なるほど、と納得した。
ガレージの中に入り、外に出ると照りつける太陽とその気温に項垂れる。
荷物を持ってシャッターを閉めると奈良の後に着いて行く。
奥にあるからなのかあまり人が居なくて良かった、と感じる。
しかも岩があちこちあって、ナルトは持って来て良かった、と感じた。
シートを引いて、荷物を置くとナルトは来ていた薄手のパーカーの前を開く。
「お前・・・白すぎねえか?」
『だって出さないから白いまんまだとおもうよ?』
だとしても普通なら焼けても良い筈なのに真っ白なのだから、奈良はある意味勿体無いな、と感じる。
『どーせ冬になれば元通りだし、今焼かないと勿体無いっしょ』
「まあ、そりゃそうだ。」
奈良も来ていたシャツに手を掛けて脱ぐと、ナルトはくらりとする。
引き締まった体には無駄なものが無くて、見た目に反して腹筋までもが付いているのだから羨ましい。
『いやー無いわーほんと無いわー・・・』
「・・・なにがだよ?」
不思議な顔でナルトを見ると、ぺたり、と奈良の腹に触れる。
『なにこれ、羨ましいんだけど。奈良さんって何でもそろい過ぎて腹立つわー』
「揃ってるってなんだ?」
『外見に中身に頭とこの肉体美?でもあの運転は女限定にすればいいよ。』
馬鹿か。額を軽く叩かれてしまうが、自分が言った最後の言葉にちくりと痛んだ。
それを気にしないようにズボンを脱ぐと、隣から笑い声を抑える奈良。
『どしたの?』
「いや、どうしてこれになったんだよ・・・っ」
ナルトの海水パンツはオレンジと黒。白のイラストが奈良には面白くて仕方が無い。
『いいじゃん、このマスクマン!!』
「もっとましなのあっただろ・・・っ」
腹を抱える奈良に、ナルトはそうかなーと唇を尖らせる。たしかに去年も笑われたが、そんなにおかしいなら買い換えようと決めた。
奈良はライトブルーと白を使ったエスニック柄。
軽い準備運動をして、荷物の中に手を入れて何かを取り出す。
「なにすんだ?」
『カニ釣り!するめ切ってきたの!』
目をキラキラさせながら伝えると、奈良は興味深そうに眺める。
『これにスルメつけて垂らしておくとカニ釣れんの!』
「へー、楽しそうだな」
いこういこう、とナルトは奈良の手を取って引っ張ると、彼は苦笑を零しながら着いて行く。
岩の間に凧糸を垂らして何度かゆすると、ずしりと重みが伝わってくる。
『もう来た!すげー!!』
引き上げるとカニがスルメを挟んでいる。けれど入れる物が無くて奈良が聞くと、そのまま海に戻すと言葉が返る。
『食べれないし、採るとしたらハマグリやアサリぐらいじゃない?』
「・・・潮干狩りの時だけじゃないのか?」
『海の中で足ぐりぐりしてるとたまに採れるよ。』
ぽい、とカニを海野中に離してまた紐を下げた。
今度は奈良が持っている紐が引っ張られて引き上げると、カニが食らいついていた。
「案外簡単に釣れんのな」
『うん、昔父ちゃんと競って負けたけど・・・』
その時はくやしかったなあ。思い出してもなんか悔しい。
奈良は一度戻って、まだ釣っているナルトを眺めた。
自分の身体が羨ましいとナルトは言ったが、いつも服の上からしか分からなかったがナルトの身体は、高校生の割に引き締まっていると感じた。
それでいて身体の形が良くて、後ろから見ても綺麗だと。
中世的な顔立ちをして、それでいて年相応に見えないのは、隠し切れない魅力が出ているからだろう。
「・・・・・・?」
ナルトが立ち上がると少しだけ身体が傾いたのが分かるが、パーカーを脱ぐと直ぐに海の中に飛び込んだ。
そのままプカプカ浮いてラッコのように腹に海水を掛ける姿が奈良には可愛く見えた。
黙って見ているとナルトはそのまま波に乗って離れて行っていることに気付いて奈良は立ち上がったが、ナルトがすぐに身体の向きを変えて戻って来る。
「いま流されてたろ・・・」
『いやーほんと危なかった。おれ一瞬寝ちゃってた!』
馬鹿が居る、目の前に一番海でやったらダメな事を平気でする馬鹿がいる。
奈良は胸の中で呟くと、ナルトは彼の手を取った。
『って事で奈良さん海入ろう!』
流されないように紐つけてもいい?
そう尋ねるナルトの頬を抓ったのは言うまでもない。
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